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ミッドウェイ海戦  作者: イプシロン
第1章 珊瑚海での戦訓
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第6話 珊瑚海海戦――薄暮攻撃

 錯誤はまだつづいていた。

 午後1時から攻撃隊の収容を開始した第五航空戦隊は、2時になって海域にいる各部隊に「敵位置の正確な情報あらずや」と問い合わせた。結果はかんばしくなく敵との距離は開き、攻撃圏内に敵空母群はいないらしいのだ。

 それでも戦意衰えない第五航空戦隊は、午後3時15分、攻撃隊の全機収容を終えると4機の索敵機を放ったのである。

 もちろん米軍も攻撃隊を収容していた。だが彼らは悪化する空模様と敵情掌握の不徹底ぶりから、無理な攻撃は避けて決戦は明日にという考えに傾いていた。

 そのころ第五航空戦隊の司令部では喧々諤々とした議論がおこっていた。

「敵情不明確なまま薄暮攻撃を行うのは、無駄に戦力を消耗するだけです。ここは敵から距離をとり明日の決戦にそなえるべきです」

「何をいうか! 航空戦は先制攻撃したほうが勝つと決まっておる。ここでむざむざと時を費やすべきではない!」

「しかし、わが五航戦はいまだ夜間着艦に不慣れな者が多すぎます。敵に一矢報いての死ならば、搭乗員たちとて納得できよう。だが日没後、母艦を見失って不時着などという憂き目に遭うことを彼らとて受け入れまい」

 ここにきて第五航空戦隊の弱点が暴露されてきたのである。

 空母「瑞鶴」が竣工し、「翔鶴」と護衛の駆逐艦「朧」「秋雲」と第五航空戦隊を編成し終えたのは昭和16年9月27日のことなのである。それから航空隊の夜間発着艦訓練などを開始したのだから……。

 もちろん古強者の威容ある一航戦や二航戦から優秀な搭乗員の移動はあったにせよ、戦隊そのものの練度や航空戦への備えが高かったのかといえば、そこには疑問が残るのである。

「百聞は一見にしかず」

 山口はこうした点に米軍の遊撃ゲリラ戦術の意味を垣間見ていたのだ。

「日頃の猛訓練も大事だが、実地の戦訓に勝るものはない」

 さりとて珊瑚海の荒れだした海にそれを持ちだしてみても仕方なかった。

 結局、重巡洋艦「青葉」偵察機からの報告「敵はわれに接近しつつあり」という情報によったのか、司令部は「翔鶴」搭乗員の意見を聴取しつつ、果断なる攻撃を決意したのである。

 しかしここでも情報はまだ錯綜していのだ。3時20分にもたらされた情報は敵の別動隊の位置を知らせたものであったし、攻撃隊発艦後にもたらされた情報もまた別動隊のものだったのだから……。

 ともあれ攻撃隊は発艦したのだ。夜間帰投に難ありとする護衛戦闘機をともなわずに。

 時に午後4時15分のことであり、その勢力は爆撃機12機、雷撃機15機の計27機だった。

 海上は時化しけり、空には入道雲が沸きたち、ところどろこにスコールを降らしている。だが米軍の目は見開かれていた。彼らには対空レーダーがあったのだ。わが方の攻撃隊を察知した第17任務部隊「レキシントン」「ヨークタウン」はすぐさま20機のF4F戦闘機を発進させて迎え撃ったのである。

 午後6時10分、火蓋は切って落とされた。重い魚雷や爆弾を抱くもの、あるいは発艦後すでに2時間を経過しもはや攻撃ならずと魚雷や爆弾を捨てたもの、護衛戦闘機をもたない攻撃隊に対して火の粉が降りかかったのだ。

 次々に平文で発信される悲鳴のごとき電報が第五航空戦隊に届いた。

「敵戦闘機に迎撃さる。われいまだ敵空母発見ならず」

「わが隊、全滅と認めざるをえず」

「操縦員戦死、偵察員操縦中」

 悲痛な声であり、それでもまだ闘魂を燃やそうとする声には鬼気迫るものがあった。

 約10分ほどの戦闘が終わるころ、真紅に燃える太陽が水平線に沈んだのを期に、米軍戦闘機は母艦へと帰投しはじた。

 四分五裂の体に陥った日本軍もまた同じであった。虚しく海に爆弾を投下した爆撃隊もようやく母艦を発見する。群青の海に浮かぶ真黒な棒が白く筋を引いているのを目にしたのだ。

「着艦よろしきや」

「着艦よろしい」

 信号を交わしあい九九式艦上爆撃機はフックを下して着艦の体制に入る。

 だが何かがおかしい。

「違う!!」

 双方が異変に気づいたのはほぼ同時だった。対空機銃が闇夜に灯ったのと排気管から炎が迸るのも同時だった。着艦しようとしていたのは探し求めていた米空母だったのである。

 攻撃隊はここでまた1機を失うが即座に退避して窮地を脱し、30分ほど飛行して今度は味方の母艦を見いだして着艦した。

 その数6機。日本軍は航空機21機とそれを駆っていた熟練の搭乗員を薄暮攻撃に失ったのである。

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