3 『アタシはエリンよろしくね!』 IF
「え~と、確か人間達を捕虜にしたとき取り上げた衣類が入った箱がこの辺りに、あったあった。――おいアルフレドいつまで倒れている! 我輩の体を丁重にベッドに運んでおけよ!」
まずはこのターバンで頭を隠して、口元はこの長い布を巻いて、そして目立たない地味な服はっと……あとは――。
「アナネットよ……この胸の部分はどうすればいい……」
さすがにこればかりはどうすれば良いのか分からん。
「そうですね……この取った布で巻きなおしましょうか」
「……きつくするなよ……」
※
「どうだ?」
「はい、とてもお似合いですよ」
何故だろう、そう言われてもあまり嬉しくない。
「まぁよい、後のことは任せた。もしもの時が起こればすぐに我輩を回収しろ、良いな?」
「はい、魔王様」
「魔王様ご武運を~」
「うむ、では行ってくるぞ! ゲート!!」
移動魔法のゲート、同じ世界ならばそれほど難しくないのだが別世界とつなげるとなれば話は別、しかし我輩クラスだと魔界から人間界のゲートなんぞ余裕よ。
「チョッハハハハハハ!! まってろ人間共よ!! このデイルワッツ様が今から絶望を届けてくれるわ!!」
※
「――っここが人間界【ディネッシュ】か、明るすぎて目が痛い……」
ゲートはうまくいったみたいだな、本当は人間の体でうまく作れるか心配だったが……。
「え~と。アルフレドの人間界の報告書はっと、あったあった、――ふむふむ」
この世界も同類が争う歴史があったらしい、種族が違えど争いとは何処も変わらんものだな。
それから先代の王達により和解がなされ東西南北で国境線を区切り、北国[カルリック]、南国[アルムガム]、西国[バルガス]、と王国が建てられたと……我輩は理解できぬな、支配者はただ一人で十分だと思うのだが。
そして我輩の目の前に見えるのが儀式が行われる南国[アルムガム]、石を削って組まれた外壁に城下町の中央に見えるのは城か、我輩の城の方がもっと大きくかっこいいな。
だがこのクソ天使が作り出した結界……泡のようなものが城下町全体を覆っている、我輩たち魔族はどうしても入れないし破壊することも出来ない、どんな仕組みなのか。
とわからんものを考えても仕方あるまい入ってみるか……ドキドキするな。
「お、チョッハハ! 見事に入れたな」
※
作戦通りに入れたのはいいが……。
「う~む、ここはどこだ?」
我輩としたことがつい物珍しさからフラフラと右往左往してしまい、その結果この迷路のような路地裏に入ってしまった。
「頭を上げてるだけで城が見えているし、それを目印にすればここから抜けれるだろう」
む、茶色い頭をした小僧がこっちに向かって走って来た。
かなり急いでいるみたいだが――。
「あ! そこどいて!」
「あん!?」
おいおい、我輩に向かってどけだと?
笑止、何故我輩がお前なんぞに道を譲らねばならぬのだ、逆に跳ね飛ばしてや――。
「ってそうだった今は人間の体だった! ぐへぇ!!」
茶色い頭が思いっきり腹に減り込んできた上、その勢いでこけて頭を打ってしまった。
このダブルパンチは相当痛い……。
「ぐおおおおおおお!!」
「つ~だからどいて言ったのに――。っまずい時間が! お姉さんごめんなさ~い!」
……小僧は猛ダッシュで路地裏を駆けていった。
何故こんな目にあわなければならないのだ! あ~腹と頭が痛い……。
お、ようやく大通りに出られたか。
「おい、そろそろ儀式が始まるらしいぞ」
「やっとか、見に行くぞ!」
なんとタイミングがいいあいつらに付いて行けば儀式の場所に行けるではないか。
「チョッハハハハハハ、とうとう始まるのだな! 絶望の時が!!」
ここは城前の広場か……あたり一面人だらけだな、一体どこからこんなにわいて出たのだ。
そして祭壇に突き刺さっている輝く剣……あれが天使の剣とみて間違いはないな。
ん? 剣に近づいて来る奴がいる、王冠に豪華なマントに立派な口髭を生やした初老の男……あやつがアルムガムの王【ライリー・アルムガム3世】か。
「それではただいまより儀式を始める!!」
《わーーーーー!》
王の一言で観衆が沸き、儀式が始まる。それが我輩により悲鳴に変わるのが楽しみだ!
※
楽しみだったのだが……幾多の猛者達が剣を抜こうとするがまったく抜ける気配がない、もう半日ほどたったか、立ってるのがつらくなってきた。
「おいおい……全然剣を抜ける様子がないぞ……」
「大丈夫なのか……?」
観衆がざわめき出し、ライリーも焦りが顔に出ているな。
駄目だな、王たるものそんな顔をしては。
「……今の者で参加者は最後でございます」
「なんだと!? 言い伝えは間違いだったというのか……このままでは……」
ライリーが両手で顔を押さえ落胆している、失敗したのかだろうか。
だとしたら我輩、人間になり半日も立っていた意味がない。
む、ライリーの横にいた大柄の騎士が動いたな、たしか国王親衛隊隊長のデーヴァン・デュークだったか。
「恐れながら、観客も参加というのはどうでしょうか? もしもの可能性も……」
「……観客にもか……よし、全員参加させよ」
「はっ! ――聞け! 今より全ての者に儀式の参加を許可する! 天使の剣に集え!!」
今の一言で人が祭壇に向かって動き出したな、巻き込まれる前に脱出を……脱出……って出来ない、まずい完全に出るタイミングを逃してしまった。
「ちょっとまて! 押すな! 我輩は行く気などないのだ! ええい! そこをどけぇ!」
※
「おい、何をしている。次はお前の番だぞ?」
「どけと……へ? 我輩?」
「そうだ」
逃げられないまま進んでしまった結果いつの間にか我輩の順番に回ってしまったらしい。
仕方あるまい目の前に剣があるのだ、こっちを破壊しておこう。
さて、天使の剣よこのデイルワッツ様の手によって粉々に砕けるがいい!!
「ぬおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!? な、なんだこれは!?」
天使の剣を掴むなり我輩の魔力を吸収しだしただと!? くそ、手を離そうにもぴったりとくっついてはなれない!!
なんだ!? 天使の剣から虹色に輝く粒子が溢れ出て、それが人のような形になっていっている?
――ポンッ
一瞬目が開けられないほど光と同時におかしな音がしたが一体何が……って目の前に15~6歳の少女が蝶のような虹色の羽を広げふわふわと浮いている。
そいつは今の我輩の背より少し高く見える、165cm前後くらいか、白いワンピースの胸にはでかい紫のリボンがやけに目立つ、淡い青色のストレートな髪から尖ったたれ耳が飛び出し、毛先を同じくでかい紫のリボンでまとめて結んでいる、蝶のような羽があるため人間では絶対ない。
「だ、誰だ貴様は!?」
「アタシ? アタシはエリンよろしくね!」