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番外編

作者: ダイコンおろし

つまらないです。「………」が多く出ます。 偏執な人の話です。

 

 この世には四種類の人間がいると思う。

 簡単に出来る人、努力で出来る人、出来るのにやらない人、そして努力しても出来ない奴。

 俺は勿論のこと、簡単に出来る人、に含まれる。

 いわば人生の勝ち組。

 父親は代々続く有名企業の社長、母親は弁護士。家は一際目立つマンションの56階。無論のことそのマンションも土地も俺の家の私産物。それに軽井沢には別荘もある。よく夏休みをそこで過ごすもんだ。

 当然のこと周りが羨ましがるのはそれだけじゃない。俺は名門私立高校を通うエリート中のエリート。成績はどんな試験でも上から数えた方が早い。トップ率は高すぎて自慢のネタにはならない。

 幼小中高大一貫(4歳から通える)だが、俺のことだから大学は国公立最難関の大学を狙う。お金も家柄も学力も運動だって、そこそこで損することなんか全くしたことがない。粗捜しは無用だ。

 高校までは徒歩通学。12年間も同じだから景色は見慣れすぎて単語カードを捲るしか暇潰しにならない。

 あれ、これ何回見たっけ。行きでみて、それから……。

 俺としたことが今週の単語の範囲を忘れてしまった。それもこれもあいつのせいだ。


 今日の放課後で、毎回欠点の瀬戸際をさ迷っている栖甫田(すぼた)が邪魔をしてきた。

 栖甫田はすがる、お前天才だから勉強教えてくれと。

 あほらしくて笑えない。

「嫌だ。そんな時間はない」

 と答えると、

「明日のテスト次第で夏休みに補講があるんだよ。俺どーしても部活、レギュラーだし練習やらなきゃいけはないんだよ」

 と理由を加えてきた。

 苛つく。

「お前のための補講だろ、レギュラー降りて欠点直せばいいだろ」

「それでもお願いやって」

……余りにもしつこいので無視して走って教室をでた。


 あー五月蝿い。栖甫田のお陰で周りがいつもより騒がしく聞こえる。そして頭にガンガンとなる蝉の音。

 あー。やってられるか。単語カードを鞄に押し込んでため息をつく。

 しばらく歩くと、蝉の鳴き声と入り交じって鼻水をすする音が聞こえる。だんだんそれが近づいてきて……


 どん!


 目の前に『ちび』が倒れてた。


 ちびは尻餅をついて涙目を擦りながら俺の方をみる。

 あー面倒くさい。

「大丈夫か?」と言いつつ片手をさしのばす。普通に手をとってくれるかと思っていた。

 だが、ちびは泣き出した。

 この心情の答えが意味不明。

泣かれても困るんだけどな。俺が悪いことしたみていじゃんか。

 そうおもいながらまたため息を深くついた。


 姿勢を低くしてちびの顔を見上げる

「どうしたんだよ?」

 ちびは何も反応しない。

「何か理由があるならあの公園のベンチでも座って聞くぜ、なぁ?」

 そう言うと暫くしてから、こくりと小さく頷き、涙を落としながら俺の手を握る。そしてお互いにゆっくりと立って、奏貝(かながい)公園に静かにたたずむ茶色のベンチを目指す。

 ちびの手は冷たくて小さくて握りつぶせそうなぐらい弱々しく震えていた。

 それでも、相変わらず無言を突き通す。影は不釣り合いな俺たちを映すのだった。


 正直のところこんなの俺らしくない。何で何も利益がないことを進んでやってんだよ。ベンチに座らせても泣き止まねーし、あやし方だって知らない……。兎に角、俺ははやくかえりたい。それに逸早く今日のメニューをこなさなければ。あー。錯綜する心でさえ考えるのを辞めたくなった。


 ぼんやりしていると、

「僕ね、僕は終わりなんだ。もう必要とされてないんだ」

 突然ちびが口を開いた。

余りにも咄嗟のことで理解できない。

ただ感じたのはネガティブというオーラ。呆れそうだ。そんなのにかまってられない。

「僕、何処かへ行きたいんだ。その前にお兄ちゃんに……」

 小さな声が耳をくすぐる。

「話?話なら聞くぜ、いってみろよ」

 俺はこの時ちびの語り話を甘くみていた。どうせちんけな悩みだろうと。

「学校が楽しくないのか?親に怒られたか?テストで悪い点とったか?」

 早く終わらせようと、思い付く事柄で攻めてみた。

 しかし、ちびは相変わらずまま首をふるだけ。

「じゃあどうしたんだよ」と心のなかで叫んだ。作り笑いを浮かべながら。

 その内、ちびはぽろぽろと話始めた。口数だんだんと増えていく。

「僕は悪い子で兄は良い子だといつもお母さんは言うんだ。兄ちゃんは凄いよ。僕より賢くて僕より運動が出来る。っで兄ちゃんは母さんの望みを簡単にこなすんだよ……僕と違って。

 だから母さんはいつも僕を怒る。何で出来ないの?兄弟でもあなたは無能だわと叱るんだ。だから兄ちゃんには塾に行かせて僕には塾に言ってもお金が無駄だと言うのそれでいつもお手伝いをさせる……』

 ……重いな……何が言いたいんだ。疑問しか浮かばない。それで、と聞き返すと

「僕は本当に馬鹿なんだ。どれだけ頑張っても点数が上がらないの。授業中だって寝たことないし、宿題だって掃除だってちゃんとやってるけど……。いつも酷い点数ばかりでクラスメイトには蔑まれるし笑われるし母さんには怒られる。兄ちゃんより遊ぶことも少ないのに何で出来ないの。努力は報われるって先生に習ったのに……』

 ちびはだんだんと涙声になっていく。鼻水を垂らし目を擦るので赤くなっていく。

 ポケットからティッシュが何枚も飛び出してグシャグシャに丸められてベンチに積もる。


 結局テストの話かよ。やっぱり薄っぺらい内容だった。あー、また泣き出したよ。よし、この答えによっては帰るか決めてやろう。点数なんて人の基準で悪いとか言いつつ余裕で95点とかとるやついるもんな。

「おめぇー、点数どれくらいなんだ?」

「……100点なんか取ったことないこの間は37点だった……」

 おいおいもろ欠点に分類されるじゃねーか。小学生だろ100点なんか余裕綽々だろ。予想を遥かに越えてて焦りが積もる。

「何年生だっけ?」

「五年……」

 あー。呆れそうだ。

「……お兄ちゃんも僕のこと馬鹿だと思ったでしょ。もう無理なんだ。僕が毎日勉強したってテストの点なんかは頑張りを認めてくれやしない。

 太一くんなんか毎日遊んでるのに普通に90点ぐらいとるし、杉田くんなんかは50点以下は中学に上がれないって言うんだ。

 あの人たちは影で努力しているかもしれないけどいっつも掃除さぼるし遅刻するし、すぐに人を笑い者にする。

 その仲間の神井君なんかは心配してくれたりするけどそれも偽りでこの前僕の陰口を聞いてしまった。母さんも友達も先生も兄ちゃんも誰も僕のことを知らないんだ」

「まぁ人は人他人は他人だもんな」

「うん……知っている。僕知っているよ。僕は悪い子なんでしょ。僕は周りの人とスタートラインが違うんだよ。だからいつもかけっこで4等ばかり。だから、じゃあ僕は……もう」

 あー、再び苛つきが甦りそうだ。正論言って現実を見せようか。そしたらまた泣くか。

 今日は疲れるな。でも知っているこの感情。触りたくなくて封印していた厄介な心。うずうずする。同情なんかじゃない。ふと俺はこの難問を解いてみたくなった。

「なぁお前それ以上要らないとか言うな。お前の道はお前しか決めれねーんだよ。他人とか人とか気にするんじゃない」

「でも……そしたら、嫌われる……」

「はぁーめんどくせ。それじゃあ何にも変わらないだろ。物事に齟齬は付き物。努力努力ってそんな薄っぺらいものにかけるなよ。お前が変わっていくことが周りを変えさせる唯一の手段だ」

 ちびは、ちんぷんかんぷんな顔を浮かべてじっと見つめてくる。

「じゃあどうしたらいいの……?」

「だからそれはお前で考えろ。どれだけ劣っていたって優れていたって考えることぐらい出来るだろ。人はスタート地点が違うからとか、馬鹿だからとかそんなこと言う前に、てめぇー、の足で歩けよ。1歩づつでも良いからさぁ」

 ちびは俺の声に完全にびびっている。眉毛が下がりそれでも目は真剣で、口はなにも言えそうになかった。

 俺の言い方は悪かったか、分かりにくかったかもしれないと悟った。

 そして、ちびがまた喚きそうだと察した。それにしても小学生相手に何でここまで感情が揺れ動くのだろう

 あーちくしょーまた泣きそうだ。

 そしてちびは滴を溢れさせて言う。

「お兄ちゃん……ありがとう。難しいけど、僕頑張るよ」

 思わず胸がしまりそうだった。単純な言葉なのに余りにも予想外で

その言葉に温かみを感じた。

 どくどく。心臓の鼓動が早くなる。そして瞳孔が開いて。

 まだ動揺している。

「勉強分からなかったら俺に聞きにこい。特別教えてやる。またこの公園でな」

 俺にしては珍しい言葉をかける。少し照れくさくも感じた。

「うん教えてください」

 ちびは良い笑顔で気持ちよく俺をまた見る。

「お前の名前は?」

「僕は白沢雄」


 俺は何でも持っている。不自由なんかしたことがない。それでも、俺には欠けているものばかりだ。世界が知っているのはほんの一部で自分を取り巻く環境だけだ。

 もっと視野を広げれば分かる答えも当たり前と言う言葉にかきけされ、見失うのが人間だと思う。

 ちびは幼いながらにそれを感じている気がする。

 そして彼は可能性に満ち溢れている。

ふるいにかけられた社会に敗北するまでは……。




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