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生まれ変わったら

暗い、暗い闇の中から……俺はゆっくりと目を覚ました。

 覚ました……はずだった。

 開いた眼は、全く像を結ぶ事無く、世界がぼやけて歪んていた。

 それだけじゃない。手足もまるで言う事を聞かず、力が入らない。

 いや、手足だけじゃない。首も……身体全体が、まるで動かなかった。さらに匂いも衰えていた。

 自称神やつの言葉によると、俺は再びこの世界に舞い戻ってきたはずなのだが……声も出なければ、手足も動かない。


 ――何が起きたんだ!?


「ふぎゃああぁぁぁぁぁ(なんじゃこりゃあぁ)!?」


 その声すら言葉にならず、子猫の鳴声のような珍妙な悲鳴しか上げられなかった。

 やがて俺の顔を温かい何かで拭うような感触があり、口元に柔らかい何かが押し付けられる。

 俺は本能的にそれにむしゃぶりつき、そこから滲にじむ甘い何かを嚥下した。

 そして腹が満ちると同時に、再び眠りの中に沈んでいったのだった。

 何が起きているのかは、それから数日経ってようやく把握できた。

 俺は――赤ん坊として生まれ変わってしまったのだ。

 あの神が言っていた裏道。つまり蘇生させることは禁忌に触れるが、新生児として生まれ変わるなら有りという事だったのだろうか。



「おはよう、シノブ。今日は早起きなのね」


 目を覚ました俺に目聡く気付き、口元にはだけた胸を近付けてくる清楚な美女――アニュー。


 そう、かつて聖女と呼ばれた俺の仲間である。

 そして彼女がシノブと呼びかけているのは……俺だ。

 つまり俺は、かつての仲間の子供として生まれ変わってしまったのだ。

転生リーインカーネーション魔法は俺が遊び半分で作って広めた欠陥だらけの魔法である。

 だがこの魔法、掛けた本人も術の成功しか確認できず、しかもどこに転生するかも分からないという、どうにも微妙な効果を持った魔法だった。

 つまり、俺がかつての仲間のファング・オオガミである事は、アニューすら理解できていないという事になる。


 だからこそ、無防備に俺に乳房を押し付けてくる。もし彼女が俺だと知っていたら、まずありえない行動である。

 下手したら張り手の一つも飛んできてただろう。彼女の貞操観念は中々に厳しかった。


 かつてライルとよばれる仲間と本気で喧嘩した時飛んできた神罰ラツィオという攻撃魔術は、本気で死ぬかと思った物だ。



「ふぎゅううぅぅぅ(そんな趣味はねぇ)」


 俺は呻き声を上げて、食事を拒否した。

 まだ首を動かすほどには筋肉が付いていないのだ。

 それに、いくら俺でもかつての仲間の胸に吸い付くほど、分厚い面の皮は持っていない。


「うぎゅう。ふあぁぁぁぅ(やめろ……やめてくれ!)」


「あら、お腹はいいのかしら? シノブは小食なのね。少し心配だわ」


 俺は自身が赤ん坊に転生してからこの方、碌に食事を取っていない。

 いや、アニューは正直非常に美しい女性ではあるのだが、俺と言う自我が目覚めてしまったのだから仕方ない。

 これが全く見ず知らずの女性だったら、素知らぬ振りをして吸い付いていたかもしれない。

 かつて死線を共に潜り抜けた、仲間なのだ。

 ついでに言うと、彼女の夫はあのライルなのだ。

 共に戦う仲間でもあり、ライバルでもあり、そして俺が到る事ができなかった『勇者の姿』を体現した男。



 そんな訳で、俺は自発的に断飲状態に入っていったのだった。



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