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白と黒の夢にとらわれた少女 序章① ゴシティック

とある街にひっそりと洋館が建っている。

ひとりの少女は青年が外出するというので、自分も着いていきたいといった。


緋梔士(ひなし)兄さん私も外に出たい」

「チヨカ……ここをでたらダメだよ」


青年は少女の頭をなでてそれは出来ないと諭した。


右眼に医療用眼帯をつけた黒髪の少女チヨカは目の前の薄茶髪の青年、ヒナシに懇願した。


「……我がクコ家のお姫様、そんな顔をしないで」


彼女をなだめるとき、姫様ときまって口にする。


「わかったわ。いいこでまっているから」


“だから貴方は私を捨てないで”チヨカはそう心の中で呟く。

三面鏡の前で虹色の髪飾りを着け、鏡を閉じると窓から外を見る。


固めの材質で出来た黒のチョーカー、左胸に蝶のブローチ、手首には時計と金属製のブレス。

すべて緋梔士が身につけさせたものでチヨカの趣味ではなかった。

否、それはしかたがないことである。

旧華族の一人娘として生まれた彼女は常に与えられるばかりで自らの好みなどわからぬのだから。


「外は危険」


いいつけをまもれば幸せのまま。大きなことはなにもせずただ息をしているだけで私は幸せなのだからと、いいきかせた―――


「チッまだ見つからないのかよ!」

黒い皮のコートを着た男は廃墟で苛立ちながら連絡を待っていた。

暇潰しに投げられた小さな刃は、円を描いて壁を砕いた。

錆びた鎖は衝撃でボロボロ崩れ、床に散る。

====

「ここが彼女の家か」

白い毛皮の男は片手の写真にうつる少女を見て、口の端を上げた。


―――バン、と勢いよく開かれた屋敷のドア。カーテンは締め切られ、灯りは蝋燭のみの薄暗い部屋。

さらりとした長い黒髪、左眼に眼帯をつけた一人の少女が椅子に座り窓辺を眺めていた。


なんと美しい人か―――男は一時の間、言葉を失う。貴方は誰、少女の瞳が訴えた。


「……私は君を迎えに来た」


少女は首を横に降って、口を聞こうとしない。

そして青年と目も会わせずにいる。

暫くして少女はサラサラと羽ペンを使って紙に書き始めた。


“私はチヨカ”


「ああ、君の名前なら事前に調べてあるから知っているよ」


紙を受けとると、青年は微笑んで答えた。


“私はヒナシとしか口を聞いてはいけない”


「―――君はこの屋敷に縛られて、苦しくないのかい?」


“どうしてそんなこと聞くの”


「自由がなくて、まるで人形みたいだから……」


青年はチヨカが気を悪くするだろうと考えたが、その反応は希薄であった。


“それがどうしたというの”


チヨカは自分が物言わぬ人形、籠の鳥と揶揄されようと構わなかった。

世の中には貧しさ故に空腹で辛い者、苦痛を伴う労働をする人間がたくさんいる。

労働せず家と食事がある自分は幸せなのだから、何を不満だというのだ。


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