20.そう、だよね。いるわけないよね。
「あ、あの、東條君……変なこと聞いて、いいかな?」
「へ、へんなこと、ですか」
その変なことの正体が段々と分かってくる。というよりも思い出してくる。
未茅とリヒャが我が家へ来たときに発生したイベントは何だったか。あの時、睦と未茅はリヒャによってどこへ飛ばされたか。
「えっと、私達、実はオーストラリアでとある場所に居たんだけど――」
――飛ばされた先。眼前に広がる広野、そこに存在する地球の臍。
その名は何だったか。
顔中から汗がどっと溢れ出る。
「エアーズロック……って場所だったの。そこに、その、変な話なんだけど、女の子と一緒にいなかった?」
ああやっぱりか……、と睦は頭を抱えたい衝動を抑え込む。
彼女は別に厄介事を運んできたわけではない。むしろ彼女に厄介事を運んでしまったのは自分達だ。
あの時は戻ることだけを精一杯考え、とにかく戻れれば何しても構わないという気持ちが先行し、偶々通りかかった自動車のドアを潜ることで日本へと戻ってきた。
そうその時僅かな間とはいえ睦ははっきりと目の前の彼女に顔を見られていた。そして見ていた。およそ言い逃れができないぐらいに。トドメとしてはその時まだ学校の制服を着ていたことだ。
どうしようもない。言い逃れは不可能。
それでも日本から離れた『あんな場所』に同じ学校のクラスメイトがいるなんて事実はあり得ないので、睦は乾いた笑いを漏らしながら。
「何の話だ? いるわけないじゃんか。あははそうそう、そんなバカな話あるわけないし」
「……あ、うん。そう、だよね。いるわけないよね」
恐らくそのことがずっと頭に残っていたのだろうが、オーストラリアにいるはずのないクラスメイトの男子が自動車を降りたら突然走ってきてドアを開けて中をくぐり姿を消していたなんて珍現象、さすがに受け入れがたいだろう。何度も勘違いだと思いこもうとしていたかもしれない。
(そう考えると悪いことしたかな)
けど、あの時は仕方なかった。あのまま地元の人間に頼ったところで、こちらはただの不法入国者。捕まってしまうのがオチだったことだろう。
「うん、そうだよね。あの時見たあの女の子もいなかったし、顔覚えてたから東條君のところにいたら疑いようもなかったんだけど、そんな魔法みたいなことあるわけないよね。あまりに突然のことだったから思わず急いで日本に戻ってきちゃったんだけど」
「は、はは……」
(お願いだみっちゃん、このタイミングで出てこないでくれ! バッチシ顔覚えられてるみたいだぞ!)
しかし睦は知っている。杉野未茅はこういうタイミングをこそ外さないことを。
「あっちゃぁ~ん! おまたー!」
高らかに響く声が、睦を呼んでくる。
――ああ……さすがだよ、みっちゃん……さすがだ。
両目からしょっぱい涙を流しつつ、これからどうやって誤魔化そうかと頭をフル回転させる睦だった。




