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ミッドウェイ海戦  作者: イプシロン
第4章 決戦のとき
32/40

第32話 兵装転換

 第一機動部隊の旗艦「赤城」は、

「第二次攻撃ノ要アリ、〇四〇〇(日本時間。現地時間は午前7時)」

 を受信していた。

 司令長官の南雲はそれを耳にして問うた。

「索敵機から何かいってきてはおらんのかね?」

「以前お伝えしたとおりです。〇三四九、筑摩4号機より『天候不良のため引き返す』。〇三五五、利根1号機より『敵15機わが艦隊に向け移動中』。これのみです」

 筑摩4号機の帰投原因はエンジンの不調が主要因であったのだが、それをそのままいい出せない空気が海軍にはあった。故障といってしまうと、整備員に申し訳がない。であるならば天候というどうにもならないことを理由にすれば、搭乗員も整備員も心に傷を負わないですむ。いわゆる情の世界である。

「では第二次攻撃隊は兵装転換ということになるね」

「そのとおりです。敵空母はソロモン諸島の遥か東方です」

「うん、やってくれたまえ」

 こうして兵装転換は下令された。

 「赤城」「加賀」の甲板に並べられた攻撃機、各艦で27機を一度エレベーターで格納庫に降し、抱えている魚雷を外して、陸用爆弾を懸下しようというのである。

 「蒼龍」「飛龍」のほうは兵装転換を必要としなかった。こちらははじめから爆弾を装備していたのだから。

 だが敵は待ってくれなかった。

 「赤城」「加賀」の後部エレベーターが昇降を開始したころ、司令塔の見張り員が叫んだ。

 「敵機6機見える! 左20度、高角10度」

 重巡洋艦「利根」も煙幕で敵の来襲を警告していた。早くも銃撃を開始した駆逐艦もあった。

 敵機は低空を這うよう進んでくる。直掩の零戦隊が急降下してくるのが見えた。

 あっという間に3機が火炎を噴いて海面に叩き落された。

 「赤城」の対空砲も怒号をあげ、対空機銃が唸った。執拗に敵機を狙う零戦を慮りながらの射撃だ。どうも威勢がよくない。

 遮二無二突き進んでくる3機は魚雷を投下したあと2機が撃墜された。照準もままならなかったのか魚雷はあらぬ方向に走り去った。残る1機は零戦に追われながら逃走していった。

 甲板のあちこちから歓声があがる。そのときまた見張り員の声がした。

「大型機4機、右20度、高角10度、こちらに向かってくる」

 敵機は「赤城」に迫ってくる。機銃も対空砲も撃ちまくっている。「長良」からも火箭が迸っている。我もとばかりに戦艦「榛名」は主砲を撃って辺りに衝撃派を響き渡らせた。だが敵の猛進は止まらない。

 そのとき制空隊の零戦が急降下してくるのが見えた。

「撃ち方まてー! 撃ち方まてー!」

 味方撃ちを避けようとして銃砲火が弱まってゆくなか、敵機は一機、また一機と火を吐いて海面へと突っ込んでいく。2機が零戦に撃墜されたのである。

 しかしまだ2機が驀進してくる。両翼から魚雷が切り離され、海面に水飛沫があがった。

 その瞬間ぐうーっと「赤城」が左に傾くのがわかった。魚雷発射を見越して、面舵を一杯に切っていたのだ。艦首をかすめるように雷跡が走っていった。回避したのである。

 やんややんやの歓声が沸き起こり、抱き合う者たちもあった。

 だがまたしても見張り員が声をあげた。

「大型爆撃機15機、二航戦に向かっている。高角40度」

 ふり仰ぐと高度4000m以上を悠々と飛んでいる一団が見えた。先の迎撃で海面近くまで降りていた零戦がエンジン全開で上昇しても間に合わない。直掩隊の中には機銃弾を撃ちつくして補給のために着艦を求める機もあったのである。

 胡麻粒のような敵機から芥子粒のような爆弾が投下されるのが見てとれた。

 「蒼龍」と「飛龍」のまわりに水柱が林立した。あわや……と思って見ていると、両艦とも颯爽と波を蹴って水煙の中からその雄姿を現した。どうやら命中弾はないようだ。

 しかし山口は苦悩していた。

 上空にある直掩機はいずれ着艦させて補給後、再出撃させねばならない。そのためには艦上に用意している第二次攻撃隊を格納庫に収容しなければならない。この際直掩機はすでに格納をはじめた「赤城」と「加賀」で補給を受けさせるか?……いや、そういうわけにもいくまい。どちらにしても第二次攻撃隊を一度格納庫に降ろさざるを得なということか……。山口が最も危惧していたことが起こりつつあった。爆装した艦爆があっても、格納庫にあったのではさしたる意味はない。いやむしろ危険な存在ですらある。すぐに発艦できる飛行甲板にあってこそなのである。

 そのころ、すでに第二次攻撃隊を援護するはずだった制空隊の零戦は直掩のため、すでに艦隊上空に舞いあがっていた。

 一人沈思黙考する山口の耳朶を見張り員の声がなぶった。

「敵機12機、左10度、高角30度、本艦に向かってくる!」

「さらに敵機16機、蒼龍に向かっている。左40度、高角30度」

 「蒼龍」と「飛龍」は直掩隊の零戦に守られながら、激しい対空砲火と転舵でこの危機を乗り越えた。

 急降下爆撃の訓練を積んでいなかったこの米軍爆撃隊は、スキップボミングという方法で爆弾を投下したが、命中弾は得られなかった。

 山口は決断した。彼らが去ったこの空隙をついて第二次攻撃隊を格納庫に降ろそうと。燃料弾薬の補給にと飛来している直掩隊を収容後、再発艦させる。格納庫に降ろした艦爆隊はその後エレベーターで飛行甲板にあげるしかない。そう決めて指令を下したのだ。

 ミッドウェイ基地を発った米軍攻撃隊からの襲撃はこれで終わった。

 だが「飛龍」の後部エレベーターが昇降をはじめたころ、不気味な報告が寄せられたのである。

「敵らしきもの10隻見ゆ、ミッドウェーよりの方位10度、240海里 。〇四二八」

 それは利根4号機からの発信だったが、山口がそれを耳にしたのは、4時40分(日本時間)ごろだった。暗号で打たれた電文が時間差を生んだのである。

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