7話 依頼
戦闘訓練は、何だかんだで慣れてる。
5戦闘なんてすぐだ。
俺はあのあと、トリスタから呼ばれてとあるクエストを頼まれた。
クエストというのは、依頼のことだ。
それで、そのクエストとは…………。
「コドック盗賊団に捕まっている少女達を助けろ…………ね」
盗賊団がどこにいるかなんて分かりきっている。
うちのギルドの情報力は、なんだかんだ言ってかなり凄い。
専用の書庫まで作っているくらいだ。
この世界における歴史、文化、設定、建物、人種、モンスターや魔物、地形、大陸、能力、スキル、魔法など、様々な情報を調べ上げているそうだ。他ギルドの協力もあってかなりの情報量になっているらしい。
ここまで調べているのは、うちが元々低レベルクリアを目指していたからなのだろう。
何万回もゲームオーバーしても、それでも諦めずに皆で挑戦し続ける。
これが俺達のやり方だった。
今は慎重にやる必要があるので、無理は出来ないんだけどな。
「さて…………そろそろ行くか」
俺は町を出た。
コドック盗賊団がいる砦は、この町から南東の森の奥にある。
本来なら、3人パーティーで行くのが普通なのだが、俺だけは例外だ。
俺はとある理由で一人で行動するしかないのだ。
俺は一人南東を目指した。
ライト草原を抜けて、森に入る。
この森は、ハジメの森と呼ばれる初心者向けのダンジョンだ。
この森の適性レベルは、何のボーナスもかかってない状態ならレベル7だ。
今の俺のステータスは、レベル5相当なので、少し足りない。
とは言えたった少しなのでそんなに問題があるわけでもない。
俺は一人森の中を警戒しながら進んでいく。
「またか…………」
俺は、フォレストウルフの群れをまたしても発見していた。
この森は広い。だから、魔物に気付かれないで先に進むことも出来る。
だからこそ、必要最低限の戦いで順調に進んでいる。
しかし、広いが故にこの森を抜けるのもまた難しい。
こればっかりは仕方ないのだ。
この森にいる魔物は全部で五種類。
フォレストウルフ、ゴブリン、イモムッチ、オチバアント、ヨワイム。
この中でも厄介なのが、オチバアントだ。
オチバアントは、体力も少なく足も遅いがその代わり擬態能力が高く、攻撃力が地味に高いため、初心者の初見殺しの難敵になっている。
発見さえ出来れば倒すのは簡単な上に経験値が美味しい相手なので、意外と狩るのに人気が高い。
まあ、今は経験値ゼロ仕様なので、逆に人気はガタ落ちしているのだろうが。
オチバアント対策として高水準のサーチを発動している。
だから後は個人的に厄介なフォレストウルフをどうにか出来ればいいのだ。
ウルフ系というのはみな足が速く、撒くのが難しい。その上、サーチ能力が高いため、サーチを使った戦闘回避も難しい。
たから、奴にだけは出来るだけ見つからないように進まなければならない。
俺はフォレストウルフの姿を見ながらゆっくり迂回する。
慎重に慎重にゆっくり、ゆっくりと…。
バキッ!
…………フォレストウルフがこっちを見る。
俺がこんなミスをする訳がない。
俺は戦慄とともに後ろを見た。
そこには、コドック盗賊団の盗賊らしき人影が見えた。
あ、の、や、ろ、う!
ふざけんなっ!
俺は走った。見つかってしまった以上逃げるしかない。
盗賊を相手するのにはステータスが足りないので、擦り付けとか出来ない。
俺は盗賊から逃げるように走るしかなかった。
心の中では恨みの声が出てきても、この状況をどうにかするには、実力が足りなかった。
完全に撒くにはフォレストウルフの足が速かった。
だから少しでも状況が良くなるようにとにかく走った。
「ここまで来れば大丈夫だろう」
俺は振り替えって構えた。
右手に十手を構える。
フォレストウルフが立ち止まる。
俺は深呼吸を一つ吐いた。
やれる。俺なら、フォレストウルフをやれる。
倒すまでのイメージを構築する。
最善は、圧倒し続け、倒すこと。
イメージは出来たあとは…………やるだけだ!
俺はダッシュした。
フォレストウルフの全力疾走に比べれば遅いがそれでも速い。
右にいるフォレストウルフを狙って走る!
奴らのうちの二匹は俺の後ろに回る。
前にいるフォレストウルフは俺に飛び掛かってきた!そこで俺は剣術スキルを発動!
「スラストォ!」
スラスト。見た目はただの突き技だ。基本スキルだけあって最初はそれほど威力のある一撃ではない。が、剣術スキルを主として使っている俺が使ったスキルだ。その一撃は並大抵ではない。
俺が繰り出したスラストは、本来のスラストよりも高速で撃ち出され、俺の加速の勢いと奴の飛び掛かりの勢いが余って奴の顔を 貫通(、、)させた(、、、)。
一撃で絶命するフォレストウルフ。草原で戦ったライトウルフよりも強いウルフだが、俺にとってはただの速い魔物だ。
俺はその勢いのまま駆け抜けていき、サーチの反応を確認して振り向き様にフルスイング。
背後から襲おうとしたフォレストウルフにその一撃が割り込んだ。
スキルではないが、この一撃は不意を突いただけあってかなりのダメージを与えた。サーチでタイミングが分かっていただけあって、クリーンヒットを出すのが簡単だった。
そして、続いて迫ってきたフォレストウルフにクラッシュの棒術スキルを発動させた。この十手のもう一つの利点は、剣術スキルだけでなく一部の打撃系スキルが使えることにある。
十手は、斬撃が弱い代わりに打撃が強い武器なのだ。
スキルによる一撃でフォレストウルフが潰れた。
残るは、フルスイングで吹っ飛んだフォレストウルフだけ。
俺は止めを刺そうと奴のところまで走る。
フォレストウルフは、立ったばかりで回復しきれていない。
俺は、ゴルフをするようにフォレストウルフをぶっ飛ばした。
ゴキャ!
骨が折れたような音が辺りを響かせた。
先を急ごう。
ここまでの戦闘で掛かった時間はまだ30秒も経っていない。
だが、俺はその場から逃げることを急いだ。
ドロップが確認したかったがそれよりも遥かに盗賊の姿が気になったからだ。
やはりハジメの森は広い。
こんなことくらいでなんとかなるほどこの世界は甘くない。
スニーキングミッションよろしくなアクションで戦闘を回避していく。
時にハイドで隠れ、時に迂回し、時に駆け抜け、時に瞬殺しながら、目的地へと俺は駆け抜ける。
盗賊のアジトまでそう遠くはない。
あともう少しだ。
「やっと着いた…………」
俺は盗賊のアジトに辿り着いた。長かった。
アジトから百メートル離れた茂みの中に隠れて、見張りをしている盗賊二人を見た。
「…………レベル15とレベル13。普通なら雑魚なんだろうけど…」
倒すには厳しいだろう。
かといってハイドを使って扉を開くのも難しい。
「仕方ない。一人ずつやるか」
俺はその辺に落ちていた石を拾う。
狙うは見張りの一人。
俺はスキルを発動させた。
投術スキル。パワースロー。足を狙っての一撃。まずはこれで一人を沈める。
ゴスッ!
この世界には部位欠損なるシステムが存在している。
手、足、胸、頭といったところに一定以上のダメージを与えるとその部分が動かなくなったり、消えたりする。
だから、見張りに当てた右足が動かなくなって倒れることもあるのだ。
さて、ドンドン行こうか。俺はもうひとつ石をパワースローで投げた。
無事だった奴がこちらに気付いたようだがもう遅い。
もう一人の方の頭に石が当たって、気絶した。
気絶は、大ダメージを与えると起きるたまに起こるバッドステータスだ。急所なんかに当てるとさらに起きやすくなる。
さて、こっちに近付いてきた見張りB。曲刀なんてまた物騒なもん持ってきたなー…………。
俺はハイドを使って、気配を薄める。
見張りがすぐ側まで接近したので、俺はクラッシュで見張りを昏倒させた。
「ふう…………順調にいけば何とかなるもんだな」
こうして見張り二人を何とか撃破した俺はアジトの中へとまんまと侵入したのだった。