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32.な、なんで目が合うのー!

本日四回目の更新です!

ラストに向けて突っ走るだけなんですが、思ったよりも長そうです……!

あともう一度ぐらい本日22時に更新すると思います!

 世界が歪み、そして正常な景色を取り戻すとまたも知らない場所へと現れていた。


「……おいおい、ここは俺達の方の世界じゃねーか。滅茶苦茶だなおい」


 背の低い家が連なっている通りの中央に、睦とリヒャはいた。建物がこれだけ低く建造されているのは猫の背丈に合わせてなのだろう。そもそも建築をする猫など想像したこともなく、そしてこの世界にはリヒャ以外の猫が見当たらなかった。


「って、滅茶苦茶だって?」


 睦は抱えていたリヒャを降ろす。


「まぁ、あの光った現象は俺の力を無理矢理引き出した結果だが、まさかンなことが出来るなんてなぁ。ったく、触れなきゃ問題ねぇと思ってたんだが、とんでもねぇ嬢ちゃんだ」

「どういうことだ?」

「俺が近くに居るだけでまたぶっ飛ぶぞ、あの嬢ちゃん」

「……またって、つまりリヒャはもう」


「ある程度近付いたらあとは自力で探すしかねーな。悪ぃが俺はこれ以上手伝えねぇってこった。わかるか?」


 触れることなくリヒャの力を勝手に利用して、ここへ未茅は飛んできた。――少なくとも睦は未茅の処へと願いながら扉をくぐったのだから、恐らくこの近くに彼女はいるのだろう。

 リヒャが近付けばまたどこかへ飛んでいってしまう可能性がある。彼女がリヒャの力を利用できる範囲がどの程度かわからないが、リヒャ曰く「範囲は狭いだろ」とのことだった。


「どうしてンなことが出来るのか、ある程度の仮説は立つんだがな」


 どういうこと? と目で問えば、


「あの嬢ちゃんの気質が俺達に似てるんだよ。ま、ぶっちゃけりゃ猫っぽいってことだ。似てるってこたぁ波長もちけぇってことでよ、俺のネコマタとしての能力と同調しやすいんだよ、ありゃ」

「……え、何ソレ? 色々と滅茶苦茶じゃね?」

「だから滅茶苦茶だっつっただろうが」


 それはそうなのだが、急に波長とか同調とか語られても正直反応に困るところだった。


「ま、まぁそれよりみっちゃんだ。ちょっと探してくる」

「ああ、探して抱き締めてチューでもしちまえよ。それで万事解決すっだろ。大概の物事はそれでオッケーだろ」

「なんもオッケーじゃねーよ大問題だろ!」

「いや、割と真面目な話そうするのが良いんじゃねぇか。年長者のアドバイスはきっちり聞き入れとけや」


 ぐっ、と言葉が詰まる。そうしたい自分がいるのを否定できないからだ。だからといって本当にそれを行うのは相当な勇気が必要なわけだが。


「と、とにかく探そう! って、俺だけになるか。じゃあちょっと行ってくる」

「他の猫には決して見つかるなよ。そんで嬢ちゃん探して一件落着したら俺を呼べや。お前らだけじゃこの世界は抜け出せねぇだろ」

「ああ、その時は頼むよ」


 片手を上げて走り出す。

 この世界のどこにいるかなんて想像も付かないが、離れていないことだけは確かだ。宛がないのなら片っ端から家の扉を開けて中を調べるしかないだろう。リヒャは他の猫に見つかるなと忠告をしてきたが、それにいちいち従っていたら見つかるものも見つからない。

 まずは手当たり次第とばかりに一番近い家の玄関を開く。やたらと背の低い扉をうまくくぐりながら中へ入ると、それとは見合わぬ段差が大きい階段がいきなり目の前に現れた。とても客人を招き入れるような構造ををしていないが、そもそも猫の世界というのだから、基本的には高いところが好きな猫の遊び心で出来ているのかも知れない。


「てゆーか、誰が作ってんだろうな、これ」


 疑問こそ浮かべど、どこからも返信は無かった。

 二階への道しかない階段を駆け上がってみると、窓が一つしかない殺風景な白い部屋が現れる。誰もいないのかと窓から下を見下ろすと、一人の少女が走り去っていくのが見えた。


「みっちゃんか!」


 未茅と違って二階から飛び降りる勇気は無かったので慌てて階段を駆け下りてその影を追おうとするが、既に姿は消えていた。彼女が行っただろう方向を走っていき、ブロック塀を曲がると――


「な、なんだこりゃ」


 電柱があちらこちらに立っていた。

 天辺には電線もついているようだが、伸びたその線の先は途中の空間に飲み込まれたかのように消えている。電柱の墓場にでも迷い込んだかのような不気味さに通るのを躊躇ってしまうが、未茅が消えた先はここ以外に心当たりがない。

 くっそ、と気合いを入れて電柱をすり抜けて走る。このやたらと立ち並ぶ電柱のどこかで息を潜めているのだろうかと想像し、その想像はすぐに破綻した。未茅という少女は大人しくしてるような性格ではない。

 いくら未茅といえどここで一度は足を止めただろうが、今現在ここにいるとは限らないのだ。


「まったく、鬼ごっこで追い着いたことなんて無いってのに」


 幼い頃にいつもやっていた遊びの一つに鬼ごっこがあった。数人の友達とやっていた遊びだが、未茅はその中でも無双の強さを誇り、彼女が鬼となった暁には決して逃れられる者なく、己が鬼となった瞬間、地獄の鬼役から解放されることはない――とにかく底なしの体力と学校一の俊足が為せる業だった。


(体力で勝てないなら考えろ、考えろ、考えろ!)


 未茅は確かに他人からすればめんどくさい女の子かもしれないが、複雑な事を好んで考えるような子でもない。もし睦から姿を隠したいと考えているならとことん単純に考えるべきだ。体力が追い着かないのなら最短で彼女の行くだろう場所へと向かうべきなのだ。


 ――そして未茅の性格と傾向を考慮しろ。


(……どこかでみっちゃんは俺を見ているんじゃないか)


 睦から逃げていながら、未茅は必ず睦のことを気に掛けている。なら姿を隠しつつ睦を見つけやすい、あるいは見ていられる場所を考えればいい。


(……高いところが好きだろうなぁ)


 なんたらとなんたらは高いところが好き――なんてことが頭の中にふと浮かんだが、すぐに掻き消した。

 思いっきり顔を上げて高いところにある家の屋根を見ると――


「な、なんで目が合うのー!」


 割と距離があるのに未茅の大きな声が轟く。驚いた未茅が慌てて背中を向けたので、睦は思ってもないことを叫ぶ。


「逃げるなよみっちゃん! 逃げたらみっちゃんのこと未茅って呼ぶぞこの野郎!」

「……なっ……」


 未茅の顔が青ざめ、それから紅くなり――そして無表情へと変貌したかと思えば急激に眉を寄せて口をヘの字に曲げ、屋根を遠慮無しに飛び降り地面へ着地した。

 キッと睦を睨んだ未茅は、両手を強く握りしめ、告げる。


「あっちゃんだけはその呼び方許さないよ……!」

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