第30話 吊光弾投下される
第一次攻撃隊の発進が終わっても空母部隊の蠢動が止むことはなかった。
「第二次攻撃隊用意!」
の号令が拡声器から放たれたからである。
三機のエレベーターが軽やかな警報鐘を鳴らしながら上昇し、前部から零戦が、中部から九九艦爆が、後部エレベーターからは九七艦攻がせりあがってくる。
艦載機が甲板上にあげられると、兵員が群がるように駆け寄って発艦位置へと押してゆく。
エレベーターは昇降を繰り返し、飛行甲板には各艦27機が並べられていった。
第二次攻撃隊の準備はなったのである。「赤城」「加賀」には魚雷装備の九七艦攻が、「蒼龍」「飛龍」には爆弾装備の九九艦爆が待機したのである。
明るくなりはじめた飛行甲板を蹴って直掩の零戦12機が発艦するや、第一機動部隊は攻撃隊の帰投を容易にするため、舳をそろえてミッドウェイ方向に突進していったのである。
だがその勇壮たる日本艦隊の上空にはPBY飛行艇が近づいていた。
「大尉、あれは日本軍機では!?」
副操縦士が視野に捉えたのは、遅れて発進した「利根」4号機だった。
「ということは近くに日本艦隊がいるはずだ。全員よく見張ってくれ!」
「あいつは放っておくんですか?」
「かまうものか。俺たちの任務は索敵だ。とにかくよく見張ることだ」
「アイサー」
軽やかだが、緊張を孕んだ声が無線を通じて返ってきた。
彼我ともに機影を視認しあったが銃火は交えなかったのである。
「いた! いましたよ大尉。100度方向」
アディ大尉が視野に日本艦隊らしきものを捉えたとき、巡洋艦とおぼしき軍艦の煙突から黒煙が上がるのが見えた。
「長官、長良と霧島が敵機を発見したようです」
南雲をはじめとする司令部要員は、直掩の零戦が迎撃に向かうのを眺めていた。
「デクスター、発信の準備を」
大尉はそのまましばらく監視をつづけているのか、押し黙っていた。
「日本の空母1を発見。ミッドウェイの320度、150海里」
「暗号電ですか?」
「いや平文で構わん。やってくれ。逐次報告を訂正するために、このまま張りつくぞ」
こうして送られた電文は米空母群には直接届かなかった。だが無電を受信したミッドウェイ基地からの転電を第16、17任務部隊は受信したのである。
そのころアディ機の後方を飛行していたPBY、チェイス機は日本軍の攻撃隊を発見し、後を追いながらミッドウェイ基地にその全貌を知らせていた。
急報を受けたミッドウェイ基地は、すぐさま戦闘機26機を離陸させ、雷撃機6機、爆撃機32機がそれにつづいた。攻撃隊が目指すのは第一機動部隊である。
残された各機も地上で撃破される愚を犯さぬよう、飛べる機はすべて離陸の体制をとった。
ミッドウェイ基地に遅れること数分、第16、17任務部隊を指揮するフレッチャーも、
「攻撃隊発進は午前7時とする!」
と各艦に準備を急ぐよう指示していた。
その15分後、第一次攻撃隊は視野に敵迎撃機の姿を捉えたのである。
追尾をつづけていたPBYの機長チェイス大尉は、果敢にもスロットルを全開位置に押しこむと、日本軍攻撃隊の頭上で吊光弾を放った。
かくしてミッドウェイの戦いはここに火蓋を切ったのである。




