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28.あっちゃんは私のナイト様だもんね?

前回からかなり経ってしまってすみません!

夏の話なのでまだ暑い時期に完結させたほうが良い気がしています……!

「え?」

「なに?」


 同時に声を発し、その声すら気持ち悪い音へと変貌して聞こえてくる。気持ち悪さが余計に強くなる。景色は混ざり合い虹色へと変貌していき、ふと足下が軽くなる感覚に襲われた。まるでエレベーターがいきなり速度を増して下がっていくような感じだ。

 しかしそれも一瞬の間で、気付けば室内に居た。

 きちんと整理された、およそ六畳間程度の洋室。睦からすれば腰の高さ程度の棚が壁際に一つ、そして仮に未茅が寝るにしてもやや尺が足りないベッドが一つ、大きな窓からは人間が歩くことをまるで考慮していない家と家の隙間のような細い道が続き、実際に道路を挟んでいる家は二階建てが続いているのが見える。

 不思議の国に迷いこんだのではないかと錯覚を覚えたのも仕方なかった。窓から覗く景色の中に人間が一人も見えなければ、感覚的にもおかしくなる。


「ここ……どこだ?」


 リヒャの能力で飛ばされた時と似ているような現象だ。少なくとも睦には覚えのない場所となれば、考えられるのは未茅が望んだ場所に飛ばされたということになるが。


「え、あっちゃんも知らないの?」


 未茅もまた睦と同じく、自分が知らなければ睦が望んだ場所なのだろうと考えたらしい。互いに目を丸くしてしばらく見つめ合う。


「とにかく出てみようよ。ここにいても仕方無いし」


 未茅の提案に頷き、部屋を出てみる。

 足の踏み場に苦労する幅の狭い階段を降りて一階に降りる。


「……いや、なんでてめぇらがここにいやがるんだ?」


 すると、聞き覚えのある声が耳に入り込んできた。


「リヒャ!」


 メタボ気味の猫が椅子の背もたれにふんぞり返っている。


「ここ、お前の家だったのか?」

「まぁ、家はあるこたぁあるが、あんま自分の家ってぇ感覚はないな。滅多に帰ってこねぇからよ。根無し草ってぇのがいいんじゃねぇか。なぁ?」

「いやどうでもいいからそんなこと。それよりもここ、どこなんだよ!」

「俺の家だよ」

「じゃあ俺達を呼んだのはリヒャか?」

「呼ぶわけねーだろ、糞餓鬼。お前等が勝手に来たんだろが」


 ぺっ、とリヒャは床に唾を吐き捨てる。


「あー、リヒャ汚いなー。掃除する人の苦労も考えなよー」

「お嬢ちゃん、そんあこたぁどうでもいい。それよりも何かしやがったな? 俺の能力を勝手に借りて飛びやがった……が正解ってところか。おい、そこまで出来るなんざぁ思ってなかったぞ」

「のーりょくをかりた?」


 未茅が首を傾げる。


「――まぁいい。とにかく何があったか話せ。細けりゃ細かいほど助かるんだがよ」

「あ、ああ……」


 これまであったことを一通り説明すると、リヒャは前足を組んで「うーん」と唸りだした。地元で見るリヒャよりもなんとなく身体が柔らかそうである。


「おいおい、とんでもねぇことになってんじゃねーか。誰かに話したつもりなんざ無かったが、どこかで俺と小僧の会話を聞かれてやがったみてぇだ。そうなると……ここは一番危険だぞ」

「ねぇねぇ、あっちゃんとリヒャは何の話をしてたの? それが私の狙われる理由?」

「お嬢ちゃんはペロペロキャンディでもペロペロしてな」

「あー! 馬鹿にして! ちょっと許せないんですけど!」


 よく摘めるリヒャの腹部の肉を引っ張って未茅は頬を膨らませる。


「やめねぇか! ……ったく、そうだな、この場合の解決方法はその猫が言っていたように嬢ちゃんが死ぬのが一番手っ取り早い」

「論外。あり得ない。お前が死ね」

「……おいガキンチョ、お前そこの嬢ちゃんのことになると熱が入りすぎやしねぇか?」


 うっ、と睦は少しだけ顔を紅くする。


「あっちゃんは私のナイト様だもんね?」

「……は、恥ずかしいこと言わんでいいから。で、他には無いのか?」

「一番は嬢ちゃんの能力を消去することだ。そもそもどうして嬢ちゃんがそんな能力を持っているのか、その原因を突き止めてやりゃぁ解決方法が見つかるんじゃねぇか」

「そんなの分かるのか?」

「俺達猫もそうだが、こういう能力は外的要因による衝撃的な精神面の影響が割とでけぇんだよ」

「……が、がいて……、なんだって?」

「やばい、あのリヒャが難しいことを話しだしたんだよ……」


 睦と未茅が同時に一歩後ずさりする。


「お前等は……俺の素晴らしい知性がまだ理解できてねぇようだな。おほん。まずは聴けや。俺がお前みたいなガキになんとかしろっつったのはそこだ。お嬢ちゃん、原因はお前さんのトラウマなんだよ。強い精神的なショックと元々の才能が混ざり合って俺の能力を間借りできるなんつーやっかいな能力を得やがった。……ならそのトラウマをなんとかすりゃ、嬢ちゃんの妙な力は消えるんじゃねーかってのが俺の推論だ」

「トラウマ……」


 ちらりと未茅を見るが、これだけ脳天気な少女にそんなものがあるのか、睦は疑問に思う。一方でこの間の墓のことや、その町で出会った未茅の友人との会話も思い出していた。

 未茅は何か自分に隠している。

 そもそも睦の住んでいる町に飛んできたのだって、その隠していることが原因かもしれないのだ。

 ちらりと未茅を見てみると、彼女の顔から普段のおちゃらけた感じが抜けていた。真顔でリヒャを見つめ、それから彼女を見ている睦に気付き、顔を背ける。


(みっちゃん……?)


 やはり何かを隠していると確信するに足る。


「ちなみに俺ぁここから出られねぇ。つーか出たら殺されるから出られねぇんだが」

「え、囚われているのか!」

「……あー、えっとだな、これ以上勝手なことしたら嫁にぶっ殺されるんだが……」

「……ああ、うん、そっか」


 完全にかかぁ天下な家族構成らしい。


「リヒャ、だったら一つ飛ばして欲しいところがあるんだが」

「あん、俺が行かなきゃ別にどうだっていいぞ」

「ああ、分かった。じゃあ先ずは……未茅の住んでいたところへ行こう。そこへ行かないと始まらないし」

「あっちゃん!」


 突然、未茅が睦の胸ぐらを両手で掴む。


「ヤダよ! 私は――」

「だったら話してくれよ。」


 睦は逆に未茅の両肩を強く掴む。


「痛っ……痛いよ、あっちゃん」

「みっちゃんは話す気があるような素振りを見せて、実は何も語っていないだろ。分かってるんだ。いや、俺だから分かるんだよ。みっちゃんの幼馴染みの俺だから!」

「……そんなこと」

「じゃあなんで家族に電話したなんて嘘を吐いたんだ!」

「えっ、そん……う、嘘じゃない、よ」

「嘘だ。みっちゃんはケータイを持っていない。家の電話の履歴も確認した。……そしてここ数日みっちゃんと俺は一緒にいたんだ。いつ、どこで、家族に電話した? 公衆電話まで電話しにいったなんて不自然な話だろ?」


 一気にそう捲し立てると、未茅は顔を伏せて肩を震わせた。


「だって……だって、もう、みんなは……」

「何があったんだよ。まさかおじさんとおばさんに何かあったのか?」

「家族は……もう家に、居ないんだもん……」


 その言葉は――予想していなかったわけではないが――言葉を失わせるに十分だった。未茅はさらに強く睦の襟首を掴み、睦は首が苦しくなる。


「だから! 何をしても無駄なんだよ!」

「む、だ……って」

「だって、家に帰っても誰もいないんだもん! 書き置きしかなくて……もう、誰も家に帰ってこないんだよ。こんなの、こんなの信じられるの! 二度と二人は帰ってこないって、すぐに信じられるの!」


 書き置きとやらに何が書かれていたのか、睦は訊くことが出来なかった。とにかく彼女の口から語られた『両親の失踪』という事実だけが重要であり、それ以上を語らせるのは酷だろうと察したからだ。


「だから、ここへ来たっていうのか……?」


 辛うじて、それだけの問いが出てきた。

 そしてなんで慰めではなく質問しか出来ないのか、そのことをとても後悔する。


「――じゃあ両親のところへ行くってことでいいんかい?」


 リヒャの提案に空気を読めと言いたくなるところを、睦はぐっと堪えた。確かにこのままの状態で未茅へ気を遣っていても何も進展しないのだ。


「……無駄だと思う」


 少しだけ涙を流していたのか、目元を拭いながら未茅はそう言う。


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