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海辺の家  作者: ボン
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第二話

そもそも、この家に引っ越す事にしたのは、「お金がない」からだった。

綺麗な家に住みたいとか、海辺の家に住みたい、一人部屋に住みたい、そんな当たり前の条件

でそこそこの家に住んでいたら、家賃ばかりかかってしまって「とりあえずここに住んでお金を浮かせよう・・・」と選んだのだ。

あの頃は確か、ちゃんとしたバイトもしていなかった。


条件は本当に最悪だったかもしれない。まず、男との相部屋だった。あまり綺麗好きとはいえない、むしろちょっと汚らしいメキシコ人25、26歳の、口ひげをはやした男。

その頃は、スウェーデン人とイスラエル人のカップルで1部屋に住んでいた女の子と私が、唯一の女だった。彼女は喜んでくれた。

「この家男ばかりだから、ひかるが来てくれて本当にうれしいわ」

そう言って、お茶を入れてくれた。

よく2人で紅茶やコーヒーを飲みながら色々な話しをした。


ごはんも一緒に食べたりした。このカップルは何年もかけて世界を旅していた。


どこから来て、どこに行ったのかはよく覚えていない。


確か、タイに何ヶ月か行った話しは聞いた。オーストラリアには、多分1年近くいたんじゃないかと思う。二人で仕事をして、お金を貯めて、また次の旅行に備える。

結局帰る場所があったのかすらはっきりしない。

何しろ彼はイスラエル人、彼女はスウェーデン人、旅が終わった後、一体どこで暮らす予定だったのだろう。

多分本人たちも決めてなかったはずだ。


最初は同じ部屋に眠るメキシコ人はすごく優しかった。イギリス人のほぼアル中の男と仲が良く、アボリジニが演奏に使う楽器(直径7,8センチの太くて、1.5メートルくらいあると思われる筒型の楽器)とギターを弾いたり、詩のパートに私まで加えさせられて、楽しかった。


皆で少しほろ酔いになり、メキシコ人の同居人は調子にのってキスをしようとしてきた。


「やめて」と逃げると、


「君はいつも俺に微笑みかけていたじゃないか。まるで俺の事が好きなようにふるまっていた。それでキスしようとすると逃げるなんて、気違い日本人だ!!(Crazy Japanese!!!!)」


と気違い扱いされ、それ以来犬猿の仲になった。


しばらくすると、他にも女の子がこの家に来る事になり、そのメキシコ人は隣の男部屋に追いやられた。アル中のイギリス人が確かニュージーランドに行くと出て行く事になったかだ。


同じ部屋に来たのはスウェーデン人の女の子。タイに5ヶ月もいて、旅の続きでオーストラリアにいた。

決して綺麗とはいえない私たちの部屋に、彼女は大満足していた。


「タイには直径4,5センチのゴキブリが部屋中に何十匹もいたの。それに比べたらこの部屋はとても増しだし、ゴキブリも沢山いると案外見慣れるのよ」


金髪で細くて確かまだ20歳の、可愛らしい子がそんな汚いところに5ヶ月も住んでいてゴキブリなんか怖くないという。



突然、ドアをノックされた。


「誰?」とのぞくと、そこには背の高い、服装がボロボロの、ドレッドヘアーを腰くらいまでのばした、ヒッピー系の男がいた。


まるで自分の家かのように(彼いわくそこは自分の家でもあった)


「ごめん、俺前ここに住んでて、俺のトランクをベットのしたに置いておいたんだ。旅行から帰って来た」


そういって私のベットの下にあった赤いトランクを取りに来た。


彼とはそれから、末永く、パリや、ロンドンや、イタリアのアチコチでお世話になる事になるとは、その時は思いもよらなかった。


次の日、見知らぬ男がまるで自分の家かのようにリビングのソファーにでっかく腰掛け、テレ


ビを見ていた。


うちには見知らぬ人がよく出入りするから、いちいち「誰?」とか「よろしく」とかいう


挨拶をしようとも思わなかったが、すごく人懐っこいその男は、昨日のドレッドの男だと


後で気づく。髪をドレッドのまま短髪にしていた。


その頃から、この家での生活はただ汚い家での節約生活から、青春時代というフィルターを


通して世界を見ているような、輝かしい生活となる。


誰にも言った事はないけど、私はきっとこのドレッドへアの男に恋をしていた。


その頃は彼とどうにかなりたいと、願っていた。名前はマッシモ。


彼とは今でも仲が良く、私にとっては親友だ。私たちはとても気があった。彼と出会って多分もう4年以上になる。


同じベットで寝た事も1週間くらいある。彼の実家イタリアで何週間もお世話になった事もある。


出会った日から、今でも、親友以外の何者にもなった事はない。むしろ、私の父のようであり、兄のようであった。


わかっていても、心のどこかで「友達以上になってみたい」という思いが少し沸くことがある。彼ほど信用できる友達は家族や親戚以外は多分いないだろう。


マッシモは私が家に帰って来ると毎日ソファに腰をかけてテレビを見ていた。


まるで自分の家のように。そう、彼いわくここは彼の家で、私のベットは彼のベットだった。


彼は隣にの家に住み始め、この家のどこかのベットがあいたら、それは真っ先に彼のベットに


なるらしい。そう大家にお願いしてあるのだ。


彼はとにかくこの家が好きだった。特にこのリビングが。


こうして、私の家には彼がいつもいて、私もたまに隣の家に遊びに行くようになる。























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