四話
体育会へとやってきた悠斗。
そしてレーダーを頼りに体育会にいる悠斗を見つけだした水谷。
月の光が照らしている薄暗い体育館で、二人がついに向かい合った。
「見つけちゃった。追いかけっこはおしまいかい?」
「あぁ。・・・そいつがお前の相棒か?」
悠斗は水谷の隣に立っている男を見ながら言った。
「そうだよ。こいつが僕のパートナーのゲイルだ」
「どうもゲイルです」
少し生意気な水谷の雑な紹介を受けたゲイルはペコリと頭を下げた。
「そいつの紹介はないのか?」
「私、タカエと申します。以後お見知りおきを」
「ハハハ! 以後なんてねぇよ! お前はここで負けて強制送還されるんだからな!」
「強制送還?」
「我々は、能力を与えた人間が負けると向こうの世界に強制的に戻されてしまうのです」
「一回勝負ってことか」
「まぁそういうことです」
「そんだけじゃねぇだろぉ?」
悠斗とタカエの会話に水谷が口を挟んだ。
「あんたらは勝利した回数に応じた生活ができるんだろ? 見たところ初めての戦いっぽいじゃん。一度も勝てないで戻ったらどうなるんだろうなぁ?」
「・・・・・・」
「そうなのか?」
「・・・言ったじゃないですか。生活がかかっているって」
「・・・こりゃ負けられないな」
悠斗は覚悟を決めたのか、ポケットから両替済みの千円札を一枚取り出して、それを右手で握りしめた。
「札に血液が行き渡るようなイメージ・・・」
悠斗がイメージすると、右手の中から炎が吹き出した。
そして水谷がやったように、それを振りかぶって投げた。
手から放たれた火炎弾は水谷めがけて真っ直ぐに飛んでいく。
「初めてにしては上出来です」
タカエが悠斗の火炎弾を見ながら言った。
放たれた火炎弾の先にいる水谷は余裕の表情を浮かべたまま、焦ることなく硬貨を握り、手の平を火炎弾に向けて開いた。
すると、水谷の右手からすごい勢いで水が吹き出した。
その水の威力に押されるかのように、火炎弾の威力は落ちていき、水谷に届く前に湯気を出しながら消火されてしまった。
「なるほど。『火』の能力か。ラッキー! 超有利じゃん!」
「くっ・・・やっぱりダメか・・・」
「なら今度はこっちの番だ! ちゃんと避けろよっ!」
「来ますよ」
「わかってるよ!」
「ピッチャー第一球・・・投げましたー!」
自分自身による実況に合わせるように、悠斗に向かって水弾を投げつける水谷。
それを横に転がるようにして避ける悠斗。
しかし水谷の水弾は次々と飛んでくる。
「そーれそーれ! 第二球! 第三球! アハハハハハ!!」
避けた先にあった体育館のステージには、すでに大きな穴が水谷の水弾の数だけ空いていた。
なんとか避けているものの、5発目を避けたときに足がもつれてしまい、その場に倒れてしまう。
「チャンス到来ぃ! ここで剛速球!!」
水谷は今までよりも大きな水弾を今までの倍のスピードで放った。
「マジかっ!」
倒れていて急に避けられない悠斗は、避けながらもポケットの中から取り出していた千円札を握り締めて火炎弾を放った。
その直後に水谷の水弾が悠斗の居た場所に到達し、大きな衝撃とともに水しぶきとなって床の木くずと一緒に飛び散り、煙が上がった。
「ストラーイク!! アハハハ!・・・はぁ。あっけないなぁ。新人とやっても全然楽しくねぇし」
高笑いから一転、水谷はとても面白くなさそうにため息をついた。
そんな水谷を見ていたゲイルが口を開いた。
「潤。まだ勝ってないぞ」
「あぁん?」
「よく見てみろ」
水谷は水弾がぶつかってモクモクと煙が出ている中を目を凝らしてよく見た。
すると煙の中から悠斗とタカエが姿を現した。
「ふぅ。今のはさすがにやばかったな」
「よくやりました」
「なんで生きてんだよ・・・」
驚く水谷。
そんな水谷を見て、口元に笑みを浮かべながら悠斗が言う。
「ぶつかる直前に床に火炎弾で穴を開けたんだ。んで、そん中に隠れてなんとか防いだってわけ」
「どうして戦い素人のお前がそんなことを思いつけるんだよ!」
「どうしてだろうな? こう見えて生活がかかってるからな。自分の生活がかかってるって考えると、結構頑張れるんだぜ?」
「潤。今のはお前の油断が原因だ」
「ゲイル・・・お前まで僕をバカにするのか・・・」
「おっと、仲間割れはそこまでだ。今度がこっちの番だぜ!!」
そう言うと、悠斗はさっきと同じように千円札を握り締めて火炎弾を投げつけた。
「何度やっても同じだ!!」
水谷はさっきと同じように、右手に硬貨を握り締めて大量の水を吹き出した。
そして火炎弾はさっきと同じように湯気を上げながら消火されてしまう。
「だから無駄だって言って・・・」
「だから油断しすぎだ」
「ハッ!! グアァァアア!!」
ゲイルの声に気づいたのか、湯気の中からもう一つの火炎弾が来ていることに気づいた。
慌てて硬貨をポケットから取り出そうとするが、間に合わずに火炎弾をモロに喰らってしまった。
「よっしゃ!!」
「グッ・・・二個投げてたのか・・・」
「誰が同じ手を何度も使うかよ! それ、もう一回だ!!」
悠斗は同じように火炎弾を投げつけた。
「あまり・・・俺を・・・舐めるなぁああ!!」
水谷は叫び声と共に立ち上がり、千円札を握り締めた。
そして火炎弾に向かって水弾思いきり投げつけた。
火炎弾と水弾。
威力もほとんど同じだが、火は水で消せる。これは世界の常識であり、能力者同士の戦いにおいてもその常識は変わらない。
よって火炎弾は水弾によって消されてしまう。後ろに続けて飛んでいた火炎弾も同じように消されてしまう。
「やっぱりか!」
悠斗はこうなることを予想していたのか、先に水弾の斜線上からズレており、最小限の動きだけで水弾を避けた。
「もうぶっ殺してやる! 絶対だ! 手加減も油断も何もしてやんねぇから覚悟しろ!!」
完全にブチ切れている水谷を前に、タカエは悠斗に聞いた。
「どうします?」
「どうしますも何も無いだろ。誰が大人しくやられるかってんだ」
「では作戦通りに」
「もちろん!」
そう言うと、悠斗は水谷に向かって走り出した。
「なんだぁ? 何のつもりか知らねぇが、当てやすくて助かるぜ!!」
水谷は何枚もの札を握り締めてそれを水弾として投げつけた。
数にして4発。
それに対して悠斗は、自分の着ていた長袖の袖を左手が隠れるくらいまで引っ張って伸ばし、それをからだの前に出して水弾に突っ込んだ。
そして当たる直前に袖を水弾の前にさしだした。
すると水弾はものの見事に逸れていき、悠斗の横へと起動を変えて飛んでいった。
「なにっ!?」
何が起きているのかわかっていない水谷に向かって、右手でポケットから取り出した大量の一円玉を投げつけた。
そして能力を発動させる。
「うっ!!」
悠斗の投げた一円玉は、たった一秒間ではあるが眩しい光へと変わり、水谷の目を眩ませた。
そして水谷の懐に潜り込んだ悠斗は、五千円札を握り締めて、右手に力を入れる。
「俺の勝ちだ」
そして水谷のからだめがけて大きな火炎弾をゼロ距離で放った。
ここまで読んでいただきありがとうございます。
感想とか書いていただけると嬉しいです。
なんやかんやでバトルが終わっちゃいました。
次回もお楽しみに!