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ミッドウェイ海戦  作者: イプシロン
第1章 珊瑚海での戦訓
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第7話 珊瑚海海戦――翔鶴の奮戦

 昭和17年5月8日、決戦の朝が明けてゆく。

 前日、第17任務部隊のうえにあった積乱雲やスコールを降らせる雲は、いまは日本軍のうえにあった。

 それでも双方とも午前6時30分ごろから索敵機を発進させた。

 米側は「レキシントン」からSBDドーントレス18機を。

 わが方の「翔鶴」「瑞鶴」から九七式艦上攻撃機7機が発艦したのは、7時20分のことである。

 別動隊の重巡洋艦も偵察機を発進させる予定ではあったが、悪天候のために中止された。水上機母艦「神川丸」「聖川丸」とツラギ泊地からはなんとか飛行艇が離水したようだが、敵情把握には寄与しなかったらしい。

 8時25分ごろ双方の索敵機はほぼ同時に「敵機動部隊を発見!」と本隊に知らせてきた。

 第17任務部隊は、前日の誤認に懲りていたのか、報告してきた機とは別の機を現地に送って確証を得たうえで発進を命じた。

 8時48分、まず猛禽類を思わせる護衛戦闘機が飛行甲板を蹴って発進していった。次に1000ポンド(約453キロ)の炸薬が装填された爆弾を抱いたSBDドーントレス急降下爆撃機が、そして最後に魚雷を抱えた身重なTBDデバステーターが発進した。

 各機は所属空母ごとに空中集合して雷撃隊、爆撃隊、戦闘機隊を形成し、編隊を組んで目標へとむかっていった。雷撃機21機、爆撃機46機、戦闘機15機、計73機の勢力であった。

 わが方は9時30分、戦爆雷連合攻撃隊69機の発艦をすませている。こちらの爆弾の炸薬量は250キロだが、魚雷に関しては双方にほとんど差はなかったのである。

 インターミディエイトブルーに塗られた米軍機の群れが空を征く。胴と翼に濃紺の円に白い星を描きこんだ国籍マークも堂々として。だが進撃する「レキシントン」隊はぶあつい雲に阻まれ、ばらばらになりがちな編隊を再集結させながらという具合だった。

 それでも双方攻撃隊は突き進んだ。途中双方の攻撃隊はたがいを見てすれ違いもしたが、反転することなく敵空母を目指して猛進したのである。

 午前10時30分ごろ、わが隊の上空に姿を現したのは「ヨークタウン」隊であった。

 胡麻粒が雲霞のごとく湧きあがってきたかと思うと、すでに上空で待ち構えていたわが直掩の零戦がいっせいに迎撃へとむかうのが見えた。対空砲員も機銃要員もすでに準備万端、いつでもこい! という気迫で空を見上げていた。だがどうしたことか空母を護衛すべき駆逐艦や巡洋艦はやけに遠くで航跡をひいている。衝突を怖れるあまりか?……。しかし戦況は彼らの加入など待ってはくれない。

 空はすぐに大混戦になった。やらせるものかと米軍戦闘機も味方攻撃隊を守ろうと躍起になっている。その隙をついて敵の一隊が混戦から抜けだす。どうやら敵はスコールをともなう雨の下にいる「瑞鶴」への攻撃はあきらめて「翔鶴」に狙いを定めたようだ。

「10時方向、敵爆撃機きます!」

「対空砲火、撃ちーかたー、はじめー!!」

 青空に黒々とした煙の花が咲いた。機銃の音は栓をしていてさえ耳元でバケツを殴り散らすようにやかましい。

 艦長は回避のタイミングをはかっている。

 1弾また1弾と黒々とした爆弾が落とされるのが見える。そのたびごとに巨大な水柱が立った。「翔鶴」は右に左に巧みに舵をきって全弾を回避した。

 銃撃を受けた機だろうか、海面に不時着するのが望見できた。敵か味方かの判別すらつかない。

 接敵と同時に発艦した零戦隊が残敵掃討に赴くようだ。そうはさせじと米戦闘機が割りこんでくる。

「第二波、来るぞ! 各員そなーえー!」

 また喧騒がやってきた。だが今度はそれだけではすまなかった。ズシン、ズシンと立てつづけに艦が揺さぶられたのだ。左舷前部への一撃は両舷の錨を吹き飛ばし、前部エレベーターを陥没させた。これでは発艦は不可能だ。

 次の一撃は右舷後部の飛行甲板を痛打し、こんどは着艦を不可ならしめた。

 この2弾を受けたことで「翔鶴」は空母としての機能を完全に喪失した。たった2発の爆弾によってである。

「ちくしょう、やりやがったな!」

 憤りの声がほうぼうから上がっていた。

 その時、以前にも増して凄まじい大音響とともに「翔鶴」がズシンと揺さぶられた。左舷前部の火災がガソリン庫に引火したのだ。とたんに黒々とした煙が塊となって登ってゆくのが見えた。

「消化班いそーげー! 消化班いそーげー!」

 喉もちぎれよとばかりに叫ぶ声がする。防煙マスクをつけながら走っていく者がいる。

 「翔鶴」は機関に損傷はなく、いまだ30ノット(時速約55キロ)以上の速度で海上をひた走っているのだ。凄まじい暴風のなかで消火作業がはじめられた。 あまりの黒煙の量に、

「これは助からない……」

 と思った者もいたという。

 その混乱の渦中に「翔鶴」は雷撃機の攻撃をうけた。幸い零戦隊の迎撃と艦長の見事な操艦によって全弾回避するが、火災はなお収まることを知らなかった。

 だが攻撃はまだ止んでいなかった。悪天候によって落伍機を出して戦力を半減させた「レキシントン」の爆撃隊がやってきたのだ。これは完全な奇襲となり「翔鶴」は艦橋後部付近にさらに一撃を喰らい、乗員を殺傷させられたのである。

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