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桃色・虫アミ・正義の脇役

「ママー」

「なぁに?」

「こんどねーわたし、げきでしゅやくをやらせてもらえることになったんだよー」

「あら! 本当?」

「うん」

「どんな役なの?」

「えーっとねー。ももレンジャー!」

「よかったわねー。じゃあ、これからママと一緒にいーっぱい練習しましょうね」

「はーい!」



「おい! 起きろ!」

「あ、すみません……」

「ぼさっとするな。行くぞ」

「ういーっす」

 どうやら私は、また寝てしまったようだ。任務中に寝るのは、これで何度目だろうか。もはや罪悪感も無いほどだから、百はゆうに超えているのだろう。この仕事がきつい事もあるし、何より安眠出来ない事が大きいのだろう。……こんな事言ったら、どこでも寝れるだけが取り柄の奴が何言ってやがると、また隊長に怒鳴られそうだが。

 しかし、考えてもみてほしいのだ。誰がジャングルの中に設置された簡易式テントの中で、猛獣の危険にさらされながら熟睡できるというのか。

 あ、言い忘れていた。私が今やっている仕事は、未踏の地を攻略し、そこでまだ見ぬ新種、ないし珍種の昆虫を探す事なのだ。

 何故、若い娘がそんな危ない仕事に就いているのかというと、勿論お給料が良いというのもある。だがそれ以上に、私はこの手で、今まで見た事も無いような虫を捕まえてみたいのだ。……勿論、私のような平社員では、手柄は上司の隊長、いやさ教授にかっさらわれてしまう。それをもどかしく思う事も、たまにある。が。

――嗚呼、だから今日は、あんな夢を見たのか。

 あれは確か、私が幼稚園生の時の事だろう。あの時、あの一度だけ、私は劇の主役を務めた。といっても、ももレンジャーだけで三人もいるような、全員が主役といった風の、親向けの劇ではあったが。そんな事もあったものだ。

 よくよく思い返せば、あの時に私はすでに、かけがえのない経験をしていたのである。

 それすなわち、あの劇では誰もが主役であり、同時に誰もが脇役である、と。

 正義の脇役、というと何だか矛盾しているような不思議なニュアンスになってしまうが、しかしそういう事であろう。自分という個人から見れば、人生という舞台において、常に主役として存在している。けれどももっと大きな視点から、例えば地球規模の世界から、いやそうでなくても良い。例えば自分以外の他人から見れば。“私”など、ただの脇役にすぎないのだ。

 そう思うようになってから、少しだけ気分が楽になった。世界中の誰もが同じ境遇ならば、これほど心強いものは無い。だから今は功績など気にせず、自由に虫を追いかけている。もっとも、そう考えるようになってからの方が珍種発見率が上がっているのは、何とも皮肉なものだが。


 そして今日も私は、相棒のピンクの虫取り網を手に、まだ見ぬ世界へ踏み入っていくのであった。


人生皆主役であり、人生皆、脇役ですよね。

正義君ネタをひっぱろうか迷ったのは内緒です。

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