嫌な予感
(*ノωノ)
二時間経ち、ギルドへ行くと先程いた人の殆どがいなくなっていた。
残っていた人は今依頼を終えて帰って来た者と新人とも言えるランクが低い者の二種類だった。
アルはその人々から離れて先程と同じ女性がいる所へ近づいて行った。
「やぁ、二時間経ったから来たよ」
「あ、先程の冒険者さん」
女性のいる所には人が居らず、書類を眺めていた彼女にアルは声をかけた。
女性は顔を上げアルだと気がつくと笑みを浮かべて言葉を返した。
「うーん、その冒険者ってのは間違ってはいないんだけど俺の事は名前、アルベルト、アルって呼んで」
「分かりました。アルさん」
「ああ。で君の名前は聞いても?」
「はい。私の名前はシータです」
「分かった。次からはシータって呼びかけるよ」
「はい」
お互いに自分の名前を教えあった二人の顔には笑みが浮かんでおり、穏やかな空間を作り出していた。
「ところでジェシーは?時間通りに来たんだけど…」
「本当ですね…。あ、あそこでまだ対応してますね」
「本当だ」
シータが指を指した方向、シータと反対にある場所ではジェシーの前に五つ程のパーティーが並んでいた。
「あれはもう少し掛かりそうだな」
「そうですね。そこの席に座ってお待ちになりますか?」
「うん、そうするよ。悪いけどジェシーに終わったらあそこにいるって言っといてもらえる?」
「はい、分かりました」
そう言うと、アルはギルドの壁際に設置されているテーブル付のイスがある場所に向かって行った。
ギルドには多くの人が来る為、ある程度の人が座れる様にこの様な設備を用意されている。
イスに座ったアルは魔導書を取り出し読み始めた。
するとそこへ一人の女性が近づいて行った。
「あんた、また本を読んでいるのかい?ギルドに来たんだから依頼を受けて体を動かしなよ。そんなんじゃ鈍って動けなくなるよ」
「大丈夫ですよ、これでも一応朝は体を動かしていますから」
「そうは言ってもね、いつもポーションと薬草しか持って来ていないじゃないか」
彼女はギルドにある食堂で働いている女性で名前をシーシラと言う。
そんな彼女だが現在独身である。
見た目も綺麗で人当たりも良い為、密かに男から人気を集め告白もされるのだが、そのたびに断っている。
本人の言うには、「やっぱり強い男は好きなんだが中途半端な力で依頼の途中で死にそうな奴は無理だね。そうだなぁ、Sランクなら考えても良いよ」との事らしい。
そんな彼女の前には条件を満たしている男がいるのだがお互いにその話を持ち出すことはしない。
お互いに今の関係に満足しているからだ。
「まぁ大丈夫ですよ。今ギルドマスターに呼び出されているんで、なにかしらの依頼を受けるはめになるでしょう」
「へぇー。もしかしたらヘマを犯したりしたんじゃないのかい?」
「そんな事は滅多にないですよ」
「それもそうだね」
シーシラはアルの呼び出された事に軽く冗談を言ったのだが、それを軽く流されてしまったのだがお互いに笑いあっていた。
「それにしても、呼び出される理由が気になるね。やっぱり何かしたんじゃないのかい?」
「シーシラさんも俺の実力分かってるでしょ?そんなに自分が何かしてしまったと思うんですか?」
「そりゃあ滅多に依頼を受けないあんたが呼び出されるんだよ?疑わないほうが可笑しいじゃないか」
「それはまぁ…」
シーシラの言葉に初めは心外だ、といった表情を見せていたアルだが、彼女の言葉を聞いて行くうちに反論する事が出来なくなっていった。
「ああ、すまないね。この話はこれで終了。で、あんた本を読むんならいつものコーヒーでも飲むかい?」
「ああ。お願いするよ」
「はいよ。ちょっと待ってな」
空気を変える為にシーシラは話を断ち切り、アルの注文を取ってから厨房へと帰って行く。
そんな彼女を見送ったアルは本へと視線を戻したのだが、彼女の言葉が気になっていた。
(やはりギルドマスターの呼び出しなんてそうそう無いが、やっぱり依頼なのだろうか。なんか嫌な予感がするな)
少しの間考えていたアルだったが、分からなかったので本を読み始めた。