縁談話を持ちかけられる
ルカの告白から数日が過ぎた。
俺としても、あの子どもが成長し俺に好意を寄せられるというのは、悪い気はしない。
だが、それもこんな身体でなければ、という前提があればの話だ。
銀の髪と色違いの瞳は神秘的な雰囲気すら醸し出し、乳児時代の拒食症によって育まれた(?)虚弱体質は、触れれば壊れそうなほど儚く可憐な雰囲気を纏わせている。
細く華奢な手足は庇護欲を刺激し、アニュー似の風貌は将来性を窺わせた。
転生前の俺は髪も風貌も平々凡々とした男だったので、今の姿は微妙な優越感と困惑をもたらすのだ。
そんな俺が彼女の理想であるファングだと知られるのも、一悶着起きそうな事実である。
こうして知られてはならない存在が、また一人増えた事になる。
「………………」
その日、帰宅したライルは不機嫌極まっていた。
俺やアニューが挨拶したら愛想よく返すのだが、すぐに眉間にしわを寄せて黙り込んでしまう。
その状況は食事の時間に入っても続き、俺の食事の世話をするルカなどはおろおろと狼狽するばかりになってしまっている。
生前に知っていたライルはその人当たりの良さと性格の穏和さから、このような表情を見せる事はほとんどなかった。
少なくとも、生まれ変わってからのライルも、こんな態度を見せた事は一度もない。
俺がどれだけ邪険に扱っても、ニコニコと笑っているか、悲しそうに落ち込んだりする程度だったのだ。
その状況を見かねたのか、アニューがライルに声をかけた。
「アナタ。どうしたの? すごく機嫌が悪そうだけど……」
「ん? すまん。顔に出ていたかな?」
「ええ、とっても」
「すまないな。少し不愉快な案件が持ち上がったもので……いや、君達も他人事じゃないか」
「え?」
アニューも他人事ではないという事は、家族ぐるみの問題が持ち上がったという事だろうか?
そんな考察をしている間にも、ライルは言葉と続けていった。
「今日は都の方から連絡があってね」
「都から? となるとカエサル王子からかしら?」
「ああ。でも彼も今は戴冠して王様だからね。きちんと陛下って呼んであげないと」
「そうだったわね」
「そのカエサル王も今年で19歳だ。そろそろ成人となり、王妃の問題も持ち上がってきていてね」
俺が死んだ時、カエサル王子は王家の傍流に生まれた、ルカと同じくらいの子供だったはずだ。
それがもう19歳と聞くと、なんだか感慨深いものがあるな。
しかし王妃か。確かにこの荒廃した王国に於いて、国王の後継者と言うのは大きな意味を持つ。
なにせ、いつモンスターに襲われるかわかったものではないのだ。その危険を考えると、すぐにでも後継者を用意したい気持ちもわからないでもない。
「その王妃の第一候補にね」
「うん」
「シノブが選ばれたらしいんだ」
「ブッフォ!?」
俺は会話が分からないふりをしてお茶を啜っていたが、そこに唐突に名前が飛び出して来て思わず吹き出してしまった。
王妃候補? 俺が?
「正気?」
「だよね。ボクもその話を最初に聞いた時は、正気を疑ったよ」
俺のたどたどしい反論も、すでにライルが済ませていたらしい。
「ひと月くらい前に、一度シノブの肖像画を見せた事があったんだけど、その時すごく気に入られてね」
「おーさま、しゅみなの?」
「いや、そこじゃなく……シノブの目がね。その色違いの神秘的な目が気に入ったらしいんだ」
それを聞いてアニューは然もありなんとばかりに頷いている。
確かにそう言った『人に無い特徴』に憧れる気持ちに理解できる。大体十四歳くらいによく罹患する心の病でもある。稀にそれを引き摺ってしまう存在もいるらしいが……そうか、そういえば奴を庇護していたのは、英雄と呼ばれる規格外の連中だったな。
「歳もシノブと少し離れているけど離れ過ぎってほどじゃない。十年もすれば適齢と言ってもいい、だってさ」
「それはふざけた話ねぇ」
「だよねぇ」
気のせいか、アニューの言葉遣いも怪しい感じに荒れてきている。
「俺たちから天使を取り上げようだなんて……国、滅ぼそっかな?」
「それもいいわね」
「いやいや、よくないですから! 正気に戻ってくださいよ、ライル様!?」
物騒な事をボソリと呟く二人に、慌てて口を挟むルカ。
がんばれ、この二人は俺の事になると正気を失うんだ。君の良心だけが頼りだ。
「でもルカ。シノブを取り上げられたら、君もシノブと離れ離れになっちゃうんだよ?」
「うっ、で、でも……」
「確かにシノブは貴族位は継いでいないけど、俺たちの功績が功績だからね。反対する貴族もかなり少なかったらしい」
「シノブを取り込めば、私たちとのパイプを強固なモノにできるという考えもあるのでしょうね」
確かに六英剣二人の娘を妻に迎えるとなれば、反対する貴族は少ないだろう。
なにせライルは元より、アニューですら単独で一軍に匹敵する英雄である。
その娘である俺にかかる期待はもちろん、親である彼等と縁戚を結べるという事実が破格の価値を持つ。
「それにそれだけじゃないんだ。他にも問題は合ってね」
「というと?」
「シノブちゃんだよ。彼女のギフトも嗅ぎつけられてた。つまりシノブの侍女として召し抱えると申し出てきたよ」
「それは……」
マリアが珍しく口籠る。
彼女は優秀なギフトを持っているとは言え、しょせんは一般市民。それが次期王妃の侍女に召し抱えられるなど、ありえない話だ。
無論これは建前で、やがては戦力として利用されるか、王族の護衛にという魂胆は透けて見える。
それでもこの辺境の村で、村娘として人生を終えるよりは遥かにいい。もしくは長距離射撃のギフトに目を付けられ、兵士にされるか。
「このままだとあの子は兵士として召集される。それを考えると、この申し出は悪くない。だけどそれは、シェリーを手放す事に繋がる」
「権力闘争に利用される事請け合いね」
「まず間違いなくそうなるよ」
「私は反対ね」
「俺も反対だね」
二人の意見が一致したところで、揃って眉間に皺を寄せた。
本題穏やかなはずの夕食の場が、一気に冷え切った瞬間だった。




