ユメがいじめられていたなんて私は知らなかったから
「私、ちーちゃんが好き」
放課後、幼馴染に屋上に呼び出されたと思ったら突然告白された。
「ちーちゃんは知らないだろうけど、ずっと昔から好きだったんだよ?」
「そ、そうか、それは知らなかった」
「うん。だからね、最近また私と仲良くしてくれたのが嬉しくて」
そういえば、ちょっと前までは別のクラスだったし部活で忙しくてユメと距離ができていたかもしれない。
ユメのお母さんから、ユメの様子がちょっと変だと相談されて、最近は特にユメの事を気にかけるようにしていた。お母さんから言われた事もあるけれど、私は時間さえあればユメのことを見るようにしていた。授業中はノートを急いで書き、空いた時間でユメを見る。休み時間はユメのそばに行って見つめていた。ユメは大抵寝ていた。
「この気持ちだけ伝えたかったんだ。ちーちゃん。私はちーちゃんが好きです」
真剣な顔で想いを告げるユメをまじまじと見て、やっぱりユメは可愛いな、と改めて確認した私だった。
「ん……あー、面と向かってこういうのって、なんか……照れる。……うん、私も、ユメのこと好きだよ」
「……嘘」
嘘って言われても、好きなものは好きなんだけど。
「私の好きっていうのがユメの言う好きとおんなじ意味かはわかんない。でも、なんかさ、ユメと一緒にいると幸せなんだ。あったかくて、ほっとするのに、ドキドキするし」
「そんなの嘘だよ。じゃあ私と付き合える?」
付き合う、つまり恋人になるってことか!?
「つ……付き合う!? そんなの考えもしなかったよ。そっか……好き同士なんだよね。わ、私で良いなら、付き合おうか」
「ほら無理なん……え? 付き合うの?」
「うん。これからよろしく」
なんかぽかんとしているユメも可愛い。でも、恋人って何をすればいいんだろう。手をつなぐとか、キスするとか……?
「く、口ではなんとでも言えるじゃん! ほんとは気持ち悪いとか思ってるくせに。信じられないよ」
「ホントだよ。意地張ってるユメも可愛いなあ」
「か、かわいいとか! そんなに言うならキスくらいできるよね! ほら、無理でしょ。どうせ全部ウソなん……」
キス。キスをしてほしいとユメにねだられた気がしたので、私も気持ちを抑えられなくなった。つまりキスをした。軽い口づけ。
「し、信じらんない……!」
「じゃあもう一回」
あんなのはキスじゃないとユメが言うので、今度は舌を絡めた。
「……本当に私の事、好きなの?」
「うん。好きだよ、ユメ」
「……嬉しい。もう思い残すことはないから、死んでくるね」
「はあ?」
ユメは、手すりを越えて向こう側に行こうとしていた。しかし腰くらいの高さの手すりを跨ごうとしたが足が上がらず、もたもたしていた。結構どんくさいのもユメの可愛いところだ。
「こんなに幸せになることなんて、現世ではもうないから。一番幸せなときに死にたいの」
「ちょ、ちょっとまて!」
ユメが何をしようとしているのか認識した私は、慌ててユメをつかむ。
「離して」
「離せるわけ……あるかー!」
ユメの腰を抱いてバックドロップ……つい、やろうとしてしまったが、思いとどまってユメを抱えたまま後ろに倒れこんだ。
「なんでよ。……幸せな気持ちのまま死なせてよ」
「私が。私がユメを幸せにするから! ずっと幸せなままにするから死ぬとか言うな。」
「……ずっとなんて嘘。だって……学校から帰ったらちーちゃんと離れちゃうじゃない。私、ちーちゃんと一緒じゃなきゃ幸せじゃないもん」
私がいればそれで幸せだなんて……なんて可愛いんだろう。でも、そういうことなら話は簡単だ。
「じゃあこれからずっとユメの家に泊まるよ! 大丈夫、ユメのお母さんとは仲良しだからー。ちょっと待ってて。……。いまメールで確認取ったから。OKだって」
「そ、そんないきなり……。でも、その、寝るときとか……、お風呂入るときとか……」
「一緒に寝よう? お風呂も一緒に入ればいいよ」
「うちのお風呂狭いから無理だよ……」
「そうかな。くっついて入ればなんとか入れるでしょ」
「くっつくとか! ちーちゃんのエロ!」
「え、エロ? 一緒にお風呂に入るのってエロいの?」
「……」
顔を赤くして黙ってしまったユメを見ていたら、いつのまにか空が夕焼けに染まっていた。
「じゃあ、帰ろうか」
ユメに手を差し出すと、ギュッと握ってきた。
私も手を握り返して、手を繋いで二人並んで歩き出す。
今日のご飯はなんだろう、なんて会話をしながら、私はユメが幸せになるなら何だってしよう、と心に誓った。