黄昏・屍・きわどい運命
あの時、俺達は電車を乗り継いで、とある田舎に来ていた。俺が海に行きたいと良い、彼女が山に行きたいと言った結果である。そこは海沿いの村だったが、すぐそばには山もあるような理想的な場所だった。
一日目は山にハイキングに行った。そう言えば聞こえが良いが、実際は宿の主人に付き添って、山菜狩りを手伝わされたのである。俺達が泊まった宿は、老夫婦が趣味で経営しているような所だった。だからこそ、足を引きずりながら山に向かおうとする心優しき老婆を、放ってはおけなかったのだろう。普段は冷たい彼女だが、そういう一面もあるのだ。それに、山菜づくしの夕飯はおいしかったし、変なきのことかもあって面白かったから、結果的には良かったのだが。
そして翌日は前日が山だったので、勿論海に行った。夫婦が持たせてくれたお弁当を持って、俺達は一日中遊び回った。最初は焼けるから、と言って嫌がっていた彼女だったが、入れてしまえばこちらのもの。子どものようにはしゃぐ姿が、客観的に見てもとても可愛かった。
そして、粗方海を満喫した後、ふと帰り道に気になる看板を見つけて、俺達は進んでみる事にした。錆ついた看板からかろうじて、こんな文字が見えたからだ。
「展望台」
そこは、お世辞にも整備されているとは言えない、ただの小高い丘だった。確かに海は近いし、絶景と言えば絶景なのだが。
しばしそこで閑談をし、空が茜色に染まる頃、彼女は俺に言った。
「私がもし死体になっても、貴方はそれでも、私を愛してくれる?」
その時は、いつもの笑えない冗談かと思った。彼女はどうも、人と感性がずれているのか、時々こうして毒を交える。それを知っている俺は、意にも介さず笑って答えた。
「それは普通、おばあさんになっても、とか言わないか?」
彼女はそんな事分かっている、失敬な。と言った様な顔で、それに異を唱える。
「でも、人はいつか死ぬものよ」
「そうだな」
「私が先に死んじゃうかもしれないのよ?」
「そうだな」
「でもそれでも、貴方は私を思い続けてくれる?」
「そうだな」
「もう!」
ここで、彼女は勢いよく立ち上がって憤慨した。
「またそうやって適当に流すんだから! 聞いてるの?」
そう、俺に言うつもりだったのだろう。しかし。
「あ」
俺達が座っていたのは、転落防止の為に備え付けられていた柵の上。
バランスを崩した彼女は、そのまま真っ逆さまに、海へと飲み込まれていった。
俺は迷わず、彼女の後を追い、頭から転落した。
――あれから数か月後、彼女は今も、俺のそばにいる。
「俺は、君をいつまでも愛してる」
そう言って毎日、俺は物言わぬ彼女の冷たい唇に、口づけを交わすのであった。
きわどい、というより、あやうい、の方が近い気がします。




