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一話

とあるマンションの一室に、一人の男が居た。

正確には倒れていた。


「うぅ・・・」


彼は先ほど路上で全財産が入った財布をカバンごと盗まれてしまったのだ。

彼はカバンに入れていたお金で今月のマンションの家賃を払いに行く途中だった。

結局払うことができなくなってしまい、途方にくれてバタリと部屋の真ん中で倒れ込んでいた。

彼はこのときほどお金の大切さを知った瞬間は無かった。

盗まれて今月の家賃を払うことができなくなったことを大家に話したところ、


「君さ、先月も遅れて払いに来たよね? 先月も言ったはずだけど、今月こそは出ていってもらうから」


ということになり、部屋を出ていく準備をしなければならなかった。

なぜ支払いが毎月遅れているかというと、彼の働いている飲食店では、給料日が毎月の2日なのだ。

そのため月末に払わなければならない家賃の納期が遅れてしまっているのだ。

そして大家さんなりの優しさというやつなのだろうが、出ていくまでの猶予として2日後までに出ていけばいいとのこと。

彼はそのことを思い出したのか、部屋にあった本やCDなどお金になりそうなもので、かつ荷物になりそうなものをダンボールに入れ始めた。どうやら質草にするようだ。

そして集めた物をリサイクルショップに持っていった。




そんなことをしたりして資金を稼ぎ、部屋を出ていく準備をしていると、2日なんてものはあっという間に過ぎていってしまい、ついには部屋を追い出される形で外に放り出された。

今の持ち物は、大きな登山用のリュックに入れた何日か分の食料とリサイクルショップで購入した寝袋、そして着替えと簡単な調理器具が入っている。

季節は幸い夏。彼は寝袋を使って野宿してなんとか過ごすようだ。

所持金は家電やリサイクルショップに持っていたものを売り切って出来たお金が5万円。

買い物もして細かくなっていたので、4万と千円札が8枚とその他小銭で約5万といった具合だ。

そして追い出された彼は、それとなく野宿をしても大丈夫そうなところをさがした。

半日ほどあてもなくさまよい、ついに拠点と出来そうな場所を見つけた。

今は廃校となった学校の体育館裏だ。雨風も防げるような屋根が付いていて、寝袋で寝るにしても床がコンクリートになってはいるが、砂利だらけよりはマシだと思っていた。

そして今晩の夕食は、カップラーメンだ。

質素ではあったが、こんな状況で物が食べられるだけマシだろうと思うことにしていた。

そして興味本位で買ったアルコールランプがまさかこんな形で役に立つとも思っておらず、初開封して小さな片手鍋の下にセットした。しばらくはこのアルコールランプでしのいで、これが無くなってからガスボンベ式のカセットコンロでも買おうという魂胆だ。

リュックからペットボトルに入った水を取り出して片手鍋に入れた。

水は大事なので、多すぎず少なすぎずの量を入れる。

そしてアルコールランプに初点火しようとしたときだった。

なにやらリュックの中をガサゴソとし始めた。


「あ、あれ? 持ってきてない?」


どうやら彼はライターを忘れたようだ。

カップラーメンはあっても火が無ければお湯を沸かすことが出来ない。

しかし廃校となったこのあたりには、コンビニのような施設は見当たらない。

さらにこの地区に初めて来た彼は、この辺の地形を全く把握していなかったのだ。


「そこのお兄さん。良いものあげましょうか?」

「うおっ!」


その声に驚いた彼は身体をビクッと跳ね上げた。

振り向いた先にいたのは、段差に腰をかけながらニコニコと笑う一人の男だった。

黒い燕尾服を着ていて、中は白いシャツに黒い超ネクタイ、頭には黒いハット、手には杖を持っていた。

見た目は若そうで、24~6歳といったような好青年だった。

いつからいたのかは知らないが、恐る恐るといった感じで話しかける。


「お、お前、いつからそこにいた?」

「いつからでしょうか。結構前からあなたのことは見ておりました。綾瀬悠斗(あやせ ゆうと)さん」

「なんで俺の名前・・・」

「あ、申し遅れました。(わたくし)、タカエと申します」

「タカエ? 女なのか?」

「いえ。れっきとした男です。なんなら見ます?」

「い、いいよっ!」


悠斗が少し顔を赤くしながら答えると、タカエはフフフと笑い立ち上がった。


「ではお話に戻りましょうか。どうです? 良いもの欲しくないですか?」

「その、良いものってなんだよ」

「良いものは良いものですよ。例えば今あなたが一番欲しいものとか」

「欲しいものか・・・」


悠斗は考えた。しかし思考するまでもなく欲しいものは思いついた。


「火が欲しい」

「火ですか」

「今からカップラーメン食べるんだけどさ、火が無くてお湯が沸かせないんだ。だから火が欲しい。ライターとかでもいいぞ。なんならガスコンロなら最高だ」

「そうですか。『火』ですか」


タカエは杖を悠斗の方へと向けて、そのまま近づいていった。

悠斗は驚いて後退りをする。


「動かないでください。狙いがズレると大変ですよ?」

「いや、大変とかじゃなくて、杖は人に向けるものではありませんって学校で習わなかったのかよっ」

「いやー学生時代は杖持ってなかったもので」


後ろに下がり続けていると、ついには悠斗の背中に校舎が立ちふさがった。まさに絶体絶命である。


「マジで何するつもりだよ・・・」

「あなたが欲しい良いものをあげるんですよ」

「俺が欲しいのはライターとかだって!」


そう言う悠斗の言葉もむなしく、ついに杖は悠斗の額に当てられた。

目を瞑った悠斗は、杖の硬い感触にドキドキしていた。


「はい終わりましたよー」

「へっ?」


目を開けると、タカエが姿勢良く立っていた。


「これであたなも火を使うことが出来ます」

「はぁ? ライターは?」

「ん? そんなもの必要ありませんよ?」

「え?」


全く意味を理解できていない悠斗。

それを見ているタカエは満足そうに笑みを浮かべている。


「あなたは火が欲しいと言った。だから私はあなたに『火』を与えました。面白いですね」

「何が面白いんだよ」

「だって家も無い、お金も無い、食べ物も無い。そんなあなたが目の前にあるカップ麺を食べたいという想いだけで、火が欲しいと言ったんですよ」

「あ」

「そうです。欲しいものをあげると言ったんですから、家が欲しい、お金が欲しい、美味しい食べ物が欲しい。そう言えば良かったんです」

「今からやり直しとかは・・・」

「できません」

「ですよね・・・」

「そんなあなただからこそ私は気に入り、力を与えたのです」

「・・・力?」


また意味が分からないという顔をする悠斗。

タカエの言っていることは断片的すぎて悠斗には伝わりにくかった。


「言いませんでしたか? あなたに『火』を与えました、と」

「言ったけどさ、あんたライターも何も渡してくれていないし・・・」

「聞けばいいじゃないですか。どうやって『火』を使うのか、と」

「・・・つまり聞いたことには答えるが、聞かれなければ答えないと?」

「そういうことです。なんでも自分の思うとおりに事が進むと思ったら大間違いです」

「・・・・・・」


悠斗は思った。

勝手に色々してるのはそっちじゃないか。

しかし聞かなかった自分にも非はある。

ネットで検索する際も、検索ワード以上のことは教えてくれない。調べるには自分で言葉を入力しなければならない。

つまりはそういうことか、と。


「わかった。じゃあその『火』の使い方を教えてくれ」

「わかりました。では10円を出してください」

「金取るのかよ」

「この世にただは無いのです」

「なんなんだよ・・・」


ブツブツ言いながらも財布から10円を取り出す悠斗。


「ほら」

「ではそのまま右手で握ってください」

「こうか?」

「そして手の中の10円玉にまで血液が行き渡るようなイメージをしてください」

「イメージねぇ・・・」


騙されているのではないかと、少し不審に思いながらも言われたとおりにイメージをする悠斗。


「そして手を開いてください」


手を開くと、そこには100円ライターを半分にしたような大きさのライターがあった。


「えっ!? なにこれ!?」

「これがあなたに与えた『火』の力です」

ここまで読んでいただきありがとうございます。

感想とか書いていただけると嬉しいです。


初のバトルファンタジーとなります。


次回もお楽しみに!

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