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仲間の背中

左半身を血に染めた姿に、幼いながらも鬼気迫る物を感じたのだろう。コボルドたちは一瞬、たじろいだような仕草を見せた。

 コボルドは元々、モンスターの中でも最下層に位置する実力しかないのだ。


 それでも気を取り直してこちらを取り囲み、襲い掛かる態勢を取る。

 その動きに呼応するかのように、こちらも姿勢を下げて対応した。


 互いに飛び掛からんとするその刹那――俺達の間に飛び込んでくる影があった。


「俺の娘に何してやがるうぅぅぁぁ糞犬!」


 その光は圧倒的質量と破壊力を持って、コボルドの一匹を跳ね飛ばし、粉々に粉砕した。

 俺達を背に雄々しく立ち塞がる背中は、俺の目指す英雄の姿そのものだった。


 それは駆け付けた現世の俺の父、ライルだったのだ。


「――パパ?」


「無事か、シノブ?」


「う、うん――後ろ!」


 無造作に俺達に背を向けるライルの背に、コボルドたちが襲い掛かっていった。

 それも当たり前の話である。殺し合いの場で堂々と背を向けるなど、本来ならばありえない。

 だがそれをしても問題がないほどに、ライルとコボルドの間には歴然たる実力差があったのだ。


 肩口に噛み付いたコボルトを全く意に介さず、俺達の無事――ではないが、まだ生きている事を見て取り、安堵の息を漏らす。


 それからおもむろにコボルドの頭をあいている左手で鷲掴みにして、頭蓋を割り、地面に叩き付けたのだ。


 本来なら柔らかく受け止めるはずの草叢に叩き付けられたコボルドは、しかし、ありえないほどの勢いで砕け散った。


 頭部を粉砕されたコボルドがびくりと震え、息絶える。


 ここに来て、ようやくコボルドは実力差に気付いたのだろう。僅かに目配せをして一斉に逃亡を企てはじめる。


 突如、光の壁が周囲を囲い、コボルドの逃亡を阻んだのだ。


 アニューの使う、神聖魔法の光神壁ホーリージェイルアフターという魔法だ。神聖力によるエネルギーの力場で檻を作り、敵を封じ込める魔法である。


 ライルほどの身体能力を持たない彼女は、離れた場所からその魔法で敵を封じ込めたのだ。


 いつも通りの、にこやかな笑顔を浮かべたまま近付いてくる彼女は、しかしいつもとは違う迫力を感じさせた。

 半身を血に染めた俺を見て、その笑みは一層深い物になった。背後に鬼が出現したように見えた。


「マ、ママ……」


「大丈夫――じゃないわね。シノブ、ちょっと待ってなさい」


 一言そう言い捨てると、即座に魔法を発動させ、淡い光が俺と少女に纏わり付く。


 見る間に傷が塞がったのを見て、ようやく俺はシノブが治癒魔法を使ったのに気付いた。


 彼女の魔法は、高速詠唱のギフトの影響もあって、誰よりも早く発動する。

刀治癒魔法【刀癒ブレイターシュルエン】がある俺でさえもいまではこんな子供なので扱えるわけがなかった。


「残りのコボルドは2匹だけね?」


「うん」


「それじゃ、あなた。お願いね?」


「ああ、まかせろ。うちの娘に噛み付いた駄犬は地獄でしっかりと躾けてもらわないとな」


 怒りだけで草原が裂け、下の地面が剥き出しになった。ライルの剣の威力を、十二分に思い知らせるに足る一振りだ。


「ガ、ガルル――」


「ワゥ……キャウン」


 生き延びたコボルドは股の間に尻尾を挟み込み、怯えたように毛を逆立てていた。

 無論、そんな姿を見せた所で、ライルは容赦するはずもなかった。

 咆哮にも等しい雄叫びを上げて斬り掛かり、まさに鎧袖一触に斬り倒し、叩き潰し、蹂躙していく。


 今の俺では、かつてのライバルとは呼べない――『戦士』の豪快な戦いっぷりだった。


 それを見て俺はつくづく思い知る。あの位置に辿り着くために、俺もまだまだ鍛えねばならない。


 俺は前世でオオガミ流派を極めてはいた。だがそれは俺が望んだ姿ではない。

俺の師匠の教えは

【流派を極め、更なる高みへ……おのれの限界を超え、全ての技を血肉としろ。】


 昔の俺はそれを目指したが出来なかった。だからこそライルのあの姿が、俺がなりたかった姿だ。

 その近道はやはり、奴に師事する事から始まるのだろう。


 そこに考えが到り、ようやく俺は気を抜く事ができた。

 その直後、視界が真っ黒に染まっていく。


 傷は既にアニューが治したはずなのだ。それなのに――?


「あ、シノブ。かけた治癒魔法は基礎的なモノだから出血まで回復させきれてないの。だから今はゆっくり休みなさい」


「な、んで……」


「強引に組織を再生させると、色々体に悪い事が起こる例もあるのよ。だから、できる限り自力で治ってもらうのよ」


 そこまで聞いた所で、俺の意識はぷつんと途切れた。


 目が覚めた時、俺は自室に運ばれていた。

 そばにはライルがついていて、シノブの姿は無かった。

 そしてシェリーの姿も見当たらない。


「お、目が覚めたかい、シェリー」


「……パパ」


「アニューも、ああ見えて地味にスパルタなんだからなぁ。リフレッシュくらい掛けてやればいいのに」


 リフレッシュは欠損部位すら治癒してしまう治癒魔法の最上級のものだ。

 だが以前からアニューは必要最小限の治癒の術のみを施し、自力での治癒を推奨する傾向があった。


 これは過剰な治癒魔法の結果、癒された部位とその周囲の部位になんらかのズレが生じて、逆に微妙な障害を残す可能性が示唆されていたからだ。


「でも、ちゃんと治してくれたでしょ。悪くいっちゃダメだよ」


 アニューは決して、怪我人を見捨てたりしない。

 治せる傷は最後まできちんと治す。

 より安全を期しているためにリフレッシュを控えているのに過ぎないのだ。

 それはもちろん、ライルだってよく知っている。コイツが珍しくアニューに愚痴をこぼしているのは、俺が――最愛の娘が怪我をしたからなのだ。


「ああ、それは知っているとも。別にママを責めていた訳じゃないよ」


「うん――そうだ、パパ。お願いがあるんだけど」


 この三年で充分思い知った俺の必殺技、『上目遣おとこごろしい』でおねだりしてみる。

 案の定、効果は抜群。ライルはあっさり陥落した。


「なにかな! パパ、シノブの言う事なら何でも聞いてあげるとも!」


 珍しく『お願い』をしてきた娘に、ライルは無駄に張り切った答えを返す。


 勢い込んで乗り出してきたため、こちらが引いてしまったくらいである。


 俺は少々仰け反りながらも、媚びた態度を崩さず、言葉を繋いだ。


「わたしに、剣を教えて?」


 その言葉を受け、ライルはハトが陽電子砲を食らったような顔をして見せたのだった。

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