ハロウィンってことで
ハロウィン。
それは、俺達にとってまたとないイベントの一つだ。
ただ一つだけ問題がある。
それは、俺達の内の幾人かが、オリジナル要素をぶっこみまくるという問題だ。
「ハロウィンつったら、仮装だろ?
というわけで、魔法少女の格好をさせてやるぅー!」
「何がというわけでだ! ふざけんな!」
トリスタが団員を捕まえては嬉々として色んなコスプレを着させていた。
なにやってんだあの阿呆は。
「ハロウィンかー……。なら、お菓子用意しようかな」
「ひとつだけ、ハバネーロ入れてみるのも面白いかもね」
「それはいいね」
と思っていれば、親友が女の子の団員達と他料理担当の団員達とお菓子の話をしていたり
「ハロウィン……。それは、悪夢の再来‥。フフフフフフフフ」
「お、おい、ダークの奴が秋の肝試しやろうと計画しているぞ。絶対阻止しろよ!」
「「「おう!」」」
不気味な笑い声をあげる真っ黒ローブを着たダークが危なげな発言をしていたり
「ハロウィンと言えば、ジャック・オー・ランタンだな。やつを倒してレアアイテム手に入れるぞ!」
「「「おー!!」」」
廃ゲーマーどもがこれ幸いにとイベントに奔走していたりしていた。
まあ、これはイベントの時にはよくある風景なのだが、本当に騒がしいな。
「ねぇ」
「ん?」
ぼーっとしていたら、ファンプに肩を叩かれた。
振り替えると、何だが不思議そうな顔をしていた。
なんだろうか?
「今日、何かあるの?」
こてんと首をかしげる鬼人の少女。
俺はその疑問に答えてやった。
「今日はハロウィンだよ。知ってるだろ?」
「……ハロウィンってなに?」
まさかハロウィンを知らない奴がいるとは……。
まあ、ファンプはゲームの中の世界の人だ。
この世界ではハロウィンではなく、仮装祭と言われている。
仮装祭とは、ほぼまんまでただ単純に仮装して三日間過ごすというものだ。
仮装が上手いとご利益があったりして、中々に好評の祭りだったりする。
さて、そんな仮装祭には三日間だけ特別な精霊が姿を表してやって来る。
精霊の名前はジャック・パンプキン・ランタン。
なんかおかしい名前だが、この精霊、仮装祭のときだけは人気が高い。
何故、人気が高いかと言えばだ。
まずこの精霊は仮装していると、無償でお菓子をくれる。
カボチャ頭なら、さらにこれと幸運になる祝福をかけてもらえる。
仮装していないと、やはりというか「トリックオアトリート」と言われ、お菓子を上げると頭を撫でられて、何かレアアイテムをくれるのだ。逆にお菓子をあげないと、悪戯魔法をかけられてしまい、その日1日、恥ずかしい思いをさせられたり、困ったことになったりする。
因みにこの精霊とバトルをすることも出来るため、内のバトルホリックどもは、戦闘経験のために戦いに行ったりする。
この戦闘に勝つとレアアイテムと美味しい経験値をもらえる。
※ただし、負けると非常に恥ずかしいコスプレを呪いつきで1日中過ごすはめになる。
まあ、精霊は寛容な精霊なので、よほどのことがない限りは本気になったりしないし、HPが0になったりもしない。
てきとーに戦って玉砕してください。
とまあ、ハロウィンでやることなんてかなりあるわけなのだが……。
「ーーで、一通り言ってみたわけだが、何か参考になったかな?」
「……なんとなく忙しそう?」
まあ、そうだよな。
というか、アワープレース(うち)が一番可笑しいだけで、他はこんなに慌ただしくないはずだ。
無信奉者もいいところだよな。全く。
イベントさえあれば、一年中毎日のように忙しく慌ただしく生きるんだから。
本当にあり得ない。
だが、だからこそ面白いと思う。
最高だ。本当に。
そういえば俺が去年ハロウィンでやったのはなんだったか……。
「それで、ハガネはどうするの?」
考え事をしていると、こちらを見詰める二対の瞳が俺を捉えていた。
どうするか?
そうだな……。
「……じゃ、まずは仮装でもしてみるか」
「分かった」
まずは形からだ。
話はそれからだろ。
「じゃ、この中から選んで着てくれ」
「な……なんかたくさんあるね」
「あー…うん。まあ、ね」
トリスタの馬鹿野郎。なにコスプレの服増やしてんだ。
つーか、無駄にクオリティが高いものばっかりなんだが……。
ちょっと女の子用の仮装を見てみると……。
パンプキン、オバケ、魔法使い、ミイラ、ヴァンパイア、ゾンビ、甲冑、戦士、僧侶、仮面、魔法少女、ロボット、ボカロ、メイド、スク水って……。
なんか途中可笑しい方向に行ってるんだが……。
いや、仮装以外にも演劇や戦闘用のバトルクロスなんかもあるからまああってもおかしくないけどさ。
つーかなんだあれ。マーメイドとか猫娘とかあるじゃねーか。
完全に奴の趣味だな。うむ。
「ねぇ……ハガネ……」
何故か震えた声が隣の少女から聞こえてきた。
恥ずかしいのだろうか?
と思って横を見ると、顔を青ざめていた。
あれ? なんか思ってるのと違う。
「あれ、なに……」
「あれ? ……ああ、あいつのもここにあるのか」
ファンプが見ている方向を見れば、そこには、仮装を遥かに越えたクオリティの物があった。
その仮装は俺がさっきまで見ていた物とリアリティとクオリティが断然違い、まるでそこにあるだけで魂が宿りそうな雰囲気さえあるような代物だった。
そう、本当にあり得ないほどに高いクオリティだ。
あいつ以外にこんな仮装用の服をネタでここまで本格的に作れる奴はいないだろう‥。
そう
「あのホラー大好きネクロマンサーダークでも無ければ、あんなおどろおどろしいもんはここにないはな‥」
「………ぶるぶる」
そこには、零下5度を越えそうな背筋を思わず凍えさせる戦慄ものの呪われた装備品どもが蠢いていた。
いや、マジで。
蠢くってなんだよ。
なんで装備品が動いてんの?
呪われ過ぎだろう!
何千年ものだよ!
というか、近付いただけで変な呪いとか付きそうで嫌なんだけど!
しかも、なんかケタケタ笑ってるのもあるんだが!
ダークの去年の仮装は最恐の腕長のっぺらぼうの少女だったっか‥。
つーか、夜見ると夢に出そうな仮装止めろ。
お前の出番は夏限定にしろよ!
一年中とか止めてくれ!
「……まあ、あっち行こうぜ。あれを着ろなんて俺も言わないから」
「……う、うん」
こうして、俺達にトラウマを残す仮装部屋の戦慄イベントをこなして俺達は無難に仮装を始めるのだった。
「ーーというわけで、着替えたわけだが……」
「……なんか、恥ずかしい」
適当に仮装をして、町に出た俺達二人。
ファンプは俺の後ろに縮こまって隠れている。
彼女の格好は赤を基調とした魔法少女。
リボンが沢山付いており、可愛らしさをアピールした服装で、幼女や少女が着ると凄く似合って可愛らしさが倍増する‥らしい。(偶然出会ったトリスタが熱弁するには)
まあ、夢いっぱいでいいとは思うけどな。
案外、似合ってるし。
因みに俺の去年の仮装は新撰組。
俺の武器は十手だから、新撰組の服装着るとなんか違和感無くなるんだよな。前着た時、トリスタやペーダにそんなことをボロクソ言われた。
そんな俺じゃ、この仮装はなんか色々と新鮮味がなくて、駄目らしい。
そんなわけで、今年の仮装は去年と比べてかなり変えてみました。
コンセプトは『厨二病』。
『赤と青の瞳』『封印された感じの右手』『なんか無駄に格好いいマント』『伝説の武器っぽいなにか』『闇と光』『指貫グローブ』を入れてまあ、ちょいちょいと仮装してみました。
そうして出来たのがこの仮装。
『獄炎のマント』『精霊の刻印』『凶刀禍月』『イリスカフス』『フィッシンググローブ』『聖天使のマフラー』『バトルパンツ』『呪眼の鞘』『シルフクロス(シルバー基調)』
もう全体的にカオス感が諸々出ちゃった感じだ。
俺の服装を具体的に説明するとだな‥。
『獄炎のマント』闇の黒と蒼い炎を基調としたマント。
『シルフクロス(シルバー基調)』銀を基調とした精霊衣。
『精霊の刻印』右腕に嵌めた魔法文字付きの腕輪。
『フィッシンググローブ』黒い指貫グローブ。
『イリスカフス』茶色のカフスだが、付けると持ち主の瞳の色をオッドアイに変更する魔法が付いている。
『凶刀禍月』血の色のように赤黒い不気味な刀。
『呪眼の鞘』なんか不気味な目の装飾が入った鞘。
『バトルパンツ』普通に実用の黒いパンツ。
『聖天使のマフラー』ファジェルにもらった薄紫色のラインが入った白いマフラー。
とまあ、厨二っぽいのを煮詰めたらこうなりましたみたいな物が出来上がった。
髪も何故か伸びてるので適当に後ろに結ってポニテもどきにしている。
なんか呪われたか?
まあ、そんな格好を俺はしていた。
……感想を言うと、黒歴史百パーセントだったとだけ言おう。
実用に向いているので、そこまで恥ずかしい仮装ではないのがせめてもの救いか……。
「……まあいいか」
「……本当にこの格好で行くの?」
「ああ。どうせこの日だけだ。トリスタじゃないが、精一杯楽しもうぜ」
「……うん」
でも、俺の後ろに隠れるんだ‥。
歩きにくいのは分かっていたので、マントの中にファンプを隠してやった。
俺は身長が高いから、ファンプみたいに小さい女の子くらいだったら普通に隠すことが出来てしまう。
俺はファンプの肩に手を置いて、町の中を歩いた。
「…うーん。まあ、なんというかカオスだな」
「そう、なの?」
少し歩いただけでそんな感想が出た。
いやまあ、ファンタジー世界だからこそ、見た目重視の格好というのは意外といつもと違う感じが滲み出るのだ。
なんというか皆が「このコスプレどうだ?」みたいなどや顔をしながら歩いてるみたいな感じがする。
魔法なんかがあるからか、余計雰囲気が出ていた。
まあ、種族変更の装備なんてものもこの世界にはあるからな‥。
そんな風になっちまうわけですよ。
「さてと、何を食べる?」
「ふぇ? んんと……」
「まあ、まずはハロウィン限定のチョコエッグを買うだろう」
「それは決まってるんだ‥」
「あと、ぐるぐるキャンディは魔法少女には必要だから入れるだろう?」
「それも買うのね……」
「まあ、こういう日はな」
町で二人カオスな町を練り歩く。
獣人の魔法使い、ランタン杖を持つエルフの男性、スケルトンの格好をした魔人、パンプキンヘッドの少年、天使の羽根を背中に飾るドワーフの少女、龍の腕にライオンヘッドを被り蛇の尻尾を付け鷹の足型のブーツを履いてキメラ風に飾った男性、ハートの枕を持って眠たそうに薄着で歩いてるタイガータイプの獣人などなど。
色んなコスプレを見掛けていた。
一部可笑しいコスプレがあるのは恐らくトリスタの入れ知恵が問題だと思われる。
「色んなコスプレがあるな‥」
「そうね……」
キャラメルポップコーンを買って、一緒に食いながら周りを見渡す俺達。
意外にも、沢山の人達がコスプレをそれぞれ楽しんでいた。
なんというか、凄いな‥。
外国人みたいな容姿をする者は侍風にコスプレしたり、可愛い男の娘にメイド服着せたりしてる阿呆を肴に俺達は話をしていた。
ーーまあ、悪くないかな‥。こんなハロウィンも。
そう感慨に更けていると、ファンプに服の裾を引っ張られた。
「ねぇ、ハガネ、あれなにかな?」
そう言って彼女が指を指す方向には、ピンク色のサンタクロースが………。
って、おいっ!?
「レトアっ!?」
「あ、ハガネさん♪ 久し振りです♪」
蒼い眼、ピンクのロングの長身の女の子はにこにこ笑顔で笑っていた。
ハガネは驚いて眼を白黒させていた。
その姿はやはり、サンタクロースだ。
後ろ姿ではあるが白いひげも着けていて、サンタ帽も被ってるのも分かる。
しかし、正面を見たとき、そのイメージはガラリと変わった。
レトアは大きな袋を持って、その場で180度ターンした。
後ろ姿はサンタ帽くらいと不意に覗かせる横顔くらいしか分からなかったが、こっちに体を向けたときの彼女の姿はミニスカサンタだったのだ。
「どうです、この格好は? 完全にサンタクロースでしょ?」
「あー………女の子版なら確かにそうだな」
「??」
レトアは何故かそこで首を傾げた。
なんかおかしなこと言ったかな?
今度は俺が首を捻った。
「サンタクロースに男版があるんです?」
「…いやいや!」
なんでそうなる!?
ハガネは愕然としながら少し考えると、答えがわかった。
こんなことを純真無垢なレトアに教えるバカは一人しかいない。
「この世界にもサンタクロースのイベントがあったはずだが………」
「はい、ありますね!」
「そっちは男版の奴だっただろ?」
「いえ?女の子でしたよ?」
「へ?」
いや、広告の奴にも載ってたのがあったけど、あれどう見ても髭のじいさんのサンタクロースだったぞ?
俺が内心自分の常識を疑っているとファンプとレトアが会話を続けていた。
「サンタクロースって女の子なの?」
「そうなのですよ?」
「じゃあ、あのひげのおじさんは誰なのかな?」
「工場主だとトリスタが言ってましたよ?」
何気に黒幕(情報主)の情報が暴露されていたが、なるほどそう言う理屈で女の子が正式だと思わされてるのか…。
「それで、女の子のサンタクロースって正式だとどんなイメージなんだ?」
とりあえず、俺はトリスタに制裁を後で加えるとして、まずは間違った情報をある程度確認することにした。
レトアはここで真実を打ち明けても、聴かないからな…。
「エルフの女の子がプレゼントを配っているのですよ!」
「エルフね…」
それはあれか?
シルフィ辺りにサンタクロースして欲しいとの催促なのか?
シルフィがコスプレを頑なに拒むからって、色々と遠回し過ぎやしねえか?
しかし、エルフは確かにサンタクロースと既知の関係のような神話が残されているのも確かだ。
その神話でのエルフはサンタクロースのプレゼントを作る作業員として語られていることを俺は何らかの本からの情報から知っていた。
この世界ではサンタクロースが女の子なのかひげのじいさんなのかは知らないが、世界の設定的には確かサンタクロースもジャック・パンプキン・ランタンと同じ精霊の類いになっている。
俺は思う。
何でもイベントの不思議を精霊にすれば良いってもんじゃねぇーぞ!
「二人ともちょっといいか?」
「なんです?」「なに?」
俺は頭を抱えながら、サンタクロースとは何か教えた………。
「つまり、また私は騙されたんですか!」
「うん、そうだ」
「もー!トリスタ~!」
彼女は騙されたことに怒っているようだった。
しかし、その怒り方じゃあ、トリスタは反省しないんじゃないかな…。
ぷんぷんと可愛らしくも真面目に怒っているレトアを見ながら、俺は肩の力を抜いた。
「まぁ、あいつは面白ければ何でもいいと思っているやつだからな…。あと、イベントを魔改造することなんて結構あるからな…」
「トリスタさんは遊び過ぎるんですよ!」
「本人に言ってくれ…」
俺は何度も言ってるのだ。
しかし、あの反省していない顔とキラキラさせた眼は語っている。
「次はどんな風に盛り上げようかな」と…。
「まあ、何にせよ。イベント楽しもうぜ」
「それもそうですね」
「このイベント確か三日もあるんでしたっけ」
「そうだ」
レイドモンスターの一つであるホールドケーキングを倒すのに必要なクエストをクリアするのに必要なクエストが大体それだけあるらしいのだ。あのレイドモンスターを期間中に倒すと、ジャック・パンプキン・ランタンから極レア物の装備品を貰えると噂されていて、レイド系ギルドの連中がこぞって奮闘しているらしい。
クエスト自体の情報はあるから、クリアするのはそれほど時間は掛からないのだろうが、期間中はレイドモンスターが強力なためまだ誰も期間中にそのレイドモンスターを倒せていないのだ。
そのためそのクエストの噂を確かめることはほぼ不可能と言われている。
それでも、やるのがハイゲーマーという奴だろうが。
「レイドモンスター倒すまで結構あるのは分かってます。だからどうしてもそうなるのでしょう」と内の物知りさんが話していたのを覚えている。
「今回、俺はレイドチームから外されてるからな。のんびりしていられるんだ」
「そうなのですか?でも、それでは誰がハガネさんの代わりをするのです?」
俺は苦笑しつつ答える。
「何でも新しい仲間との連携をするための遠征をするらしくてな。新規の奴と被るからってことで外されたらしい」
「ハガネ、もうレイドしないの?」
ファンプが心配したような声音で話し掛けてきた。
俺はそれに即答する。
「それはないな」
「どうして?」
「俺の方が戦闘が上手いから」
これは余りにも明白な事実だ。
個人的な実力も、連携技術も、俺の方が上を行っているのは自明の理だ。何せ俺はアワープレースの初期メンバーなのだから。
「自信過剰…」
「過信はしてない」
「まあ、ハガネが強いのは見ていれば分かりますね!」
「当たり前だ」
俺はギルマスにも認められた壁役だ。
前線で負ける気はしないな。
おっと、今はそんなことはどうでもいいんだった。
何かないか周りを少し探っていると、とある店を見つけた。
「っと、二人ともあれ、食べてみるか?」
「なになに?」
「あー! わたがしだー」
俺が見付けたのはわたがし屋さんだった。
このイベント時スペシャルの商品なのかパンプキン味というのも売られていた。
わたがしにカボチャ味って合うのか?
少し疑問だったが、そこは気にしないことにした。
「おじさーん!わたがし1つくっださいな♪」
「あいよ」
レトアは早速頼んでいた。
行動が速いな。
おや?
ファンプが物珍しそうにわたがしが出来るのを見ているようだ。
わたがしは初めてなのだろうか?
「わたがし、買おうか?」
ぴくっと僅かに反応した。
なるほど………一応興味があるわけか。
ならば
「おっさん、この子にもわたがしを出してくれ」
「了解だ!」
「へ?」
あ、顔を赤くしてる。
病気か?
この世界の病気って何があったっけな。
ちょっと後で検査でもしてみるか。
そこで、ふと隣を見た。
隣ではレトアが非常にわくわくした眼でわたがしを見ていた。子供か。
「はい、わたがしだぞ」
「わーい!ありがとうおじさん♪」
「がははははは!」
おじさんはレトアに照れてるのか嬉しそうに笑っていた。
さてここで考えてくれ。
レトアの姿はミニスカサンタで、大きな白い袋を肩に担いでいるのだ。
しかも、レトアの身長は俺より5センチ低い185センチ台。
そんな女の子が満面の笑みでわたがしを食べているのだ。
え?なにか問題があるのかって?
実はあるんだよこれが…。
俺はさっきから感じる殺気にうんざりしていた。
まあ、俺の身長は190センチだからな。
そりゃ目立つわな…。
そして、そのせいなのか殺気を向けられていた。
この視線がどういうものかは一応知っている。
俺には理解が出来ないが普通の男性は今の俺のような状況にある男を恨むものらしい。
何故これほどまで恨まれなきゃならないのかさっぱりだが…。
シルフィ曰く、羨ましいからだそうだ。
女の子と一緒にいるだけだぞ?
「ほら、嬢ちゃん。わたがしだ」
「…あ、ありがと………」
いつの間にかファンプがわたがしを貰っていた。
心なしかファンプは嬉しそうだった。
美味しいかどうかは知らないが、まあ繁盛してるんだし、問題ないな。
と、そんなことを思っていた時だった。
「ーー!」
突然嫌な予感に駆られて俺は鞘を持ち上げて後ろに振った。
そして、鉄と鉄とがぶつかる音がした。
俺は凶器を見る。
それは、ククリナイフと呼ばれるナイフだった。
今の一撃………後頭部を狙ってやがったな。
周りは突然の音に驚いているようだった。
「どこからだ」
俺はスキルを発動させて調べる。
使ったのはサーチと遠視、聞き耳だ。
アワープレースの初期メンバーは皆恐ろしいほどにスキル熟練度が高い。
そのため、レベルが低くても強いし、スキルに関してはかなり万能だ。
俺だって例外ではない。
だから、ほら………見つけた。
「あそこか…」
「頑張ってくださいねー♪」
レトアはお気楽にもそう言って手を振っていた。
俺もそれに答えて手を振る。
「ハガネ?」
「すぐ戻ってくるから心配すんな。んじゃ、あと頼む」
「了解なのですっ!」
ビシッと敬礼して真面目に答えるレトア。
わざっとふざけているようだ。
こっちは心配しなくても大丈夫そうだな…。
俺は凶器を投げた犯人を追いに走った。
犯人は男だ。
俺よりも背の低い男性。
顔は普通で1度見てもぱっとせず、目立たない感じだった。
こいつ、暗殺者か?
ナイフの手際、目立たない容姿。行動にすら気を配ってる。
明らかに慣れてる感じだった。
だがまあ、俺からすればこんなのはお遊びだ。
スキル達人の巣窟とまで呼ばれた俺達を舐めるなよ?
俺はそいつを追跡する。
隠れる必要なんてない。
俺が関わっているなら、多分あいつらも動くだろうしな。
俺は上も壁も何でもありのルートで敵に近付く。
敵も俺の追跡に気付いているようだ。
あからさまに速度が上がった。
が、まだまだ。
ここからが本番だぜ。
俺はとある魔石を取り出した。
「ハーフウェイト!」
体重を半分にする限定魔法が発動。
これによって、速度がさらに上昇する。
そして、さらに縦横無尽に動ける。
速度は2倍なんてもんじゃない。
さっきの3倍近くだ。
そんな速度で動けば当然、あっという間に差がなくなる。
「っな!?」
「遅い!」
俺は凶刀禍月の一撃を放つ。
ーー7割8分だな。
手加減して、ギリギリまで体力を削った。
もう終わりか?
あまりにも呆気ないため、俺は逆に警戒を強めた。
しかし、待っても特に何もなかった。
どうやら、単発の暗殺らしい。
「はあ………、お騒がせな…」
俺は凶刀禍月を鞘に納めた。
と、ちょうどその時、誰かが俺を呼ぶ声がした。
「おーい」
「あれは………今日の警羅当番のみんなか」
「はぁ…はぁ。ふぅー………よお、ハガネ」
息を切らしてやって来たのは、五人の警団。
この町の治安を守るために作られた組織である自警団である。
「………こいつか?」
「ああ」
「じゃあ、連行していくな」
「頼む」
俺がお願いすると、自警団の皆は去っていた。
ーー続く