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ミッドウェイ海戦  作者: イプシロン
第3章 進撃
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第20話 アリューシャン作戦

 「北方部隊」は襟裳岬から約20海里(約37km)東方で3隊に分離した。

 細萱隊は「キスカ占領部隊」を伴い、大森隊は「アッツ占領部隊」を伴い、角田隊の第二機動部隊は攻略に先立って敵航空勢力を制圧したあと上陸隊を支援するために。

 堂々とした隻数を持つ「北方部隊」だが、こうして隊を分離してしまうというのは、いかにも日本軍らしい。悪くいえば作戦が高度で複雑すぎ、どうせやるならついでにといった強欲さがあり、自信過剰気味である。良くいえば全ての目標を一気呵成に攻め落とそうという、完璧に過ぎる作戦といえよう。後に米軍の行った島嶼作戦と比較してみればわかりやすい。

 彼はほとんどの場合一度に一つの島の攻略に全力を投入し、作戦成功をもって次にあたっている。

 まずグァムとサイパン、つぎに硫黄島、つぎに沖縄といった具合に。ただ彼にあっては、ニミッツの海軍勢力とマッカーサーの陸軍勢力という二本の矛を持っていたから、同時多発的に侵攻してきたこともあったが、重要な作戦、例えばフィリピン攻略などにあっては、陸海空が一致協力して戦力を全力投入している。これに対してわが方は陸海空の連携が悪かったようにみえる。

 このアリューシャン攻略にしても、東からアダック、キスカ、アッツと並ぶ3つの島に上陸して、それらの東方に位置するダッチハーバーの航空勢力を制圧しようというのだから、相当に複雑な作戦だった。また3隊に分離することで戦力が分散するのは明白でもある。その証拠として北方作戦が順調に進捗しなかった場合、主力部隊の一部――高須隊の戦艦4隻ほか11隻――を差しむけるという作戦計画があったことがこれを物語っている。さらに状況によっては第二機動部隊がミッドウェイ支援に赴くこともあるという計画である。

 まず全力をもってダッチハーバーを空襲し、その後アダック、キスカ、アッツと順次攻略する計画であれば、進捗しなかった場合など考える必要はなかったのではあるまいか。そもそもアダック島への作戦は、上陸後に施設の破壊を行い機雷を敷設したあとは撤収するという計画であり、ある意味ではやらなくてもいい作戦だったのではないだろうか。

 勝てば柔軟性のあった良い作戦であると評価されるのかもしれない。だが失敗すればどっちつかずの曖昧さがあったという謗りを免れないのではないだろうか。

 まずダッチハーバーの航空兵力を徹底的に叩く。そしてアダックは放置しておき、キスカ、アッツと順次攻略すればよかったのではないだろうか。

 しかしやはりここにも無理があったのである。地図ひとつとっても古びたもの――大正時代に作られたもの――と、そのころ撮影された写真一枚しかなかったのである。米軍守備隊がいるのか軍事施設があるのかさえほとんど見当がついていなかったのが実情だった。濃霧に覆われて偵察が困難であったとしても、それなりの事前偵察を行っていた形跡がないということは、卓上だけで練られた作戦計画だったといっても過言ではないかもしれない。

 こうして見てみるとアリューシャンにしろミッドウェイにしろ、良くも悪くも日本人的な作戦だったと思える。欧州や米国に追いついて追いこし、二つの作戦を同時にやってご覧にいれましょうという矜持。また、作戦の合間にじっとしていることが出来ない国民性といい、そこには日本人らしさが滲みでているのではないだろうか。時間が勿体ないからという気ぜわしさからくる哀切さと性急さ。そっとしておけばいい物に手を出してしまう篤実さとお節介さ。寛容でありながら残虐である日本人、菊と刀を同時に愛せるというわが方の気質。この二面性が極端になって現れているということが、ミッドウェイ・アリューシャン作戦の計画から読みとれるのではないだろうか。

 ともかく「北方部隊」は分離進行したのである。細萱隊は「キスカ占領部隊」従え千島列島沿いに進路をとり幌筵ほろむしろを経由しつつ。大森隊は「アッツ占領部隊」を従えて。第二機動部隊――角田隊――はダッチハーバー空襲のために北太平洋を進んでいった。

 その3隊のゆくえには北海特有たる濃厚な霧が待ち構えていたのである。

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