7月8日 PM6:45 『壊れた爆弾“彼方彩乃”』
世界は決して色を変えたりはしない。
そんな残酷な真実を私は幼い頃から知っていた。
この世界にいる人々は、私を見て笑う。
それがどれほど私の心を傷付けているか、皆はきっと知らないだろう。
私の名前は、彼方彩乃。
生きている意味も、存在する意味も見つけることのできない失敗作だ。
こんなにも世界は残酷で、そんな世界に怒りすら感じている。
それなのに何もすることのできない私は、やっぱり必要のない存在なのだろうか。
「…爆発してやる」
人通りの多い交差点を行き交う人達に向けて呟いてみても、誰1人顔色を変えることなく通り過ぎていく。
誰も私の言葉には耳を傾けない。
私は、自分を見てくれない人間に嫌気がさしていた。
他の爆弾は皆、爆発しないようにとちやほやされているのに、私のことは誰も見向きもしないのだ。
…私は失敗作の爆弾だから?
そんな問いを空に投げ掛けたところで、太陽が返事をしてくれるはずもなく。
思わず泣きそうになるのを堪え、今日も私は家路を急ぐ。
教科書の入った鞄が重い。
私は、爆弾だ。
だけど、爆発することができない失敗作だ。
人間が暮らすこの世界を創造したのは神様だと聞くが、私はその神様に問いたい。
どうして私達のような、世界を滅ぼす存在を造り上げたのか。
どうして私のような、無力な存在を造り上げたのか。
答えはもうずっと、闇に埋もれたままだった。
私が暮らすこの世界では、稀に爆弾として生まれてくる者がいる。
感情を持った、生きた意思のある爆弾とでも言おうか。
私達は人間と同じ身体、心を持って生まれてくるけれど、存在そのものは人間ではなく、爆弾。
ダイナマイトや、そういった類いと同じ。
身体に火種が飛んだり、心が壊れたり、身体が何かの拍子に強い衝撃を受けると爆発する。
文字通り、身体が弾け飛ぶのだ。
個体差によって様々だが、その威力は大きなもので核爆弾と同様。
もしくはそれ以上にもなる。
人間達が笑い、泣き、怒り、そういった感情の渦で生きていく中、私達爆弾は人間になることを赦されなかった空虚な存在なのだ。