2 『よし! こいつにしよう!』IF
「ハヒ、まっ魔王様! っ今一度……ハヒ、お、お考え、直しませんかっ!? ハヒ」
我輩の後ろで走りながら追いかけ、必死の形相で説得してくるアルフレドが実にうっとおしい……アナネットの方はついてくるのが精一杯なのか何も言ってこない、我輩は普通に歩いてるつもりだが歩幅の差で羽を持たない二人は走るしかないようだ。
だが我輩はどんな言葉で心は動かない、何故なら我輩は決めたことはかなずやり遂げるそれが我輩の信念だからな!
「いーや! 我輩は決めたのだ! 必ず実行に移すぞ! ――っとここだな?」
目の前の我輩専用サイズの扉を思いっきり蹴飛ばして開けた、というよりは扉が吹っ飛んでいったが……まぁ後でアルフレドに修理させれば問題なかろう。
人間たちが一斉にどよめき我輩を見つめてくる、我輩が来たとわかるどよめきから罵声へと変わった。
「貴様はデイルワッツ!! よくもこんなところに閉じ込めやがって!」
「殺す! 必ず貴様を!!」
「ここから出せ!! この悪魔め!!」
我輩に向かって様々な罵声が飛び交うが顔を見ればわかる恐怖を誤魔化す為、必死に威勢を張る――実に滑稽で哀れなのだ……見ているだけで笑いがこみ上げてくる!
「チョッハハハハハハ!! 実に元気がいいな、さてさて……」
檻の中の人間一人一人見定めねばなぬ、一時期とはいえこの我輩の肉体になるのだからな。
ん? あの男は他の奴らとは魔力の質が違うな、どれどれ――。
「な、何をする!離せ!」
うるさい奴だな……ふむ、大きさは160cmほどくらいか、小柄だな。ショートの金髪で顔立ちが整ってはいる、最低限のメシしか与えてないためか痩せこけてはいるがやはりこいつの持ってる魔力は他の奴らと違う、かなり強い……こやつの体なら我輩の肉体にしても良かろう。
「よし! こいつにしよう! こいつは他のとは違う強い魔力を感じるぞ! 素晴らしい!」
「さすが魔王様、一目でお気付きになられましたか、この者は強い魔力を秘めています。ですがそれを使いこなせていないためか前線でただの兵士として送られたようです。」
アナネットもこの魔力に感じとっていたという事は当たりと考えてもいいだろう。
しかし馬鹿な人間共だ、こやつをただの兵士としか見てないとはな、鍛えればちょこっとは我が軍に対抗出来たものを。
「な、何をする気なん、ぐっ」
「チョッハハハハハハ! 光栄に思うがよい! 貴様の体はこの我輩が使ってやるのだからな!」
「っ!? どういう――」
「魔王様、人間をあちらの台へ。あともう少し弱らせていただけますか」
アナネットの指を指す方向には人間を解剖するための長方形に削った石の台があるの、だが……魔王の自分で言うのもなんだがこの悪臭はどうも慣れないな……さっさと済ませるにかぎる。
さてどのように痛めつけてやるかな? やはりあれにするか、まずはこいつを台に乗せてと。
「いっ! 何をする……きゃあああああああああああ!!!」
ちょっとした電撃を流しただけでこの壮絶な叫び、実に甘美! なのだが男がこのような悲鳴上げるとは情けない。――あれ? 叫び声がやんでピクリとも動かなくなったぞ、やりすぎたか?
「魔王様、それ以上は死んでしまいます」
やはりやりすぎてたらしい、人間はなんとも脆い。
「そうか、では頼んだぞアナネット」
「はい……では、失礼します」
固有魔を使うとはいえ部下に手を頭に乗せられるのはなんだか屈辱……で何故人間の方は胸に手を置いてるのだ? そこは逆じゃないのかアナネット?
「では参ります、ハァ!!」
「ぬおおおおおおおおおおおおおおお!!」
何だこの感覚、体の中身をアナネットに吸われてる様だ。あ……意識ももって……いかれ……いかん……から……だの……ちから……ぬけ……。
※
まぶしい、どうなったのだ? 頭がぼんやりするし体もだるくてうまく動けない。
「魔王様、私がわかりますか?」
「……アナネットか? フードで顔が見えぬ……ああ、だからアナネットでいいのか……」
「どうやら無事成功のようですね」
ふむ、成功したのか、ん? あそこでアルフレドを押しつぶしてるものは?
2mくらいで漆黒のマントがすごく似合う肉体美、サメのようなギザギザは歯は魅力的だが腰くらいまで伸びたぼさぼさの黒髪がどうも……ってあれは我輩の肉体か。
いや~鏡で見るとは違うものだ、第三者から見ると我輩と存在はなんと完璧で素晴らしい!
で、これがあの人間の体か、細い……細すぎる……これは脆弱すぎはしないか、それに――。
「魔王様? いかがされました!?」
「むっ胸の辺りが苦しいのだ……!」
この締め付けられる感覚は一体なんだ?
「もしや、この人間の肉体と魔王様との魂が合わなくて……と、とにかく調べます! ――これは……胸に布が撒いてある? 胸に傷があったのか!? 取り外しすぐに治療……を……を!?」
ふぅ、即治療をしてくれたようだ、さすがアナネット手際がいい。
だが楽にはなったが……やけに胸が重いような……なんだこれは、なぜ胸がこんなに出ておるのだ? 筋肉でもここまで大きくはならないぞ。
……それに股の部分も何か足りないような……ああ、なるほど、足りないも何も無いのだから……。
「……アナネットよ、この体はもしかして……女なのではないのか?」
「ハイ、ソノヨウデス、ダンソウシテイタヨウデス」
「……何故ここに男装していた奴がいるのだ? 男女はお前が選別してたはずじゃ?」
「ドチラモワカリマセン」
こやつきちんと確認せずに選別しておったな!? 男装してた理由は……元の持ち主が消えてしまった以上、一生分かる事はないか。
「あの、どうしますか? 別の人間に入れ替えますか?」
そうなるとまたあれをやらなければならぬのか、あの感覚はもう味わいたくないな。
「いや、この肉体は一時的なものだし、他は人間では魔力が低い。このままでいけるであろう」
「そう、ですか……」
ん? アナネットの奴、何故目をそらしておるのだ? 他にも問題でもあったのか?
「どうしたのだ、アナネット? 何か言いたいことがあるのか?」
「え? あ、はい……その……これを……」
ん? 鏡? こんなの見てもあの女の姿がそこに……ない。
ショートの金髪は天辺だけが真っ黒になっている、我輩のチャームポイントであるギザギザの歯はいいとしようと思うのだが――、
「さすがにこんな頭にギザギザの歯をしている人間いないと思うのだが、何故このような姿に」
「おそらく、魔王様の魂と魔力の影響が強すぎたために人間の体が一部変化してしまったと思われます……これまでの実験ではなかったことなのではっきりとはわかりかねます」
なるほど、我輩の偉大なる力が人間の体にまで影響を及ぼしてしまったという事か。
「まぁこの頭は隠せば何とかなろう……たぶん……」