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ハイエンドアクション  作者: ナレコ
1/8

1話 旅の始まり

レベル。

それは、強さの指標だ。

このレベルがどれだけ高いかでこの世界の強さが決まってくる。

これは、レベル性のあるRPGであれば、確かに言えることだ。

レベルが一でも違えばそれだけアドバンテージが高くなり、有利になる。

更には、レベルとは、経験の数を表してもいる。

どれだけの場数を踏んでいるか、どれだけこのゲームにのめり込んでいるかは、レベルを見れば分かってしまう。

当然、経験があればあるほど、戦いをこなしているという証明になるので、まず、レベルが高いものが負けることなどほぼないのだ。

ほぼというからには、その逆もまたある。つまり、レベルを越えて、強いものに打ち勝つものもいるということだ。


…………このゲーム世界は、かなりレベルが上がらないことで有名だ。それだけにレベルに差があると、経験の差が致命的に出てくるのだ。

それは事実で、どうしようもないことだ。

だからこそ、レベルを越えて打ち勝つものは、凄いと思う。

私は、一人のブレイヤーとして、それを見ていたいと思う。

血肉が沸騰するような前人未踏のハイエンドのその先を。




…………20××年7月29日18時00分。

それは、突然のことだったという。

日本サーバーだけで100万人近くを越えるVRゲームは、その日、理不尽なデスゲームに化けた。

デスゲームというからには、ログアウトなんてことは出来ないし、一度でも体力が0になれば、もうこの世に生きては、いけなくなる。このデスゲームを終わらせるには、ゲームをクリアすることだけ。



…………本当にそれだけだったのなら、デスゲームとは言え、希望はあったのかもしれない。しかし、それだけじゃなかった。

まさかここまでの暴挙をするとは誰も思わなかった。

その事実とは、レベルの初期化…………ではなく。

それは、経験値が0になる仕様変更だった。

その事実に、どう思ったのだろう?

人々はその事実に怒り、絶望し、嘆いた。

それはないだろうと。

レベルの初期値に固定されたことは、もう、誰にも止められなかった。そして、あまりにも理不尽極まるデスゲームは、こうして始まってしまったのだった。






ーー血の臭いが漂う暗い場所に私はいた。

「……………………」

ここにいるのは、随分と昔のことで、今やわたしの日常となっていた。


鬼人。

鬼と人の血が混ざりあって出来た忌種の一つ。

有名なところで言えばハーフヴァンパイアなんかが当てはまる。

しかしまあ、私の場合、冷鬼という鬼だ。

この世界ではかなり珍しい鬼の種らしく、今や見掛けることがないという弱小の種らしい。

…私はそんな弱い鬼の人種。

だから、人間なんて奴に捕まってしまっている。


だから、私は弱い。

情けないくらいに弱い。

その上、この世界の人達から見れば私は悪だ。

誰も助けてなどくれない。

鬼でもない、人でもないこんな私に手を差し伸べてくれる存在など誰も…いない。


私は、この世界の中で一番孤独だ…。

あまりにも弱く、あまりにも残酷なこの世界は、私という雑魚を呆気なく使い潰してしまうだろう…。

…………もう…嫌だ。


そんなとき、微かに光がこの地下牢に入ってきた。

「ーーっ!」

その光は私としては眩しかった。

誰が入ってきたのかは予測できる。どうせいつもの味気のない昼飯配達だろう。

この時間帯になればそろそろ来る頃だろうとは思った。


コツコツ…。足音が近付いてくる。

私は、力なく下を向いている。

手足には鉄の枷。この枷には鎖が繋がっており、その鎖は壁と繋がっている。

もう、何日経ったか分からない。

それもまあ、どうでもいいことだけれど。


コツコツ…。足音が近い。

私は、そこで前にいるであろう人物を見た。


(…………?)

気のせいだろうか?随分背が小さい気がする。

逆光のせいで、その小さな人物の顔は分からない。

私は、誰なのか分からないその人物をただ見詰めていた。

どうせ、あいつらと同類だろう。さあ、ぶん殴るなり何なりしろ。

そんなやけくそな気分でいたので、私にとってその人はどうでもよかったのだ。


しかし、次の言葉には、度肝を抜かされた。

それも今世紀最大に、だ。

今までそんなことを言う奴なんていなかった。

だから、それを聞いたときビックリした。

なにせ、彼が拘束された私に話した一言は。













「ファイアジェムあるところ知らない?」

「…………………………………………………………………………」










開いた口が塞がらなかった。

意味が分からない。

そこは、「君を助けに来た!」とかだよね!?

なんで「アイテムがどこにあるか知らない?」みたいなこと私に聞くかな!?


そんなの私に分かるわけないでしょ!

このバカァァァァーーーーーーー!!!!


私は、そいつを睨み付けた。

しかし、そいつは意も解さずに


「ん?知らないのか?」


と今更気付いたかのようにこぼした。

今頃!?いや、普通話しかける前に気付いてよ!

私は、生まれてから今まででこいつほど突っ込み満載な奴に出会ったことがないよ!


私がわなわなと震えているとそのバカは、「そうかー、じゃ、またねー」みたいなことを言って立ち去ろうと…………。


「ちょっと待ちなさい!」


「うおぉう!?びっくりしたー」


わざとらしい…驚き方を…………。


「あなた私に何か他に言うことがないの!?」


「え?何かあるの?」


まさかのド天然!

私は、戦慄した…。


「いや、あるでしょ!ほら、あれよ!あれ!私に言ってみなさい」


「ええー?あれって言われてもなー?うーん…………他にねー」


は、や、く、し、ろ!


「あ、あれだな!」


お、やっと気付い…。


「今日はカレーなんだ~。いいだろ~」


「うんうんいいねー。私は、甘口がいいかな~…………って違うでしょ!?」


こいつわざとじゃないわよね!?


「え、違うの?じゃ、あれかな?」


そう言ってアイテムボックスから何かを取り出そうとしている。

もう…こいつには、期待したくない。

それでも一縷の望みを賭けてしまって…。


「ジャーン!初心者ポォォォーーーーション!!」


「何故無駄に伸ばした!」


どうでもいいけどこいつテンション高いな!?


「いや、これは友人が作った「初心者ポォォォーーーーション!!」って言う回復力3割増しの解毒効果と麻痺直し付きの普通のポーションなんだ」


「まさかのアイテム名!」

しかもこいつの友人色々と残念過ぎるでしょ!

解毒効果と麻痺直しの効果ある上に回復力3割増しとかかなり凄いのに、ネーミングセンスがすべてを潰してるわ!


「あ、ちなみに改良に4回試行してるから、「ー」が4個ついてててね」


「そこはどうでもいいわよ!」


「ォォォの部分は3割増しだから3個ついて…………」


「いや、そこもどうでもいいわよ!」

こいつ、ド天然過ぎるわ!私の手に負えない!


「しかし、宣伝するのが難しくてなー」


「いや、その話はもういいわよ!というかどんだけ続けるの!?その話!?」


「分かった分かった。分かりましたー」って言うけどイマイチその言葉、信じられないわ!


おどけたように言いながら、ポーションを私の頭に掛け…。

バシャーーーーー。


「………………………………」ピシャピシャ…………。

「…………よし」


「よしじゃなぁぁーーい!」


髪がポーションで濡れて、ポーションが体を伝って滴る。

あーもう、最悪!

と私が思っていたとき、何かが私の頭を覆った。


「わぷっ!?」


「動かないでなー。わしゃわしゃー」


髪が何かでわしゃわしゃと乱暴に暴れる。


「ちょっちょっとっ!?何をして…………」


「はい、動かない!じっとしててねー」


私が鎖に繋がれているのを利用してなにしてるのよー!

私は、顔を赤くして憤慨した。

それで、抵抗しようと思ったのだが…。


「え…………?」


「お、やっと大人しくなったなー」


気付けば私は、髪を洗われていた。

それをちょっと乱暴に拭かれていたので、私が気付けなかっただけだったらしい。

実際、私が素直に大人しくすれば、ごしごしと丁寧に布で拭いてくれた。


…………ちょっと反省したくなった。

こいつは、バカで天然だけど、こんなに優しいところもあるんだと、思った。私は、別の意味で頬を赤くした。

ポーションのせいか、少し甘い匂いがした。

やがて満足した顔してこちらを見る彼がいた。

逆光になれてきて、やっと彼の顔が見れた。

彼は、ちょっと癖毛な黒い髪に、どこか意志の強そうな少し大きな黒い瞳、笑った顔が新鮮だった。どうやら、14歳くらいの少年らしい。


「よしよし。これで少しは、良くなったろ」


やっぱりだ。彼は、私の頭と顔を拭いてくれたのだ。

何だか心がポカポカするような不思議な感覚がした。

何となく、くすぐったいような甘いような…そんなかんか…。


「いやー、顔の落書き消えて良かったなー。見たときなんかの罰ゲームかと思ったわー」


…………………………………………へ?


「いや、ポーションってかなり便利なんだなー。油性ペンみたいな落書きだったのに楽に落ちたぞ。スゲースゲー。こりゃいいねー」


……………ら、くが、き…?


「髪の毛も随分と汚れていたからさー、試しにぶっかけてみたんだが…………良かったな!ちゃんと落ちたぞ!」


私は、真っ赤になった。

そりゃもう恥ずかしくて恥ずかしくて、真っ赤になってぷるぷる震えた。

こんなことをしたのは誰?

考えられるのは、あのニンゲン、ネ…………。


「どーしたー?震えて?」


私は無言だった。

はっきり言って彼は、何にも悪くないのだが、私としてはそんなことはどうでもよくなった。


ジャラ…………。

鎖が揺れる。ビキビキ…………ガキリ…………。私は、羞恥と怒りに震えながら、力を溜めた。


「…………ん?なんかやばそうだな…。ちょっと離れとくか」


何かが聞こえた気がしたがそんなことはどうでもよかった。

私は、力を解放した。

バッキン!強引に鎖を破壊して、私は、自由を手に入れたのだった。







VRMMORPG最大のゲーム。

テイルズゲート。

その中で、有名なギルドとは、なんだろう?

まず、レイドで有名な高ランクギルド。

「アルティフレア」。

このゲームで知らないものはいないと言われるほどに高レベルで強いギルドだったと聞く。

実際俺がこのゲームにのめり込むときだってそうだった。

あのギルドほど有名な戦闘系ギルドは、そうない。

前人未踏の領域にどんどん入っていくような奴らだったとか、様々な伝説があった。


次に「フルーティコモンズ」

生産系ギルドでかなり有名。

総人数6万近くとか物凄いギルドだった。

あれほどまでの大人数のギルドは、そうはいないだろう。

大体の商店がこのギルドに入っているとか聞いたことがあった。


後は、俺個人として覚えているのが

探索系ギルド「世界冒険譚」

あのギルドは、ゲーム世界の綺麗な写真や面白映像などを撮って、掲示板に載せている。

それが面白く思わずチャンネル登録していたことがある。

今でもあの連中の撮ることは、記憶に残っており毎日楽しませてもらっていた。


他にも色々ある。イラストが上手い「THE OTAKU!」とか、魔物の育成日記つけるような「サモンズ」、初心者に優しい「ラーナーズ」など上げればたくさんある。

だかまあ、最後に紹介するとしたら、これしかないだろう。


俺が入っているギルド。

「アワープレース」。

一応、戦闘系のギルド。かなりの腕前があることでちらほら有名になっていて、いつかレイドボスをたおすことを目標に頑張っていた。そして、ついに倒すことに成功し、あの日の2日前に宴を開いていたんだ。

今となっても鮮明にあのバトルのことが思い出せる。まだ倒してから日が浅いからか、興奮が冷めないところがある。

あの頃は楽しかった。

けど、今は…ギルドホームを中心に情報集めをしないと。




そんなわけで、俺は生産プレイヤーのために素材探しに出掛けていたのだが…………。

盗賊のアジトを壊滅するという一般人プレイヤーからすれば、無理無謀にしか見えないクエストを何とか時間を掛けてクリアした。

地下牢に来た俺は、そこでとある女の子に出会った。


その女の子は、赤黒いような濁ったダーククリムゾンの髪、光のないまるで深海のような青い眼、15歳くらいの幼い背丈に、細い体躯、そしてなにもよりも特徴的な二本の小さな角が生えていた。


間違いない、あの角は鬼の角だ。

角のある亜人など獣人と鬼人しかいない。

その中でも、鬼人の角は分かりやすい。

何故なら、獣人のような毛皮とかの特徴が少なく、ただ人に角が生えているだけだからだ。


まあ、もう少し鬼人の特徴を言うと、興奮すると赤い眼になる、悲しくなると青い眼になる。狂うと髪まで赤くなるなどがあるのだ。

俺が言うなれば、嘘がつきにくい種族ってイメージしかないな。

大抵こいつらは、人前に出られないほどシャイな奴等なのだ。

見ていて、面白い。

この女の子もそんな特徴があって、ちょっとからかってみたんだが…。滅茶苦茶恐ろしい目に遭った。

もうやらない。怖すぎる。

そんなわけで、今、彼女と、俺のいるギルドホームへと帰っている。



「と言っても…まあ、お腹空いて歩けなくなるとか……子供かよ」

「…………仕方ないでしょ…。あんなに力使ったんだから…………」


鬼人の種族というのは総じて力がかなり強く、体力も高い。その上、種類ごとに特殊能力が違ったりする。おまけに再生能力がついているという凄まじさ。だからこそ、鬼人の種族というのは、人気度が高いはず…と思われたが。

その反面、器用さがかなり低いため、生産が全く向かないし、MPも低い。更には、光に弱いという弱点があるためか、日中のステータスは、最大2割減。はっきり言って物理戦闘以外ではあまり役には立たない種族なのである。


お腹空いて歩けなくなるというよりは、もしかすると、日中だからというのもあるのかもしれない。

ほとんどの鬼人は、効率が悪いために日中は寝ているのだ。


………ポーション独特の甘い匂いがする。

エーテル麻酔のような匂いと何かの花の匂いが融合したかのようないい匂いがしてくる。

ポーションは、うまーく作ると甘くて飲みやすいものになるが。

あんまり上手くいかないと、かなり苦い罰ゲームものの味になったりする…らしいが、俺は苦いのは飲みたくないから、そんなものがあったとしても飲まないことにしている。


「…………あともう少しだからなー」


「……………………ええ」


さっきより元気ないな。やっぱり眠たいのか?

むにゅ…………と、力を抜いて俺の背中に体を預けてくる。

ちょっと運びにくくなったような。

まあ、どうでもいいか。

さて、頑張りまーす。

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