3 『ディル殿はついでです』IF
「あの、フェリシアさんにお願いがあるのですが」
「はい、なんです? あ、名前は呼び捨てにしてもらってもいいですか? あと言葉もそう硬くならないでくださいです……私もその方が」
「そうですか? フェリシアさんが言うのであれば。それでお願いが――」
ベルトラの願いだと? ……ふむふむ、少々興味があるな。
「――ッ!? フシャー!」
うお! すごい威嚇された! これ以上近づいたら噛み付かれそうな勢いだ。
「――エリンちょっと耳をこっちに」
「ん? な~に~?」
「……ゴニョゴニョ」
おいおい……何を企んでおるのだ。
「ん! わかった。――ねぇねぇダリ爺、ちょっといい?」
「あん? 何――」
「ごめんね! スリープ!」
は!? いきなり睡眠魔法だと!?
「じゃぁあ? ……ごふっ! ……ぐが~」
おいおい……爺さんの奴、頭から倒れたが大丈夫なのか!?
い、いやそれよりも――。
「そんでもって~ディルもスリープ!」
やっぱり我輩にも睡眠魔法をかけてきやがった!!
「っ……く~か~」
「え? え? お二人とも急にどうしたのです!?」
「これでよしっと、ベル~ダリ爺とディルを寝かしつけたよ~」
寝かしつけただと? ……チョッハハハ、馬鹿め! 爺さんが睡眠魔法をかけられたのを見てとっさに我輩が耐性魔法をかけておったのに気がつかなかったようだな。
が、エリンの魔力が我輩よりも高いせいで中途半端に耐性魔法が発動してしまって意識だけはっきり残っておるが体がまったく動かん……まぁよいこのまま寝たフリをして様子を伺おうとするか。
「ありがとう、エリン。私とした事が先に2人を眠らせないといけなかったわ、さすがにダリル様とディル殿が起きている時に聞かれては困る話だしね」
我輩達が起きている時に聞かれては困る? ……何故だろう……ものすごくいやな予感がするのだが。
「それでフェリシア、お願いなんだけど」
「は、はい」
「あの触手を出してほしいの」
――っベルトラにそんな趣味があったのか!?
「え!? え!? いっいきなりなんです!? まさかベルトラ様……そんなご趣味が……」
「え……? あ、違う違う!! 勘違いしないで! あの触手で二人の体を見てほしいの!」
何だ違うのか、残念だ……じゃなくて!! ベルトラの奴何を言い出すのだ!?
我輩の体を調べる? 何故そんな事をする必要が!?
「えと……ディル様とダリル様の体をです?」
「はい、フレイザーとの戦いは万全にしときたいの。ダリル様は元気そうにしてるけどやはり先日の戦いの事で体調が気になるから……それで触手の事を話したら二人は絶対に嫌がるでしょ? だから寝かしたの」
当たり前だあんなの絶対に嫌に決まっておる!! ……ん? ちょっと待て――。
「なるほどです……あれ? ダリル様はわかりますけど、どうしてディル様まで?」
そう! それ! 我輩は怪我も病気もしておらんぞ!?
「ああ、ディル殿はついでです。一応主力ですし」
我輩は爺さんのついでかよ!! 納得いかん!! てか一応主力ってなんだよ!
「あ、でも着ているものを脱がさないといけないんじゃないの? また溶けちゃうんじゃ?」
はっ!?
「あ、そうですね。まずはダリル様を診ますから、お願いします」
「はいは~い――ぽいぽいっと」
ああ……爺さんがどんどんひん剥かれていく……。
「では、診ますです」
ああ……爺さんがどんどん飲み込まれてい……。
「ぺっ……魔力がまだ不安定ですが体のほうは完治していますです。……人ってこんなに治癒能力高かったっけ?」
ぺって……また吐き出されたよ。
「それでは次にディル様です」
げっ! こっちにきた!!
いやいやいや、今の我輩は意識があってだな! くそ! 体動いてくれ!!
「おっけ~――ぽいぽいっと」
やめてぇええええええええええ!!
こっこんな事になるのなら寝ていたほうが良かった!!
「はい、出来上がり~」
うう、魔王の我輩が何故こんな目に……ん? よく考えたこれは我輩の本当の肉体ではなく人間のだったな……いやそれでも真っ裸は恥ずかしいぞ! というかそもそも体は女でも心は男だ、そんな触手体験なんぞしたくないいいいいい!!
「ありがとうございます。ではディル様、失礼しますです」
触手がせまって……やっやめ――。
イヤーーーーーーーーーーーーーーーーーーーン!!
※
「ディル起きて! ディルってば!」
「……む……ふあぁ~……」
あれ? 我輩は何を……。
「あ、起きた起きた。ほらぼさっとしてないで行くよ~」
何がどうなって……確かエリンの奴が睡眠魔法をかけてきて、それに対して我輩は耐性魔法をかけて……あれ? その先が思いだせん、何か、そう何か男として感じてはいけない快楽があったような……なんだったかな。
「おい! 一体どういう訳でわしを眠らせたのじゃ!?」
「秘密です。さ、それより荷物を持ってください。完治しているようですしね」
う~む……気になる……。
「なぁフェリシア」
「はいです?」
「我輩は何をされたのだ?」
「いえ? 別に何もないですよ?」
頭の花は……ふむ、異常なし、だが絶対何かしてるはず。
「いや、絶対何か……」
「何もないです、ほら行きましょうです」
行ってしまった……我輩達が寝ている間に何があったというのだ?
※
「ハァ……ハァ……バルガスは……この坂を登った……先にあります……ハァ……ハァ……」
やれやれ、やっとか……しかし上に行け行くほど暑さが増してきているようなのだが。
『ねぇ~ねぇ~』
あ~うるさい奴め、疲れているときに話しかけてくるなよ。
『ねぇってば!』
……ほっといてもうるさいだけだな。
「……なんだ?」
『あの煙ってなんだろ?』
煙だと? ……確かにモクモクと上がっておるな。
「ん? あの方角って――」
「はい、バルガスがあるところです! くっバルガスに何かあったのかもしれません! 急ぎましょう!」
ちょっここで走るのかよ! 歩くだけでももう限界が近いというのに。
ああ! あとの2人も走り出したし! しょうがないな!!
「ハァ、ハァ……なっ!?」
「おいおい、嘘じゃろ……」
「ハァ、ハァ……っ! そんな……バルガスが……ない……です……」
「ハァ、ハァ……なんだこれは……」
目の前には町どころか城もない……そこにあるのは、真っ赤に燃え盛るマグマの池のみ。




