ゆるりとした時間
イルーダにある冒険者ギルドには大勢の冒険者で溢れ返っていた。
ギルド内では、掲示板に張り出されている依頼書を眺めていたり、依頼された物を持って受付に並んでいたり、その様な者達を眺めている者など、様々な人がいる。
フードを被った人物、アルはそんな人々の間を縫う様にして受付へと向かう。
「やっぱり人が多いな、出来れば直ぐに終わらせて帰りたいんだが…」
受付に向かえば向かうほど多くなる人に溜息を吐くアルは、比較的人が少ない場所を探す。
「ん?あそこに人がいないじゃないか、何で誰も行かないんだ?直ぐに終わりそうなのに」
アルが見つけたのは、受付の端の髪が長く、前髪が目元まで垂れ下がっている女性がいる場所だった。
何故女性の場所には誰も行かないのか不思議に思い、他の受付を見る。
すると、他の受付では冒険者の多くが鼻の下を伸ばしていた。
「ああ、やっぱりそうか」
アルは、いやその場に居れば誰でも察するであろうが、彼等は綺麗な女性に微笑み掛けられる為に長い列を作っていた。
「はぁ…。まぁ、いつもの事か」
一度はそんな彼等に呆れたが、よくよく思い出してみればいつもアルの受付をしているジェシーも常に長い列を作り出していた。
そんな事がある為、対して何も思わずに受付の端に歩いて行った。
「すまないが依頼完了の確認と、報酬をくれ」
「…っ!はっ、はい!少々お待ちください!」
アルは女性の前に行き、いつもの様に声を掛けたのだが、女性は話掛けられるとは思って無かったのか、慌てて身なりを正し、受付の準備をし出した。
(うーん、なんとなく他の奴らが並ばない理由にこれもありそうだな)
慌てて行動する女性を見て、そんな事をアルは考えていた。
「そんな慌てなくて良いから」
「っす、すいません!」
女性は乱れた呼吸を落ち着かせるように深呼吸を繰り返した。
「では、ギルドカードの提示をお願いします」
「ああ、これで」
「ありがとうございます」
落ち着きを取り戻した女性はアルからギルドカードを受け取り、取り出した鉄の板に翳した。
鉄の板にはギルドカードに登録された依頼を閲覧することが出来る様になっており、実際に彼女が持っている板にはアルの受けた依頼が表示されていた。
薬草採取
依頼主 フィーネル・ルー
依頼内容
ポーションの素材となる、マルタの採取
報酬はマルタを三束につき銅貨五枚
ポーション製作
依頼主 イルーダ冒険者ギルド
依頼内容
回復ポーションの製作
報酬はポーション一つにつき銀貨一枚
以上の二つが表示されていた。
「では、依頼された物を出して貰っても良いですか?」
「これと、これだな」
アルは言われた通りにポーチの中からマルタの入った袋と、ポーションを二十本程取り出した。
「確認するので少々お待ちください」
「頼むよ」
「っは、はい!」
アルは彼女に微笑むと、女性はフードで口元しか見えないが、笑みを浮かべた。
女性は受け取った物を確認していき、アルはその確認作業を微笑みながら見ていた。
そんな彼等の反対では何かトラブルがあったのか、人々の動揺が伝わって来ていた。
「ん?なんだろうか向こうが騒がしいが」
「ほ、本当ですね。もしかしたら誰かが冒険者さんに口説かれて、それを拒否したのではないでしょうか」
アルの呟いた言葉に女性は作業の手を止め答える。
その表情には怯えと羨望が浮かんでいた。
「こんな所で告白なんてあるのか?」
女性が真っ先に例として挙げた事に疑問を覚えたアルは聞いた。
何故なら、全ての冒険者がそうと言うわけでは無いが、中には魔物を殺してランクが上がって行くに連れて自分が周りの者より強く、違った存在だと勘違いして威張り散らし問題を起こす者が少ない数居る為だ。
さらに、ここには多くの人がいる為、告白すればその日のうちに町中に知れ渡ってしまう様な所である。
そんな所で、冒険者が告白するなんて事はほぼ無く、あってもそれはもっと小さく人が少ないギルドで起きる事だ。
よってこの様な大勢の人がいる街で、告白なんて起きる筈が無いと考えていたのに、女性が口にした事で気になってしまったから咄嗟に聞いてしまった。
「ええ。毎日という事はありませんが、よくある事ですよ」
女性の答えは肯定であった。
(うう~ん、普通は無いと思うんだが…)
女性は「まぁ、自分には関係の無い事ですけどね」と言って作業に戻ってしまった。
「君もここで告白をされたいのか?」
「っ!い、いえ私はそんな事…」
アルからの突然の質問に戸惑う女性。
女性は頬を紅く染めて手を止めてしまう。
「さっきは羨ましいって顔をしてたが違うのか?」
「そ、それは…その…」
アルの言葉に赤くなり戸惑う女性。
しかしその原因のアルもフードの下では驚いていた。
(なぜ俺はこんなことを初めて会う相手に聞いているんだ?)
お互いに何も話せず固まってしまう。
固まっていた時間はほんの少しだが、二人には長く感じた。
その状態を脱しようとお互いに声を出そうとした時、声が掛けられた。
「二人共何をしているんですか?」
その声によって二人は動きが止まった。
「何をしているのか聞いているんですけど?」
動かない二人にもう一度声が掛けられる。
「「ジェシー」」
二人は共に同じ人物を見て彼女の名前を口にした。
修羅場(ノД`)・゜・。