魔女の卵
今回は双子達のつかの間の休息を描いてみました。
しかし、やはり双子の行くところ必ず問題が起きる。
さて今回は何が起きるのやら……
連邦政治の中心都市
[ジュリアス]
深夜のジュリアス15番街……
ここは繁華街となっていて、深夜にも関わらず人が娯楽を求め行き交っている。
そんな様子をラズロットとリズロットは少し高いビルの屋上に腰掛け眺めていた。
トルーマン議員暗殺の妨害の後、迎えが来るまで約3時間、何もすることが無い。
そこで二人は、道行く人間達の心を覗き見て暇を潰しているのである。
『あそこの禿げた人、相当病んでるですね……』
ラズロットが一人の千鳥足で歩く禿げた男を指差す。
『…確かに今夜にも屋上からダイブしそうなのだ♪』
リズロットもそれを見て頷く。
二人は既に2時間近くこれを飽きもせずつづけている。
『お~い、君達!』
下から声がした。
確認してみると、一人のお巡りさんがいた。
『迷子かな?とりあえずそこから降りなさい。』
二人は、お巡りさんの言う通りに3階建てビルの屋上から飛び降りた。
この高さから子供が飛び降りれば、普通なら命は無い。
『あぶない!!』
当然お巡りさんは凄い形相で叫ぶ。
彼の脳裏には、「警官、飛び降りろ!子供が転落!!」という新聞一面記事がよぎっていたことだろう。
しかし、彼は次の瞬間、我が目を疑った。
二人は、ふわりとまるで体重が無いかの様に着地したのだ。
『迷子じゃ無いのだ♪』
『お迎えを待ってるのです♪』
二人は少し離れた所にある駅を指差しながら言った。
彼は首を傾げながら、
『駅に迎えに来るのかな?』
と尋ねる。
二人は頷く。
彼は二人の親が始発で迎えに来るのだと考えた。
全く非常識な親がいたものだ……
とりあえず、放って置く訳にもいかないので分署(日本の警察の交番)で保護するしか無い。
『……とりあえず分署に……あれ?』
二人の姿は既にそこには無かった。
二人はお巡りさんが考え込んでいる間に、面白い人間を見つけ、その後に付いて歩いていた。その人間とは、黒縁メガネにボサボサ頭、そしてジーパンにトレーナーと冴えない服装の20代後半の女性だった。
どうやら彼女は今日仕事をクビになり、この後どうすれば良いのか解らず、この街をさ迷っているようだ。しかし、双子が興味を持ったのはそこではない。
双子が興味を持ったのは彼女が人間であるにも関わらず、微かに魔力を感じた事である。
『魔女の家系かの?』
リズロットがラズロットに尋ねた。
『かもなのです♪』
ラズロットは嬉しそうに答えた。
しばらく歩くと、彼女は路地裏に入っていった。
二人もそれを追って路地裏に入ったその時、二人の予想していなかった事態が起きた。
追っていた女性が物陰から現れたフードを被った男にナイフで刺され、手に持っていた鞄を奪われたのだ。
男はラズロット達とは反対側の方向に走りだした。
『リズ!八つ裂きなのです!!』
ラズロットがそう言った瞬間、リズロットは瞬間移動したかの様に男の前に現れた。
男はリズロットを突き飛ばそうとしたが、その瞬間、男の側頭部にリズロットの回し蹴りがめり込んだ。
命中した…ではなく、めり込んだ…である。
ゴキンっと言う固い物が折れる音とブチンっと言う柔らかい物がちぎれる音が混ざった嫌な音と共に男の頭部が胴体から離れ、壁に叩きつけられ、さらにグシャッと言う嫌な音がした。
頭を失った胴体は、首から噴水の様に血を吹き出しながら、よろよろとしばらく歩きパタリと倒れた後、ピクピクと痙攣するように動いている。
『ナイスシュートなのです♪』
その様子を見たラズロットが拍手をした。
命を奪った事への罪悪感は全く感じていないようだ。
リズロットも躊躇する事無く、男の死体な手から力任せに鞄を引きはがし、
『取り返したのだ♪』
と嬉しそうに跳ねながら倒れた女性の下に鞄を見せる。
すると、女性から微かな反応があった。
『ナイフで心臓をひと突き……間違いなく致命傷なのです♪』
ラズロットは呑気にそう言いながら女性の下に歩みよる。
『だったら早く壊れた所を直すのだ!』
その様子を見たリズロットは苛立ちラズロットを急かす。
『言われなくてもやるのです……』
ムッとした表情でそう答えたラズロットは、左手を女性にかざした。
そして、目を閉じ精神を集中する。
すると、ラズロットの身体が穏やかな光に包まれ、更にその光が左手を通して女性の身体に流れ込んでいく。
すると、ナイフで刺された傷はみるみる塞がり、衣服も何も無かったかのように元通りに戻ってしまった。
『大丈夫かの?』
彼女の身体の修復(治療)を終えたラズロットは、心配そうに顔を覗き込む。
その瞬間、
『うわああああ!お化け!!』
彼女は飛び起き、壁際まで逃げる。
『お化けとは失礼なのです……』
ラズロットは頬を膨らませ怒ったが……
まあ無理も無い、双子の青白い肌に紅い眼、アイシャドウの様に黒くなった目の回りと黒い口紅を塗ったような唇は幽霊の顔そのものである。
ちなみに、双子は化粧はしていない、そういう顔なのである。
『鞄も取り返してあげたのに、失礼極まり無いのだ!』
リズロットは取り返した鞄を差し出しながら言った。
『あ……ありがとうごさいます……』
彼女は、恐る恐る鞄を受け取り少し考えた。
確か、鞄を奪ったのは成人男性、子供がどうやって取り返したのだろうか。
その時、彼女は不意に触れた後ろの壁のヌルッとした感触に驚き、振り返った。壁には大量の血と肉片がこびりつき、足元には首の無い死体が転がっていた。
『ひぃ!こ…これ!!』
彼女が腰を抜かす。
『ムカついたから強盗さんを八つ裂きにしたのだ♪』
リズロットは嬉しそうに飛び跳ねながら言った。
『ひ…人殺し……』
彼女がそう言うとリズロットは無邪気な笑顔で、こう言い返した。
『まあ、リズが壊してもラズが直してくれるから問題無しなのだ♪』
彼女には全く意味が解らなかった。
しかし、そんな彼女を置き去りに事は進んで行く。
ラズロットは溜め息を漏らしながら両手を広げた。
そして、また目を閉じ精神を集中する。
その瞬間、ラズロットが赤い光に包まれたと思ったら、飛び散った肉片やら血やらが次々とくっつき元の形に戻っていく。
魔法……彼女の頭にその二文字が浮かんだ。
魔法とは万物の法則を自由自在に操り本来起こり得ない事象を発生させる。
そんな記述が小さい頃、実家の屋根裏で見つけた本に書いてあったような気がする。
そして目の前の光景は正にそれである。
見つけた……ついに!
彼女がそう思った瞬間、肉片はすべて集まり元の男の身体に戻っていた。
『これでリズの後始末完了なのです♪』
作業を終えたラズロットがそういうと……
『ラズが八つ裂きって言ったからなのだ!』
と、リズロットは足を踏み鳴らしながら反論した。
『あ…あの……』
いつもならここで二人の喧嘩が始まるのだが、今回は横槍が入った。
『わ…私、崎守 神奈って言います!お願いします!私を弟子にしてください!!』
先の女性改め神奈はそう言って頭を下げた。
双子はその名前を聞いた瞬間、彼女から感じた微かな魔力の理由を理解した。
彼女の名前は倭という小ブレーン国の倭人特有の名前である。
倭人達はかつて、マヤノオオミカミと呼ばれる神を中心とした精神文明を築き上げていた。
しかし、近代化の中その精神文明は崩壊、隣の巨大ブレーンすべてを支配する大国、大漢民国の傀儡政権により現在の倭は支配されてしまっている。
彼女の魔力はその倭人としての名残だったのである。
そして、その倭人が暗黒魔法を学びたいと言っている。
『倭人に暗黒魔法……面白そうだから弟子にすればいいのだ』
リズロットはまるで他人事のように言った。
ラズロットはリズロットをじとっと睨みむ。
そして
『…で、魔法は誰が教えるですか?』
と尋ねる。
『もちろんラズなのだ♪』
リズロットが無責任な一言を発した瞬間、ラズロットの蹴りがリズロットの拗ねに直撃した。
当然リズロットは声にならない叫びとともに拗ねを抱えてしゃがみ込む。
『全く…少しは教える側の苦労も考えるのです!』
ラズロットはしゃがみ込み拗ねをさするリズロットを睨みながら言った。
『……で、神奈たんは何故魔法を学びたいのですか?』
次にラズロットは神奈に魔法を学びたいと言った理由を尋ねた。
『わ…私、魔法に憧れてたんです!』
『そ…それに資料も集めてますし!』
『で、さっきの魔法じゃないですか!もうこれは今しか無いって……』
神奈はあたふたしながら説明するが、舞い上がってしまい説明になっていない。
たが、彼女が魔法マニアで、日夜怪しげな魔法研究を繰り返していた事は解った。おそらく仕事をクビになったのも、その怪しげな趣味が原因だったのだろうとラズロットは妙に納得してしまった。
『お願いします!何でもしますから!!』
神奈が必死に懇願している。
おそらく、拒否しても「うん」と言うまで付き纏われるパターンだ。
どうやら、地雷を踏んだと思って諦めるしかないようだ……
ラズロットがそう思ったとき……
『見つけたぞ!ダメじゃないか勝手にどっか行ったら……』
さっきのお巡りさんである。
『し…仕事熱心なお巡りさんなのだ……』
リズロットが引き攣った顔で言った。
下手に保護され、連邦警察で人物認識をされると正体がばれかねない。
何とかごまかす方法は……ラズロットは神奈を見た。
『さっき、何でもするって言ったですね?』
ラズロットの問いに神奈は頷く。
『じゃあ、ラズ達の保護者のフリをするのです!』
今回新たに登場した崎守 神奈さん。
最初の説明で勘のいい人は気付いたかも知れませんが、完全なドジっ子キャラです。
そんな彼女に魔法を与えてしまったら……
もう早く彼女で遊びたくて仕方ありません。