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卒業式・妖精・正義の記憶

 僕、(ひかり)正義(まさよし)には、卒業式の思い出が無い。

 何故ならば僕は幼い頃から体が弱く、卒業するにも出席日数が足らず、一苦労してきたからだ。親と担任教師、校長まで巻き込んだ病室での話し合いの日々を、僕は忘れる事は無い。

 本当は、僕はクラスの中心にいるような存在になりたかった。名前の通りにヒーローにはなれなくても、誰かの役に立てる人になりたかった。でも神様は、それを許してくれない。虚弱な僕は人に迷惑をかける事はあっても、誰かを助ける事は出来ない。

 それでも、そんな僕にも、憧れるものがあった。それは、“卒業証書授与”という奴である。クラスの代表として、先生からうやうやしく証書を受け取る。独特の緊張感の中、皆から注目を集めるあの大役を、一度で良いからやってみたかった。

 しかしそれも、叶う事は無いようだ。容体は日に日に悪化の一途を辿っている。卒業式はあと一か月後。到底治る見込みは無い。現在高校生であり、大学になんて行けそうにもないこの僕は、これを逃したらもう、学生という身分すら失ってしまう。

 そうやって、諦めかけていた時だった。


 卒業式が翌週に迫ったあの日、僕の元に見知らぬ看護師が現れた。彼女は部屋に入って来るや否や、こう尋ねてきた。

「そんなに、卒業式に出たいの?」

 どうして彼女がその事を知っているのかは分からなかったが、僕は即答していた。

「うん」

 そして、その早さに応えるように、彼女もまたすぐに魅力的な提案をしてきたのである。

「じゃあ、その夢を叶えてあげる」

「本当?」

「でもその代わり、またしばらくはベッドに寝た切りのままよ?」

「それでも良い」

 僕ははっきりと言った。

「僕は、皆と卒業したい」

 長年の夢が叶うのなら、それで良いと心から願った。

「……分かった」

 その看護師はまるで、願いを叶えてくれる妖精のように、僕には思えた。


 そして当日。本当に僕は学校に行ける事になった。勿論車椅子に乗ったままではあったが、僕は体育館に入る事が出来た。久々に見るクラスメイトの顔がまぶしい。

 先生に無理を言って、特別に名前を呼んでもらった。後から聞いたのだが、看護師が話を通してくれたらしい。憎い事をする。そんな事を知らない僕はただただ嬉しくて。はい、と大きく返事をして、卒業証書を受け取った。一枚の紙のはずなのに、腕にずしりと重みを感じた。

 その後はやはり、予想通り病院にとんぼ返り。そこまで体調は悪くはならなかったものの、外の空気は体によくないらしく、しばらく寝込む事になった。まぁ、いつもの事である。

 それよりも、枕元に飾ってもらった卒業証書の事が頭から離れない。練習には一切参加する事が出来なかったので、礼のタイミングも分からなかったし、歌も歌えなかったが、あの独特の雰囲気。僕は一生忘れないだろう。


 こうして、僕の記憶にやっと、“卒業式”という一ページが加わった。


正義って見た瞬間、まさよしとしか読めなくてですね……。

前話に引き続き、名前として使用させていただきました。

どうでも良いですが、看護師さんには良いイメージが強い僕です。

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