堕天使②
かなりぐだぐだです……
ぷり~ず ぎぶ みぃ 文才……
ちなみに、第3ヴェファリア列車総隊のフラッグトレイン、ヴェファリアの機関車がビッグボーイに似てるのは気のせいです……気のせいです! 大事な事なので二度言いました。
亜空間上
[ウェルナール回廊]
連邦側に付いたブレーン
と教会側に付いたブレーンの丁度境界線に位置するこの回廊では、スコット提督率いる連邦第六艦隊2000隻とステファノ聖将率いるセントノア近衛艦隊3500隻が睨み合い、お互いを牽制し合っていた。
ウェルナール回廊の周辺では亜空間のうねりが酷くシップが航行するのは不可能で、唯一この回廊がシップが航行可能な空間であった。
『やれやれ……睨み合いってのも退屈だな。』
連邦第6艦隊旗艦[ウォーパスト]の艦橋で椅子にもたれ掛かるスコット提督がいた。
『相変わらずやる気のかけらもありませんね……』
ナップ中将の言葉にはかなり嫌味が込められている。
まあ、ついさっきまでスコット提督は椅子にもたれかけた状態で爆睡していたのだ、嫌味の一つも言いたくなるだろう。
『まあまあ、そう固い事言うなって♪』
スコット提督がスイッチを弄ると、現況表情をしているスクリーンの片隅にテレビ番組が表示される。
『おいコラ!ふざけんのも大概にしろよな!!』
当然真面目なナップ中将はブチ切れる。
しかし、スコット提督は全く気にする様子は無い。
『シカトしてんじゃねえよ!』
『連邦軍本文からの命令は?』
『向こうが動くまで待機だが、それとこれは関係ねえだろうがよオイ!!』
更にヒートアップするナップ中将をよそに涼しい顔でコーヒーを飲み干すスコット提督。
『いや、大有りだな。
向こうが動くまで何もするなって事は、僕等の役目はあの艦隊をこの場に釘付けにする事って事になる。
と言う事はだ、うちのお上が何等かの取引をしている可能性が考えられる。
相手がセントノアの近衛艦隊と言うことを考えると、セントノアから防衛戦力をしばらく引き離しておきたい奴が居ると考えられる。
そして、そいつが何か起こせば近衛艦隊は引き返す必要性に迫られる。
そこに都合よく撤退命令が入り僕等は撤退する。
なかなか面白い予想だろう?』
『それって、働きたく無いあんたの願望じゃね?』
スコット提督の予想を聞いて頭を抱えるナップ中将。
やっぱりダメかと苦笑いするスコット提督。
しかし、その空間の少し脇をすり抜けるように爆走する列車の集団の姿に二人が気づく事はなかった。
睨み合う艦隊の横をすり抜けて行くのは、列車長20メートル四輪台車のトレーリングタイプの黒に赤いラインの15両編成戦闘車両を2組の4軸動輪ユニットを持つ全長42メートルの巨体が特徴的な魔導蒸気機関車が牽引する軽戦闘列車ヴェファリアがフラッグトレインを勤める第3ヴェファリア列車総隊である。
この第3ヴェファリア列車総隊に所属する車両は全て魔導蒸気機関車が牽引するトレーリングタイプの車両で統一されている、レトロな雰囲気を好むダーク元帥らしい部隊となっている。
ちなみに現在の総編成数は総数の五分の一である、100編成程度で、残りの列車は根拠地であるブリザット車両区に帰還している。
『さぁ私は向かう、捕われの姫君達を盗み出しに……』
ヴェファリアの司令車では、ダーク元帥がこれから混血の天使達を助け出す自分と、捕われの姫を助け出す物語の主人公とを重ね、完全に自分の世界に入り込んでいた。
傍からみるとかなり痛々しい光景である。
『…………(ぷっ)』
『な……何だねさっきの(ぷっ)と言うのは……それと、その可哀相な者を見るような目はやめたまえ!』
明さまにバカにした態度を取る副司令官のローザ マリエンヌ中将に注意をするが彼女は呆れたように首を横に振ると何も無かったかの様に紅茶を入れはじめる。
ローザ中将は栗色瞳に金の片眼鏡、栗色の三編みの長い髪と、メイド服のような第3ヴェファリア列車総隊の女性用制服が良く似合う18歳位の外見の混血魔族の女性である。
更にその純粋そうな外見とは裏腹にかなりかなりどきつい性格だったりする。
『紅茶です、痛元帥閣下♪』
『な……何だねその痛元帥というのは?』
『そのままの意味ですが、あとその痛々しいお姿は見るに耐え兼ねますので下がらせて頂きます……』
いつもの如く、紅茶とセットの精神攻撃をすると、ローザ中将は、そそくさと部屋からでていった。
ダーク元帥の表情は怪人マスクで確認する事はできないが、おそらく苦虫を噛み潰したような顔をしているに違いない。
『まったく……嫉妬するなんて可愛いね♪』
訂正……プラス思考全開のこの男に精神攻撃は無意味だったようだ……。
『そろそろ、潜入中の工作員を目覚めさせる時間ですね……』
『了解しました、覚醒メッセージ送信します。』
ざーざざ……ざーざーざざ……
亜空間重力伝達通信によるデータリンクの時代に電波のノイズによる古風なモールス信号……しかし、雑音を使用するが故に、発見されにくい。
仮に発見、傍受されたとしても、今回の為だけに作られた独自の符号を使用しているので解読に時間がかかり十分に時間は稼げるし、敵が解読を解読し終わる頃には別のコードになり解読の意味は失われる。
また、このモールス信号方式はダーク元帥の気まぐれでレトロな雰囲気を楽しむいわば趣味の領域なので、使用頻度は極めて低い。
『う~ん、良いねぇ~この古めかしい雰囲気♪』
浮遊大陸の聖都
[セントノア]
聖都セントノアの各地では、第3ヴェファリア列車総隊が発信した覚醒信号を受けた工作員達が活動を開始していた。
彼等は、セントノアに潜伏してから今日まで、一般人を装い混血の天使達に接近し親密な関係を築き上げるという任務を遂行してきた。
天使の里親からの虐待の日々に耐える混血の天使達に優しく言葉巧みに接近する彼等の誘惑に抵抗するのはまず不可能である。
彼等のほとんどは、行動を起こすまでにターゲットとなっている混血の天使達の大切な存在、つまり親友や恋人等になる事に成功していた。
そして覚醒信号を受けた彼等はそれぞれターゲットの混血の天使達にセントノアからの逃走の話しを持ち掛ける事になっている。
『ここを出ようリノア!』
目の前の白い羽を生やした13歳位のリノアという名の少女に必死にここから出て自由になろうと説得しているのは、アフラ フィンという同じく15歳位の赤髪の少年である。
『……でも、そんな事をしたら……』
リノアは顔を曇らせる。アフラは彼女を抱き寄せ、優しいが力の宿った赤い瞳をむける。
彼女の青色の長い髪はサラサラでとても手触りが良い。
『大丈夫!必ず俺が守る!それに、十字教会と戦う仲間も居るんだ!』
『でも……私は天使……だから……兄様とは……』
『そんなの関係無い!仲間達はそんなの気にしない!!だから……ね』
リノアの透んだ青い瞳が潤む。
彼女の全てを受け入れ守ると言ったアフラの姿は捕われの姫を救い出す白馬の王子様そのものだ。
若干ガサツかもしれないが、少なくとも彼女の瞳にはそう写っている。
『行こ、リノア』
アフラが手を伸ばす。
リノアその手を取り力強く頷き、二人は走り出した。
工作員アフラは無事に任務の最終段階に移行できたようだ。
しかし、全てが彼の様に上手く成功するとは限らない。
『嫌です!ヨブ様とは離れたくありません!!』
ヨブ枢機卿の屋敷の一室ではヨブ枢機卿とナタリー助祭、そして顔立ちの良い黒髪の青年が神妙な面持ちで話し合いをしている。
『ジン君は貴女を無事に脱出させてくれます……ですから……』
『嫌!絶対に嫌です!!』
黒髪の青年は「やれやれ」と言った感じで頭をかく。
彼の名前は片桐 仁。
倭政府が大漢民国に乗っ取られた祭に亡命しシュバルツァークロイツの情報局のエージェントとなった男で、ナタリー助祭をターゲットにする工作員である。
彼は、ナタリー助祭が天使の里親であるヨブ枢機卿に虐待されていない事を知り、ヨブ枢機卿のナタリーを護りたいという想いに付け込み、ナタリー助祭を連れ出す計画を打ち明け協力を取り付けていた。
しかし、最終段階で肝心要のナタリー助祭がヨブ枢機卿と離れるのを嫌がりただをこねるという最悪の事態となっていた。
『困りましたね……』
ヨブ枢機卿は考え込む、しかし仁は涼しい顔でこう言った。
『あんたも来れば良いんじゃね?』
ヨブ枢機卿の目が点になる。
『今の都合良く改変された聖書に疑問を持てるあんたなら、総帥も拒むことは無い筈だ。』
仁の誘いにヨブ枢機卿は首を横に振った。
『それはできません……私の主への信仰は教会が腐敗しようと変わる事はありません……。
ただ、私は主への信仰を利用し私腹を肥やす今の教会に疑問を感じているだけですから……』
ヨブ枢機卿は毅然とした態度で信仰を棄てるつもりが無い事を強調する。
『そう言うと思たよ……』
仁がそう呟いた時、屋敷の扉を激しく叩く音がした。
『ヨブ枢機卿!汝にシュバルツァークロイツとの密通の疑惑がかけられた!抵抗せず我等に同行せよ!』
窓の外を見ると、屋敷を教会の衛士達が取り囲んでいる。
『どうやらあんたの政敵が嗅ぎ付けたらしいな……』
外の様子を伺いながら舌打ちする仁、しかしヨブ枢機卿は全く動じていなかった。
『私が時間を稼ぎます……その間に逃げなさい!
地下室に下水道に降りる通路がありますから。』
彼は二人を逃がすための犠牲になるつもりのようだ。
『その必要は無いな。』
仁はそういうと、上着の内ポケットから2センチほど小さな黒いカプセルを取り出した。
『何だねそれは?』
『遠隔操作型の圧縮空間爆弾……この建物を倒壊させる位の威力はある。』
圧縮空間爆弾とは、カプセル内に高密度に圧縮され封じ込められている空間を解放し周囲の空間を一時的に歪ませ破壊する爆弾である。
『そんなもので何を?』
『俺達が地下室に降りたところで爆破、瓦礫で蓋をする。
衛士が自決したと考えてくれれば後々楽なんだがね……』
不適な笑みを浮かべる仁、その表情でヨブ枢機卿は全てを悟った。
仁は彼が自決した事にして助け出そうと考えている。
しかし、その目的が解らない、ナタリー助祭を確実に連れ出す為だけとは考えられない。
それならば、ナタリー助祭を気絶させるなりして連れ出せば済む事だ。
『何を企んでいる……』
『あんたには連邦側で十字教の新しい宗派を造ってもらう、共和派とでも言えば良いかな?
もう少し後にあんたを引き込んで実行する計画だったが、この際一緒に連れ出してしまった方が良いだろう判断した。
ここで死なれては計画そのものが無くなるからな。』
予想だにしていなかった返答に、ヨブ枢機卿の目が点になった。
確かに彼は、十字教が一神教となった理由に疑問を持っている。
なぜ隣人を愛せと説いた神が隣人である他の神を愛せないのか……異教の神は悪だから……いやそれは短絡的過ぎ至高の存在の考えとは思えない。
もしかすると、信者を独占したいと考えた者達が教義を歪めたのではないか?
神の意志は別にあるのではないか?
彼が抱いたのは教会への疑惑の念だった。
仁の企みは正に彼の抱くそれを見透かしたかのようなものだった。
『教義の根幹を変える事になるんですよ……信徒は拒絶……』
『しないな……敵を討てと怒鳴り散らしている奴と仲良く共に歩もうと握手をしている奴がいるとしよう、あんたならどちらを選ぶ?』
ヨブ枢機卿がニヤリと笑い、仁を見た。
仁は地下室に向かう扉をドアマンの様に開けている。
『フラウ ラッテ……彼をただの飾りと判断した元老院は大きな代償を払う事になりそうですね……』
地下室に向かうヨブ枢機卿は、自分を信仰信を曲げさせる事なく味方に引き入れるフラウ ラッテと言う人物の懐の広さに感心すると共に、彼が神への信仰と教会(教団)の支配との違いを的確に捉えている事に驚いていた。
彼等が地下室に降りると、大音響と共に屋敷周辺の空間が歪み、次の瞬間、建物が倒壊し瓦礫へと姿を変えた。