27 締めは私で
素晴らしいタイミングです。何も状況が解っていないメアリー嬢が食堂に来ました。右足と左腕に包帯を巻いています。痛々しそうにみえる。あの包帯とって中の傷みたいな~。
アンジェ様は草食動物を狙う肉食動物の目になっています。
メアリー嬢は少し足を引きずりながら、レナード様、ルドルフ様、ギルバート様、信者の皆様の元に向かいます。その瞳は慈愛に満ちた優しい女神様みたいです。
途中、私に気付いて全身を一瞬強張らせ、そして、怯えた表情で目を反らす。完璧です。足早に彼等の元に。あれ、足を引きずるの忘れてますよ。
でも、出来れば食堂にいる全員を見渡して欲しかった。
貴方を『未確認珍獣生物』として見ていることに気付いたはず。
あ、今殿下に気付いた。クリス様の横で優雅に寛いでデザートを食べている姿。すでに後ろ姿なので表情はわからない。でも、顔は殿下を見ている。きっと何が起きたんだろうとか思っているのかな。だってクリス様と殿下、楽しそうに談笑しているからね。
でもね、ごめんね。もう遅いの。すでに食堂の奥深くまで来た以上、引き返すのは不可能。よく見渡せば判ることだったのに。
食堂の出入口にはエセルバート先生率いるマッチョな騎士科指導員の方々に塞がれているの。
中庭への出入口にはロウィーナ先生率いるナイスバディな騎士科指導員の方々に塞がれているの。
ついでに食堂の二階にある先生指定のスペースには理事長とユリア先生がいる。お二人のそばにいる護衛は本物の近衛騎士団。
私はアンジェ様を見る。首を縦にふって頷いてくれた。よし。
「メアリー様。昨日私が貴女を階段から突き落としました。」
私はゆっくりと、ほの暗く、そして絶望し、憎しみのこもった目で、静かにそういい放ちました。食堂は静かです。メアリー嬢がゆっくりと振り返り私と目が合いました。
「やっぱり、レティシア様だったんですね。」
女は女優。メアリー嬢は哀しそうな瞳をし、うつむき
「私が殿下をお慕いしたのがいけなかったんです。」
声が震えています。微かに身体も···。顔をゆっくりと上げ、再び目が合いました。その目からは大粒の涙が·····。
·····凄い。潤うではなく涙。上級者です。
「あの時、貴女に殿下は渡さないって聞こえたんです。振り替えるとレティシア様の黒い髪が見えて、黒い瞳と目が合って、怖くて、動けなくて、気付いた落ちていました。
でも、私がいけなかったんです。婚約者がいる人を好きになる私が···。そのせいでレティシア様を犯罪者にしてしまった。」
「そう、昨日私を階段の上で見たのね。」
「今さら、こんなこと言える立場じゃないけど、殿下は物じゃない。婚約者だからといって束縛するなんて。」
私、ニッコリ笑いました。嬉しくて心の底から。真面目な声疲れた。普通の声に戻します。
「はい、言質、取りました。」
メアリー嬢は唖然としています。急に私の態度が変わったことについていけてないみたい。
では今のうちに、敵はメアリー嬢!
「昨日階段の上で私を見た。そして私に突き落とされた。でも、それ無理ですから。」
持てるかわいい猫達よ大集合して頂戴。
メアリー嬢は先程の悲痛な泣き顔と打って代わって、まだ唖然としています。そして、覚醒したみたいに急に私を睨み、
「だって、さっき」
「うっそでーす。」
「はぁ?」
素の声だね。低いね。怖いよ。可愛くないよ。今、貴女の後ろにいる信者達がそのドスの聞いた声に驚いて、静かに、一歩引いたよ。本当に離れたよ。
私も一年前は怖かったよ。でもね、何回か聞いていくうちに人間、耐久性がつくんだ。
メアリー嬢は後ろを振り向きレナード様、ルドルフ様、ギルバート様、信者達に助けを求めようとしているみたい。でも残念。さっき全員アンジェ様が片付けましたから。しかもとどめは今のあなたの『素の声』。
「だって私、昨日、刺繍の補講授業で、放課後、職員室にずっといたもの。
夕食前まで。」
明日で最終話です




