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ティナの家に住む

俺の傷を即座に癒したティナに、ルカが一礼する。


「申し訳ありません、ティナ様」


「これくらいならね。それにアニューの娘だもの、私の娘も同然よ」


 六英剣の中で二人だけの女性。そういう意味でもアニューとティナの仲はとてもよい。


 アニューの結婚を誰よりも祝福、だれよりも引退を涙したのは彼女ティナである。


「だからこうして、ここまで出迎えたんだから」


「そう言えば、私達が来るのを前もって知ってたようですが……」


「アニューのいる村の距離から、馬車の速度と襲い掛かる魔物と盗賊による遅れを想定して……」


「い、いえ、もういいです」


 自慢げに自身の知略を披露し始めたティナを、ルカが慌てて止める。彼女は話始めると長いのである。



「そう? じゃあお家で歓迎の用意してるから、早く行こう」


「お家、ですか?」


「そう。シノブちゃんは娘も同然って言ったでしょ? だから私の家で暮らすの!」


「へ……?」


 これは俺も想定外だ。


 察しの悪いアニューとライルだからこそ、誤魔化してこれたと言っていいのに、神略魔覗しんりゃくまそのギフトを持つティナと一緒となると、いつバレるか分かった物じゃない。


 できるなら遠慮したい待遇なのだが……


「ヴェルデもそれなら安心だって納得してくれてね! 補助金まで出してくれたんだよ?」


「ぐへぇ」


 ダメだ、既に補助金まで受け取っているとなれば、俺が断るとティナに迷惑がかかる可能性がある。

 もちろん、ティナとヴェルデによる独断なのだから、断る事も出来るだろう。


 しかし強固に反対すると、逆に怪しまれる可能性が高い。

 その彼女との同居の要請を断るなど、普通ならばありえない。


「あうぅ……お世話になりますぅ」


「え、わたしもいいの!?」


「シェリー!」


 シェリーちゃんがそう主張すると、さすがに彼女の母親が窘める。


 それにティナも珍しく困った顔をしていた。


「うーん、ごめんねぇ。貴方だけならともかく、ご家族を迎え入れれるほど私の家は大きくないし」


「そんなぁ」


「し、シェリー!?」


 少々厚かましいとも言える彼女の態度に、母親は顔面蒼白になっていく。


 だが俺は、ティナがその程度で機嫌を損ねるような人物ではない事は知っている。


「大丈夫ですよ。代わりに近くに一件家を用意してあるから、そこを使ってね? ご近所さんよ」


「ティナ様と近所ー!」


 バンザイして喜びを表明するシェリーちゃんに、汗を滴ながら頭を下げて恐縮して見せる母親。


 彼女の天真爛漫さは、貴族も集まるこの街では少々危ないかもしれないのは確かだ。

 だがその明るさは、むしろ微笑ましい雰囲気を作ってくれる。この長所は伸ばすべきだ。そこのところは兼ね合いと言う事になるだろう。


 そんなやり取りを経て、俺達はクランヘイムの街に足を踏み入れた。


 冒険者としての資格もなく、後ろ盾のない俺達が街に入るには本来ならば厳格な審査が必要になるのだが、今回はティナの知人と言う事と、俺が英雄の娘である事が利いていて、ほとんどノーチェックで入る事ができた。


 俺が通う予定の魔術学院は街の外縁近くにある。


 これは授業で危険な魔法を使う関係上、街の中心部に置けないことが原因でもあるらしい。


 英雄の住居にしては極端に小さく、質素な家。庭の広さも、馬が二頭入ればいっぱいになりそうなほど狭い。


 それはアニューの家よりもさらに質素な暮らしぶりが見て取れた。


 その隣には同じくらいの大きさの家が並び立っている。


「ここが私の家。ちょっと狭いけど我慢してね。となりがシェリーちゃんの家だよ」


「ここが……その、アニュー様もかなり……その……」


「言いにくいのは分かるけど……私も贅沢したくない心境と言うのがあって、その代わりヴェルデのお屋敷はすごいのよ」


 そりゃ、ヴェルデはこの国の王族兼研究者兼学園長なのだから、当然だろう。


 いや、冒険者として旅立った時に位を返上したんだったか。現在は魔術学院の学院長に収まっているはずだ。


 かつて国王だった訳だから、政治との繋がりも切れていない。頻繁に国の重鎮が相談しに来る事がある為、彼の屋敷は粗雑な物であってはならないらしい。


「ま、住めば都ってね。荷物を下ろしたら、ヴェルデの所に行くよ? 面倒な事はさっさと済ましちゃお」


 俺を家の中に押し込みながら、ティナは愛らしくウィンクして見せたのだった。

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