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神との

それは明るくも有り、暗くもあるなんでも不思議な空間だった。

 白とも黒とも認識できない、それでいて赤と言う訳ではない色彩に視界が埋め尽くされ、天地の区別も空間の把握もできない。それに匂いもしない。

 その俺は能力と言えるものは無いに等しい。たが嗅覚だけは鋭かった。この嗅覚で渡り合って来ていたからだ。


「はーろーぅ」


「誰だっ」



 突如聞こえてきた間延びした声。

 その声に誰何の声を飛ばすが、どこから響いてきたのか判別がつかない。


 だが声の相手は、自ら俺の目前に現れた。

 まるで白と黒の雲を掻き分けるかのように小さな人影が正面に現れる。

 目の前に立っているというのに、その気配は全く感じ取る事ができない。

 匂いはしないが顔は見えている。


 顔は見えている。が怪しい匂いはしなかった。敵ではないことはわかった。

「誰だ、お前は……」


「わたしかぃ? わたしゃ神様だよ」


 神を名乗るわりには威厳を全く感じさせない声で、そう名乗った。

 いや、その声の質すら記憶に残らない。美しい声と言う事だけは分かるのに、印象に残らないのだ。


「これはどういう事だ? なぜ記憶できない……?」


「あー、それ? わたしのせいです。なにせ神様ですからねぇ。」


「なに?」


「いんや、こっちの事だから気にしないで。つまりわたしがそういう風に認識を阻害してるとでも思ってくれればいいのですよ」


「この空間もか?」


「そりゃもちろん」


 神を名乗る存在を目の前にして、認識を阻害された。

 本来なら欠片も信頼できないその事実を、俺はなんとなく信じる事にした。


 なにせ俺は死の淵に居たのだ。

 死んだ後なら神様と会ってもおかしくないじゃないか。


「たしか俺は死んだはずでは?」


「ン、そですね。間違いな、これ以上ないくらい完璧に、死んでます!」


「そうか」


 元仲間のあれ……、そうだルカだ。彼女は死なない限りは回復させるほどの治癒魔法を使いこなす。


 魂は常に循環するものであり、不自然に留める事は教義が許さないのだと言っていた。

 そしてルカは、その術式を知らない。つまり俺は、生き返る事は不可能だった。


「そうか、という事は俺も魂の円環の中に戻るという訳だな」


「まー、そうとも言えますけどねぇ」


 聞こえてくるセリフは実に意味深な含みを感じさせた。


「なんだよ。なんだか蘇生できそうな事言って」


「実のところ、蘇生は不可能です。ですがそれとは違う手段がない訳ではないですので。なかなか優秀なお仲間をお持ちで」


「は?」


 疑問符を浮かべる俺に、神は口元に手を当ててムフフとイヤらしい笑いを浮かべた。


「いいえ、別にぃ。ただわたしから言えることは一つです」


「なんだよ?」


「新たな世界へようこそ! 歓迎してやろう、盛大にな!」


「ハァ?」


 突拍子の無い事をぶちかました神に、俺は思わず言葉を無くす。


 だがその直後、急激に眩暈が起きて目の前が真っ暗になっていく。


「な、なんだ?」


「そろそろ術が始まったようですね。いや、こういう裏道突いてくるのはわたしも好きですよ」


「だから一体何が!?」


「元の世界に戻るんですよ。まぁ、成功率にちょいとばかり干渉しておきましたけどね」


「だから――」


「あ、干渉ついでに一つだけオマケしておきますねぇ」


 意味不明な事を呟き続ける、自称神。


 俺の意識はそこでプツリと途切れて、闇の中に沈んだのだった。

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