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頼み事

この身体に転生して身に付けた必殺技の一つ、上目遣いでライルを見つめる。

 そんな俺をライルは困ったような表情で見下ろしていた。


「そのお願いは……聞けない」


「なぜ? パパはわたしのお願い、聞いてくれないの?」


 ベッドの上で半身を起こした俺の頭に、ライルの硬い手の平が乗せられる。

 その硬さは、日々のたゆまぬ修練の証でもある。


「シノブはまだ小さい。体力もないだろう? それに、身体も弱い。そんな状態じゃ、剣を学ぶのは難しいんだ」


 ライルが言う通り、この身体は病弱で、体力もなく、筋力もない。

 この身体では剣を持ち上げる事すら怪しい。例え持ち上げられたとしても、振り続ける事はできないだろう。

 つまり今の俺は、剣術の入り口に立つ資格すらなかったのである。


「どうしても、ダメ?」


「う……どのみち身体ができていない状態じゃ、剣を教える事はできないよ。そうだね、五歳くらいになれば手足も伸びて剣を振れるようになるかもしれない。だからそれまで、シノブは体力をしっかりつけておくんだ」


「あと二年……わかった!」


 俺としては一刻も早く、剣を学びたい所ではあったが、焦って身体を壊しては元も子もない。


 コイツの言う通り、体力を付ける事を最優先に考えておいた方がいいだろう。


「後、無茶な事をしたのは後でお説教だからね? シノブは怒ると怖いんだぞ」


「ママ、おこってた?」


「それはもう。きっとこれまでにないくらいの雷が落ちるぞ」


「うへぇ」


 精一杯のしかめっ面でライルはそう告げてくる。

 笑いながらも背筋の凍らんばかりのプレッシャーを放ってくるアニューの恐ろしさは、よく知っている。

 ライルと何度も喧嘩した時の怒りようは、ちょっと言葉にできないほどだった。

 ちなみにそのミッションは、ルカの鉄壁の防御によって失敗している。


「今はシェリーちゃんの様子を見に行っているから、もう少ししたら戻ってくるよ」


「ミシェルちゃんを」


「無茶をしたのはダメだけど、あの子を守ったのだけは褒めてあげよう」


「傷痕とか……大丈夫?」


「シノブの体に傷跡を残すような真似はアニューはしないよ」


「わたしじゃなくて、シェリーちゃん」


「ああ、うん。大丈夫だよ。そのためにアニューがついているんだから」


 シェリーも女の子だ。この歳にして傷跡を残すのは少し可哀想である。

 アニューの治癒魔法で完治できるのであれば、それに越した事は無い。


 俺が安堵の息を漏らした時、部屋の扉が控えめにノックされた。


 細く開いた隙間から、アニューが顔を覗かせる。


「あら、シノブはもう目を覚ましたのね」


「うん。傷を治してくれて、ありがとう」


「キチンとお礼を言ったのは褒めてあげる。調子はどう?」


「大丈夫、ぜんぜん痛い所、無いよ」


 なかば食い千切られていた左腕も、問題なく動く。さすがはアニューの神聖魔術だ。


「そう、よかった。じゃあ遠慮なくお説教できるわね?」


 ニッコリと、素晴らしい笑顔を浮かべながらそう尋ねてくるアニュー。言葉は疑問形だが、有無を言わさぬ迫力がある。


 俺は彼女に、コクコクと頷いて、返すしかできなかったのである。

 あれから数日。俺もシェリーちゃんも、傷跡一つなく快復していた。

 お互いに無事を喜び合い、改めて自己紹介をして握手する。俺がこの身体になって、初めて得た友達の誕生だ。


 そして俺達はお互いに三歳。つまり洗礼の儀が待ち受けていたのである。

 無論村中の子供達が受ける儀式である。大仰な準備などは一切必要ない。

 それでも、子供の晴れの舞台とあって、多少は着飾る風習があったのだ。


「という訳で、シノブちゃんはこっちのドレスが似合うと思うのよ」


「いや、アニュー。シノブは身体が丈夫じゃないし、病み上がりなんだ。あまり負担になる衣装はよくない。こっちのミディ風の衣装の方が――」


「ダメよ、それじゃ手を挙げたら胸が見えちゃうじゃない」


「まだ子供だから気にする者なんていないだろう?」


「いや、わたしは普通にシャツとズボンで……」


「ダメ!」


 という風に、ほぼ連日に渡って衣装合わせが行われたのである。

 子供にとっては遊べない方がストレスになると思うのだが、親達の暴走は止まらない。

 俺としても一刻も早く体を鍛えたいところなのに、こうして拘束されているのだ。

 そんな期間が数日続き、ようやく洗礼の儀式がやってきたのだ。



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