いつもの儀式
※この物語はホラーです。
グロテスクな表現などありますので、
苦手な方はご遠慮ください。
※この物語はフィクションです。
登場人物や出来事など、ずべて架空の話です。
彼の名前は山田満男である。
推定年齢50歳後半。
ボリュームたっぷりの白髪で、顔のしわが深いのが特徴的である。
大きなメガネをかけている。
職業は田舎大学の語学の教授。
勉強ができない学生を最も嫌い、「これが解けない奴は死ぬしかない」というような暴言をよく口にする。彼の講義は学生の間でとても不人気。
できれば満男の講義は履修しないようにしている学生が多い。
趣味は読書と、人に言えないような趣味が1つある。
そんな山田満男の日課は朝2時に起床することから始まる。
今日も彼は朝2時に起床し、白装束に着替え、下駄を履き、近くの口兄神社へ向かって歩き出す。
まだ外は真っ暗く、人気はまるでない。
また、春先とあって結構な寒さだ。
満男は神社の長い石の階段をゆっくり、ゆっくりと登る。
毎日の日課だから、慣れているのだろう。
この長い階段を登っても、息ひとつ切らさない。
普通、50過ぎの男がこの階段を登ったら必ず息を切らす。
満男は鳥居を潜らず、鳥居の横から境内に入る。
そして、すぐ近くの太い幹の古木に近づき、懐からわら人形を取り出した。
わら人形を古木に押し付け、錆びた釘を人形の胸に刺した。
そして、コーン、コーンと一定のリズムで金槌を使い釘を打ち始めた。
釘が古木に埋まらないように軽く叩く。
それはまるで、人形が早く死んでしまわないように気を使っているような、
そんな不気味な優しさだった。
しばらく打ち付けると、満男は1枚の写真を取り出した。
その写真には1人の女性の顔が写っていた。
その顔写真をわら人形の、ちょうど顔あたりに貼り付けた。
満男の目は大きく開いた。
彼の白髪が大きくなびき、金槌が勢いよく釘を叩いた。
カーンっ!!カーンっ!!
暗い神社に、釘を打ち付ける音が鋭く鳴り響いた。
満男の動きは激しくなる。
何度も叩きつけても、釘は古木の幹に1mmたりとも深く刺さっていかなかった。
これは呪いのせいなのだろうか?
「ひゃ、ひゃひゃひゃひゃー!!」
満男は興奮し、一声を上げた。
満男の額から、大粒の汗が飛ぶ。
「死ねっ!」
満男が渾身を釘に叩き込もうとした時だった。
満男のメガネに人影が写った。
満男は切れよく後ろを振り返った。
「だ、誰だっ!?」
満男は焦った。
なぜならば、この儀式は他人に見られてはならないのだ。
他人に見られたら、警察に通報されるどころか、満男自信が「逆呪」にかかり、自らが呪われてしまうのだった。
「そこにいるのは誰だっ!」
満男の鼓動は高鳴った。
もし、誰かに目撃されたら、その人を殺さなければならない。
つまり、直接、自分の手を汚さなければならない。
満男は真っ暗な茂みを睨んだ。
汗が頬を伝って流れ落ちる。
サワサワサワ…
動く影があった。
やはり人間の影だった。
手が見えた、確かに人間の手だ。
満男は一心にその茂みに身を投げ行った。
そして、そこで満男の目の前には服を着ない裸の人間がいた。
「っ!!」
満男は震え上がった。
叫び声さえ出なかった。
木の枝にロープをかけて首吊り自殺を図った死体だと思った。
しかし、全身が緑色で、地面に足をつけて立っていた。
そして、わずかながら両手がうねうねと動いている。
そして不気味なほど無表情だ。
死体なら、動くことはありえない、、、
かと言って、直感だったがこれは人間ではないと確信できた。
満男の恐怖は最高潮に達した。
そして、一目散に逃げ出した。
茂みから真っ先に駆け出し、石の階段を転げ落ちた。
「わっ、わぁぁぁぁー!!」
と情けない悲鳴を出して、満男は額から血を流して家まで走った。
そう、山田満男の人に言えない趣味とは、誰かを呪うこと。
そして、山田満男の特技は、人を呪い苦しめること。