過去・人形・魅惑的なヒロイン
主人公を学生にしたら学園もの?
「えー、では転校生を紹介する」
新学期が始まって、一カ月くらい経った、そんな中途半端な時に、彼女はやってきた。
「よろしくお願いします」
その子は、茶色がかった長髪を耳よりも高い位置で二つに結んでいて、いわゆるツインテールという髪型で初登校を果たした。うちのような片田舎の、校則が緩い高校だからこそ、何もとがめられないで済んでいるのだろうが、それにしてもなかなか勇気あるセレクトである。それにもかかわらず、
「わぁ、かわいい」
「すげー美人」
「彼氏はいるんですかー?」
などと呟きや質問が出るほどに、彼女は可愛らしい。目鼻立ちがはっきりとしていて、スタイルもすらりとよく、そう、彼女はまるでお人形さんのようなのであった。
こんなに可愛い子は今まで見たことがなかったので、僕も他の男子たちと同様、ぽーっと見惚れていたら、
「じゃあ、席は大田の隣な」
なんと彼女は僕の隣の席に着くことになった。
「よろしくね」
そう微笑みかけられただけで、僕は天にも昇る気持ちだった。
何を話したわけでもないけれど、美人が隣にいるだけで、テンションはうなぎ上りである。家に帰って夕飯を食べているときも、僕の頬は緩みっぱなしだった。上機嫌のまま風呂に入ろうとすると、何故か母に呼び止められる。
「ねえ、ここにあった人形知らない?」
「人形?」
指さされたところを見てみると、なるほど、確かにいつも飾られているカントリー調の人形がなくなっているではないか。
「知らない、けど」
「あらそう。どこ行っちゃったのかしらね」
母はあまり気にしていないらしく、そのまま洗い物をしに台所へ行ってしまったが、僕は引っかかるものを感じた。何故なら、僕の家からいなくなってしまった人形は、ツインテールの女の子だったからである。
「ま、まさか、な……」
妄想力盛んな僕としては、しかし見過ごせない一致なのであった。
そんなわけで翌日、本人に聞いてみた。すると、ちょいちょい、と人のいないところまで呼び出される。そんな、人目を気にするだなんて、もしかして、本当に……。
「んなわけねーだろ、バーカ」
耳元で囁かれたのは、そんな心無いセリフ。放心状態の僕をよそに、すたすたと自分の席に戻る彼女。僕も悪かったが、いやはや、女の子って怖い。
後日、いなくなった人形は棚と壁の隙間から無事発見された。
発見されたときは、僕が中学校を卒業する時のこと。当然、あの彼女とも以後、会うことはなくなった。事実としては、それだけ。妙に綺麗に一致するという偶然は起こったのに、そこからその彼女と仲良くなるという奇跡は起こらなかった。ただそれだけ。
そんな昔話を友達に話したら、見事に不思議ちゃん認定された。謎の高校デビューを果たしてしまった僕だった。