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メグルといのちの木

作者: 加藤貴敏

大きな木が1本、立っていました。

そこにトンビがやって来て、落ち葉をお掃除し始めました。

サッサッ、サッサッ。

お掃除を終えると、トンビは真面目な顔で言いました。

「今日も忙しいなあ」

その後にネズミがやって来て、大きな木にお水をあげました。

シャー、シャー。

じょうろのお水が無くなると、ネズミは満足そうに大きな木を見上げて言いました。

「今日も元気だね」

それからコオロギがやって来て、土に肥料を撒き始めました。

パラパラ、パラパラ。

肥料を撒き終えると、コオロギは一息ついて大きな木を優しく叩きました。

「土が良いのはオレのお陰なんだからな」

最後にキツネがやって来て、空に向かって大きく手を振り、お日さまを呼びました。

お日さまが大きな木に光を照らすと、キツネは言いました。

「今日も、みんな幸せだ」


4匹にはそれぞれ仕事があり、毎日、来る日も来る日も同じ仕事をしていました。

そのお陰で大きな木はすくすく育ち、やがてリンゴを実らせました。

そんな時、そこに男の子がやって来ました。

すると男の子に駆け寄って、キツネは言いました。

「やあこんにちは。ボクはメグルだよ」

それからキツネは幸せそうな顔で男の子をリンゴの下まで連れて来ました。

「食べ物を食べなきゃ、ボク達は生きていけないからね、さあどうぞ」

男の子はリンゴを摘み取りました。


次の日、男の子がやって来て落ち葉をお掃除し始めました。

サッサッ、サッサッ。

大きな木が落とす枯れ葉はそこら中にあり、ちょっとやそっとでは終わりません。

落ち葉をお掃除しながら、男の子は言いました。

「大変なお仕事だなぁ」

次にトンビがやって来て、大きな木にお水をあげました。

シャー、シャー。

大きな木なので、少ないお水だと木は枯れてしまいます。

ようやくお水を上げ終えると、トンビはため息を吐きました。

「ふう、疲れた」

それからネズミがやって来て、土に肥料を撒き始めました。

パラパラ、パラパラ。

肥料を撒き終えると、ネズミは満足そうに大きな木を見上げて言いました。

「今日も元気だね」

最後にコオロギがやって来て、空に向かって大きく手を振り、お日さまを呼びました。

お日さまが大きな木に光を照らすと、コオロギは胸を張って大きな木を見上げました。

「どうだ、気持ち良いだろ?」


男の子はトンビに聞きました。

「キツネは?」

するとトンビは寂しそうな顔で言いました。

「もう来ないよ」

男の子はネズミに聞きました。

「どうしてキツネは来ないの?」

ネズミは落ち着いた笑顔で言いました。

「メグルだったからさ」

3匹と男の子は来る日も来る日も、同じ仕事をしていました。

そのお陰で大きな木はすくすく育ち、やがてリンゴを実らせました。

そんな時、そこにライオンがやって来ました。

するとライオンに駆け寄って、コオロギは言いました。

「よく来たね、オレがメグルだよ」

それからコオロギは胸を張ってライオンをリンゴの下に連れて来ました。

「腹へってるだろ?それ食べなよ」

ライオンはリンゴを摘み取りました。

それからコオロギは大きな木を見上げて、こう言いました。

「友達を大切にしろよ?」


次の日、ライオンがやって来て落ち葉をお掃除し始めました。

サッサッ、サッサッ。

しかしライオンは怠け者で、落ち葉を掃くのを止めてしまいました。

次に男の子がやって来て、大きな木にお水をあげました。

シャー、シャー。

じょうろのお水が無くなると、男の子は安心した顔で大きな木を見上げて言いました。

「君が嬉しいと、僕も嬉しいな」

それからトンビがやって来て、土に肥料を撒こうとしましたが、落ち葉が邪魔で撒けません。

トンビはライオンに言いました。

「落ち葉をお掃除しておくれよ」

しかし寝そべったまま、ライオンは言いました。

「オレがやらなくたって、誰も困らないだろ?そろそろコオロギが来て、やってくれるさ」

するとトンビは真面目な顔で言いました。

「コオロギはもう来ないよ」

「それはどうして?」

「メグルだったから。だから落ち葉をお掃除するのは君の仕事なんだ」

するとライオンは仕方なく立ち上がり、落ち葉をお掃除し始めました。

最後にネズミがやって来て、まだお掃除を終えていないライオンを見て、言いました。

「みんなで手伝えば早く終わるよね?」

男の子、トンビ、ネズミはライオンを手伝いました。

それを見てライオンは気が楽になりましたが、同時に疑問を持ちました。

「ありがとう。でも、最初からみんなでやれば良いんじゃないのか?」

するとネズミは優しい笑顔で言いました。

「みんなが自分の仕事をやるから、みんなが幸せになれるんだよ。君が落ち葉をお掃除するからトンビが栄養たっぷりの肥料を撒けるし、土が良くなるからお水も美味しい。美味しいお水を飲めると、お日さまの光だってもっと気持ちが良いでしょ?」


3匹と男の子は来る日も来る日も、同じ仕事をしていました。

そのお陰で大きな木はすくすく育ち、やがてリンゴを実らせました。

そんな時、そこにヘビがやって来ました。

するとヘビに駆け寄って、ネズミは言いました。

「ようこそ、僕はメグルだよ」

それからネズミは笑顔でヘビをリンゴの下に連れて来ました。

「さあさあ、沢山食べてよ」

ヘビはリンゴを摘み取りました。

その日の夜、男の子はネズミに聞きました。

「明日になったら、居なくなっちゃうの?」

ネズミは寂しそうな顔を見せましたが、それでもすぐに笑顔を浮かべて言いました。

「うん、そうだよ」

「せっかく友達になれたのに、居なくなったら寂しいよ」

するとネズミは言いました。

「いのちっていうのは、必ず消えてなくなるものなんだよ。でもその代わり、必ず新しいいのちがやってくるんだ。そうやって、いのちは巡っていくんだよ」

男の子とネズミはしばらく星空を眺めてから、笑顔で握手を交わしました。

「ずっと忘れないからね」

男の子がそう言うと、笑顔だったネズミは頷き、一滴の涙を流しました。

次の日、ヘビがやって来て落ち葉をお掃除し始めました。

サッサッ、サッサッ。

ようやく仕事を終えると、ヘビはキレイになった土を眺めながら、自然と笑顔を溢しました。

「仕事を頑張った後は気持ちがいいな」

次にライオンがやって来て、大きな木にお水をあげました。

シャー、シャー。

じょうろのお水が無くなると、ライオンは大きな木を見上げました。

それから男の子がやって来て、土に肥料を撒き始めました。

パラパラ、パラパラ。

肥料を撒き終えると、男の子は安心した顔で大きな木を優しく撫でました。

「君が元気だと、僕も元気だよ」

最後にトンビがやって来て、空に向かって大きく翼を振り、お日さまを呼びました。

お日さまが大きな木に光を照らすと、トンビは真面目な顔で大きく頷きました。

「ふう、終わった終わった」


3匹と男の子は来る日も来る日も、同じ仕事をしていました。

そのお陰で大きな木はすくすく育ち、やがてリンゴを実らせました。

その日の朝、ライオンはトンビに聞きました。

「リンゴが実ると、友達が居なくなる。でもすぐに居なくならなくたっていいんじゃないのか?」

するとトンビは真面目な顔で、大きな木を見上げて言いました。

「みんなも、同じ友達だ。男の子も、ヘビも、この大きな木も」

「この木も?」

「この木がリンゴを実らせないと、みんな生きてはいけない。でもこの木も、みんなが仕事をしなければ生きてはいけない。そして新しいいのちを迎える為に、メグルは居る。誰ひとりとして、必要じゃない友達は居ない。それが、生きてるという事だ」

そんな時、そこにゾウがやって来ました。

するとゾウに駆け寄って、トンビは言いました。

「おはよう、私はメグルだ」

それからトンビは真面目な顔でゾウをリンゴの下に連れて来ました。

「しっかり食べて、しっかり生きるんだ」

ゾウはリンゴを摘み取りました。

その日の夜、去っていくトンビが見えなくなるまで、ライオンは泣いていました。


次の日、ゾウがやって来て落ち葉をお掃除し始めました。

サッサッ、サッサッ。

お掃除を終えると、ゾウは得意げな顔で言いました。

「楽しいな」

次にヘビがやって来て、大きな木にお水をあげました。

シャー、シャー。

じょうろのお水が無くなると、ヘビは空のじょうろを見ながら、自然と笑顔を溢しました。

「ちゃんと出来ると気持ちがいいな」

それからライオンがやって来て、土に肥料を撒き始めました。

肥料を撒き終えると、ライオンは黙って大きな木を見上げて小さく頷きました。

最後に男の子がやって来て、空に向かって大きく手を振り、お日さまを呼びました。

お日さまが大きな木に光を照らすと、男の子も気持ち良さそうに伸びをしました。

「みんな元気が1番だね」


3匹と男の子にはそれぞれ仕事があり、毎日、来る日も来る日も、同じ仕事をしていました。

そのお陰で大きな木はすくすく育ち、やがてリンゴを実らせました。

そんな時、そこにあなたがやって来ました。

するとあなたに駆け寄って、男の子は言いました。

「はじめまして、僕はメグルだよ」




おしまい




読んで頂きありがとうございました。



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