太陽・砂時計・見えない目的
じりじりじり。照りつけるというよりは焦げつけると言った方が正しいのではないかと錯覚を覚える炎天下。俺と相棒は、だだっぴろい砂漠の中をただただ歩いていた。
え、何で砂漠にいるのかって? そりゃあこいつに聞いてくれよ。
「あ、私のコンパスがこっちって!」
……この天然天真爛漫女の所為で、俺は振り回されているのだから。
今日も今日とてそんなボケた事を言いやがる相棒に、もはやルーチンワークと化したように俺はツッコミを入れる。
「いや、それどう見ても砂時計だから。お前、自分の意思で動かしてるだろ?」
「ばれたかー」
「ばれないとでも思っているのか……」
「えへへ」
まるで自分のした事が露見した事を喜ぶ悪戯っ子のように、彼女は無邪気に笑う。その普段通りの様子に、俺はあからさまに、はぁと溜息をついた。
「でもねー、太陽がこっちの方角にあるから、私達の行き先はこっちなんだよ?」
そんな俺を気遣ってか、はたまた更に困らせる為か、彼女は少し理屈っぽい事を言い始めた。
だが、それは穴だらけの隙しかない論理。所詮、その場しのぎの言い訳に過ぎない。だからそれにいちいち反応してやる必要も無いのだが、無視するとそれはそれで後々面倒になるので、具体的に言うと駄々っ子のように泣きじゃくるので、俺はきちんと訂正を入れる。
「なんだよ、って言われてもなぁ……。大体、場所と時間で太陽の位置なんて変わるものだろ?」
「やだなぁ、その為の時計じゃないか」
「ついに時計って認めたよ!」
「まぁまぁ、安心しなさいな」
そう言って、相棒は先程から手で弄んでいる砂時計を示す。一見するとアクセサリーと見まごうほど美しい装飾と奇妙な造形をした、ずっと首に掛けているそれを。
「じ・つ・は。私はこの旅の間中ずーっと、こいつできちんと時間を測っております」
じゃじゃーん、と効果音まで付けて重大発表をしてくれたが、もうこれはボケでしかない。
「果てしないな!? どうみても五分計だろそれ!?」
「残念。こいつはカップラーメン専用器でね」
「三分かよ!?」
「それに、私の腹時計も同じ時間を示している」
「せめて体内時計と言ってくれ!」
「とーにーかーく。時間に関しては問題ないね」
「問題大ありの気がするのは俺だけなのかそうなのか……」
「さぁ、行くよ! 私達の旅はこれからなのだ」
ずんずんと元気に進む彼女。その背中に、俺はぼそりと愚痴をこぼす。
「その目的さえ、俺は聞いていないんだがな……」
「ふふふ。何事もサプライズだよ」
「俺は平穏を愛する男だ」
「では言い変えよう。人生行き当たりばったりだ」
「やっぱりこれ適当に歩かされてるだけなんじゃないか!?」
「ふふふ」
はぁ、と俺は二度目の溜息をついた。この表情をした相棒からは何もまともな事を聞き出す事は出来ないと、これまでの経験から熟知しているからであった。
だから仕方なく。僕らは今日もあてどなく、地球のどこかを彷徨うのであった。
見えないだけできっと彼女自身には目的があるのです。
それを彼に教える訳にはいかないだけで。
目標が目的にすり変わったらこうなるんだろうな、と思いながら書きました。




