2 『……どうしましょう』IF
「次の目的地である【カルリック】は雪国の地になります」
ふむ、暑い国の次は寒い国か……何かと忙しい世界だな。
あ~そういえばアナネット言っておったな、ディネッシュは魔天戦争の時に影響を受け天変地異が起きてそのせいで人間同士の争いが起きた……だったか、実に愚かだな。
「なのでその前にふもとの村で防寒等をそろえようと思います」
雪国の地ねぇ、エリンが寝ていて良かったかもしれん……起きていたらぎゃーぎゃー騒いでいるのが目に浮かぶわ。
「カルリック……か」
ん? 爺さんの奴、遠い目をしているようだが。
「爺さんどうかしたか?」
「……いや。ちょっと、な」
何なのだ? ……まぁどうせ爺さんの事だからろくでもないだろうし放っておこう。
「ふもとの村まで距離がありませので、早朝出発します。今日はもう休みましょう」
ふぁ~、気が緩んだのか疲れが出てきたな……さっさと寝てしまうのが一番だな。
ベルトラ飯もなくなり、フェリシアが作ったこの大きな葉のベッド……即席とはいえ地べたに寝るより遥かに快適だ、このまま順調に旅も出来るだろう。
※
「……どうしましょう」
早くも順調が崩れ去ってしまった。
ふもとの村に着いたらいきなりの問題が発生、どうしてこうなった。
「どうしたもこうしたも……ベルトラ、今までどうして気がつかなかったのじゃ」
ベルトラの荷物入れには我輩たちの旅資金を入れた袋が入っていたのだが。
袋の口が開いていた上にその荷物入れの一部が破れ、そこから金がどんどん落として行き……結果、今は金貨5枚のみが残っているというこの状況。
「……そう言えば野宿ばかりでお金の袋はきちんと確認していませんでした、私とした事が……」
まぁ砂の上に金が落ちても誰一人気が付かないだろうが――。
「な~んだ、あれって目印じゃなかったんだ」
気が付いて……は!? エリンの奴、金が落ちていることに気が付いていたのか!?
「おい! 気が付いていたのなら言えよ!!」
「だって砂漠って方向がわからなくなるじゃん、それでベルトラが目印にするためなのかなと思って」
目印って……。
「……マレリスへ向かった時に目印なんて使ってたか?」
「え? あ~、使ってなかったねぇ」
まったくこいつは普通に考えればわかるだろうに。
「それは置いといて、……何時から気が付いてたんだ?」
「いつからって、フェリの家から出発してか――あだ!? ちょっと! いきなり頭を叩かないでよ!!」
「―――」
この大馬鹿精霊が!! 言葉も出ないとはこの事だ!!
「エリン、私はちゃんと星の位置と地図で慎重に確認しながら進んでるのよ」
「へぇ~そうだったんだ」
「そうだったんだって……今まで私が適当に歩いているとでも思ってたの?」
「野生の勘で進んでるとばか――あだ!? ベル! さすがに同じとこ殴るのは痛いよ!!」
ダメだこの精霊。
「しかし困ったのぉ……何かを売るか?」
「それをしてしまうと何かを失ってしまうそうな……ぐぬぬぬぬぬ」
ベルトラが頭を抱えてうずくまってしまった。騎士としてのプライドなのだろうか。
「防寒着か……」
ふむ、この中には……綿か? となると――。
「フェリシア、植物で綿はできないのか?」
「え? はい、綿を作れる植物はありますけど……あ~なるほど、そういう事ですか」
フードの天辺が盛り上がった、花が伸びたのか?
どこかの馬鹿とは違ってフェリシアはちゃんと考えてくれている。
「察しがよくて助かる」
「ん? どうしたのデール? アタシの顔に何か付いてる?」
……どこかの馬鹿とは違ってな。
※
「これで……出来ましたです」
「「「お~」」」
残りの金貨で布を買い、後はその布にフェリシアが作った綿を詰め込んで服にすれば安上がりの防寒着の完成だ!
「ですが……ディル様、本当によろしいのですか?」
「なにがだ?」
「節約とはいえ……この布は薄すぎじゃないです?」
「大丈夫、大丈夫。これだけ綿をつめれば十分だろう」
暑さと違って寒さは着込めばいいだけだしな。
「そうですか、後渡されたエリン様の分なのですが……この布の量だとほとんど綿を入れられなくてかなり薄いのしか作れないんですけど」
「え゛!?」
「それも大丈夫、大丈夫。問題ない」
「ぜんぜん大丈夫じゃないし問題あるよそれ!?」
無視だ無視、普段の行いの罰だ。
「やだ! 絶対やだ! 寒いのはいやぁだぁあああ!!」
ええい! ギャーギャーとうるさい奴め!
「しかたないの、だったらわしのと交換してやろう」
は!? 爺さん何を言い出すのだ!
「え? いいの!?」
「わしは寒いのは強いからな」
「ありがとう! ダリ爺!」
おいおい、爺さん。エリンを甘やかすなよ。
※
しかし現状はどうだ……結局エリンは剣の中に避難し、布の薄さで寒さがあまりカバーしきれておらん、綿を入れておれば十分だと思ったのだがな。
そして目の前にはエリンにあわせるためのものだった物を爺さんが無理やり着てるからパッツンパッツンの姿をずっと見るはめに。あの時の判断は過ちだった。
「今日はまだ暖かいくらいじゃぞ?」
これで暖かい!? いやいやいや……そういう次元じゃないぞ、ベルトラも完全防寒でまん丸になっておるし。旅慣れしてないフェリシアなんかもっと辛かろう……っていない!?
「おい! フェリシアはどこ行った!?」
「え? 私の後にい……ない!? 一体どこに!? さっきまでいたのに!」
おいおい、こんな雪の中を逸れるのはまずいぞ。
『あ! あれじゃない?』
あれって……平原にこんもりと盛り上がってる……あれか!?
「ここにおるのか!? ――いた!」
良かった、もしあのまま後ろ見ていなければ危ういとこだった。
「大丈夫か!? しっかりしろ!」
「……あ……大丈夫……です……」
倒れるわ、顔と花が青白くなってるわでとても大丈夫には見えんぞ。
「……ただ、体が思うように……動けなくて……」
「植物の体だからな……この寒さで余計動けないようになったか。ほら体を起こせるか? 爺さん、フェリシアを運んでやってくれないか?」
「はいよ、おやすい御用じゃ」
「そ、そんな、ダリル様にご迷惑を……」
「気にするな、よいしょっと」
「……」
爺さんの奴、フェリシアを肩で担いでしまった。
これではまるで――。
『何かフェリが市場に運ばれる荷物にしか見えないね』
「ハウッ!」
この馬鹿! 我輩も思ったが口に出して言うなよ!
「あ~爺さん、その運び方はどうかと思うんだが」
「ん? そうか、わしはこの方が楽なんじゃが……」
楽でもそれはないだろ!?
「いや、しかしだな――」
「ディル様、いいんです……お荷物の私にはふさわしい運び方ですから……」
駄目だ、もはやフェリシアの心は折れてしまっている……。




