序章 終焉<ラグナロク>
――逃げなければ。
彼らに捕まってしまわぬように。
――助けなければ。
私を逃がす為に城へ残った仲間たちを。
死体の山が築かれている荒野を、私は走る。
よくは見えない。それでも、漂う腐臭と焦げ臭さが全てを物語っていた。
――ここは戦場だったのだと。
そして今、私の大切な仲間たちの墓場となってしまったのだということを。
悲しかった。
私は何も、誰も守れやしなかった。
唯一残ったわずかな仲間でさえ、自らの楯にして私は――。
足が止まる。
過度の負担をかけたせいか、それとも仲間を見捨てた心苦しさからか。私の肺は、もう走りたくない、もうやめてと悲鳴を上げ始める。
それに呼応するように、身体から、力が、抜けて……。
「ぅあ……」
小さな吐息とともに、私は膝から崩れ落ちた。
ぬちゃりと柔らかい泥の地面に、頭から沈みこむ。
もう、立ち上がる気力すら残っていなかった。
「――いたぞ! 王女だ!」
「…………!」
突然の声が静寂を破ったのは、その時だった。
恐怖を感じる。敵意のこもったそれは、私を殺そうとする者たちのもので――。
「く、うぅ……っ……」
捕まる訳には、いかない。まだ、ここで終わる訳には……!
私は最後の力を振り絞って、”王”を取り出した。
「……お願い、私を――」
瞬間、視界が真っ白に染まり、私の意識もそこで、途切れた。