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短編

まっくろけ。

作者: 双六

私には小学一年生になる娘がいます。

その娘が、今度の参観日に『私の〇〇』という作文を書いて発表するというのです。

『〇〇』の部分はお父さんでもお母さんでも、おじさん、おばさんでも誰でもいいのです。

娘は私に「ママにするね」と言ってくれました。

もちろん母親としては自分を選んでくれたことは嬉しいです。

が、少しひっかかったので聞いてみました。


「パパじゃないんだね?」


すると娘は眉をひそめて


「だってー…パパは…」


と言葉を飲み込むのです。


やっぱり。


うちは夫婦共働きなのですが、私の仕事は家にいながらにできる翻訳家です。

旦那は自動車の整備士をしています。

小学校にあがって、ますますおしゃまになっていく娘は、最近夫に触られそうになると、

バッと身を引いて「ちゃんと手洗った? 手見せて!」と言います。


これには身長百八十センチの筋肉マッチョもたじたじです。

だって夫の手はもう洗ったところできれいにはならないのですから。

私はこの手に惚れて結婚したと言ってもいいくらいなのですが、

まぁ、小学校に上がったばっかりの娘にその良さをわかれというのも無理な話です。


娘が目にするのは家にいるパパだけになるので、

結果、「なんかいつも汚い人」となってしまうのです。


これはいかんということで、

夫が休日出勤の日に私は娘を連れて夫の職場見学に出かける事にしました。

おでかけ用の白いフリルのスカートを穿いていくというのを無理やり説得してジーパンに変えさせたせいで、

娘のご機嫌は最初からくもりスタートとなりました。


職場が職場なだけに走り回られると怖いなぁと心配していたのですが、

家とは違うトーンで話す夫が娘は怖かったのか娘はほとんど喋らず、私の後ろで大人しくしていました。



参観日当日。

私たちは夫婦で出向き、夫はビデオカメラを構えます。

なんせ百八十センチマッチョですので視界良好、安定感バッチリの移動式巨大三脚です。


そしていよいよ娘が発表する番が回ってきました。

私はその小さな背中に「お願いね」と念を送ります。


「私のお父さん」


内心で私はパチパチ手を叩きます。

すぐに駆け寄って「よくやったね」と抱きしめて頬ずりしてあげたい気持ちになりました。

しかし、そう思ったのもそこまででした。


「私のパパは手がまっくろけです。家に帰ってくるときは服もまっくろけです。

パパはいつも汚いです。汚い手で私の顔をさわってくるので嫌いです」


もう、わちゃーって感じです。

周りのお母さんもクスクス笑います。

やはり、無理をさせずに『私のお母さん』にしておけばよかった……私は夫にごめんと心の中で謝りました。


でも……。


「でも、パパはまっくろけだけど、パパがまっくろけになるとかっこいいなと思いました。」


……支離滅裂です。

翻訳家の娘とは思えません。

周りのお母さん達もまたクスクス笑います。


ただ、このときひとりだけそうは思っていない人間がいたのです。

この日のビデオをあとで見たら、酷いんです。

手ぶれが。


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― 新着の感想 ―
[一言] 父さーんっ!!(泣) 思わずファンモンの『ヒーロー』が頭の中で流れました! 次から次へと良い話を~!! ホント凄いです! では、しつこい感想すいませんでしたm(_ _)m
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