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幕引き

それは俺が死ぬ間際のこと……下手をうち幼子を守ったことで俺は死に直面していた。


「死なないで!」


 顔中がぐしゃぐしゃになってそのエルフの幼子は叫んでいた。

 小さな手は、倒れた俺の胸に押し当てられている。

 そこからは、止めどなく血が流れ出し、腹にまで届く切り傷からは内臓も一部はみ出している。さらに長年愛用していた東国の刀であり、最高鍛治師が造り上げたミスリルの虎牙さいがはもう折れて使用不能であった。


「死んじゃ、ヤ……ファング様!」


 青年は幼子の涙を左手で拭おうとして……断念した。

 すでに左の腕は消滅していたからだ。

 唯一残った右腕で少女の頬をぬぐう。涙の代わりに、べっとりと血が塗り付けられてしまった。

 その血は自分の物であり、同時に倒した敵の物でもあった。

 青年の視界の隅には、彼が倒した魔物の死体があった。


 彼等の中で唯一、この少女は青年の手当てに駆けつけたのだった。

 更に別方向に手遅れで生贄になり、息絶えた子供達と、その元凶になった神父の姿もあった。


「しん……配する……な、大……丈夫ダから」


 大丈夫なはずがない。青年はすでに己が死を覚悟していた。

 それでも大丈夫だと宣言した理由は一つ。


 この場にいたはずの、彼の仲間が姿を消しているからだ。


 常に正解を引き続け、賢者とまで呼ばれた少女。その彼女が姿を消している。

助けを呼びに行ったのだ。俺がそう命じたから。

 彼女は魔法は得意ではあるが回復魔法はからっきしだった。

 それでも一般の者よりは達者ではあっただろうが、死に瀕した青年を助けるほどの力量は無かったはずだ。


 だからこそ、彼女は助ける事をできる者を呼びに、この場を離れた。離れさせた。




「ぐぅ……だから……大丈夫、だよ……」


 血を吐くほどの労力を絞り出し――実際に多量の喀血を行ったが――少女を慰める。


 おそらく自分は死ぬ。万が一つの可能性に賭けて仲間が助けを呼びに行ったのだろうが、間に合わない事はほぼ確実だろう。


 だからこそ、この少女を安心させたかった。



「俺――は、死な……ない、から……だから……悲しい……時ほど……笑え……わか……たな」



 守れない言葉。決して言ってはならない約束。


 それを残して、青年――剣豪と呼ばれ、一度地球より転生した勇者の一人、ファング・オオガミは……死んだ。



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