暗黒の魔法剣士と変態の双璧
キャラクターの暴走が止まりません……
特にヴェネとサラ双方は完全にコントロール不能です……
絶壁に栄える山岳都市
[サラマド]
サラマドターミナルステーション三番線には未だに足止めをされているキンダーガルテン号が停車していた。
その屋根では、神奈が刀を握り、それに魔力を込める練習をしていた。
本来は簡単な射撃魔法から入るのだが、彼女は類い稀なる魔力コントロール音痴らしく、魔力弾を作ろうとした瞬間大爆発、キンダーガルテン号の屋根の一部を吹き飛ばし、リタがブチ切れるという事件が数日前に発生していた。
そこで、魔力を安定させやすいエンチャント系の魔法をラズロットが教え、武器での戦い方はリズロットが教える方針となった。
『それにしても、ミスリル合金の屋根を吹き飛ばすのはありえんのです♪』
『あぅぅ、ごめんなさい……』
神奈の練習を退屈そうに見ていたラズロットが、暇つぶしで彼女をイジっている。
その横では、リズロットがよだれを垂らし爆睡していた。
それに気づいたラズロットはポケットからハバネロソースのビンを取り出しリズロットの口にセットした。
『ひぎゃああああ!!』
数秒後、リズロットは絶叫と共に飛び上がる。
『ラズが真面目にやってる横で爆睡してた罰なのです♪せいぜい苦しみやがれなのです♪』
辛さにもがき苦しみながら、魔力で作り出した大きな氷を一心不乱にかじるリズロットに、ラズロットは邪悪な笑みを浮かべる。
『こ……殺す気かなのだ!』
『その程度では死なないのです♪』
リズロットが涙目になりながら抗議したが、ラズロットは全く悪びれる様子は無い。
『う゛~』
『ハバネロソースの数が合わないと思ったら、やはりラズ様でしたか……』
涙目のリズロットがラズロットを睨みつけ、一触即発の状況となるが、そこにリタが現れ一時休戦となる。
『イタズラ用に何本かキープしたです♪』
『速やかに御返却ください。』
『数本ぐらい問題無いのです♪』
『それでは今日のラズ様のおやつ及びデザートは無しの方向で……』
『今すぐ返してくるです。』
ラズロットは慌てて食堂車(10号車)の格納庫に走っていった。
ちなみにラズロットは暗黒神の中でも最上位に位置するのだが、そんな偉い神様をおやつとデザートで巧みにコントロールしてしまうリタは、ある意味神を超えた存在なのかもしれない。
『エンチャント系とは考えましたね……しかし魔力暴走の根本的な解決にはなっていませんね……』
『そうですか?ちょっと集中を維持するだけだし後は武器で戦うだけだし♪』
エンチャント系の魔法で武器戦闘を行うアイディアに感心しつつ、根本的な解決にはなっていない事を指摘するリタ。
しかし、神奈は全く問題無いと主張する。
『仕方ありません……では実際の戦闘訓練でそれを証明いたします。』
リタはそういうと、両腕に内蔵されたカタール型ライトセーバーユニットを起動させ、戦闘体制をとる。
『り……リタさん何を!!』
リタの行動に焦る神奈だったがそれを無視して彼女は訓練の説明を始める。
『私のカタール型ライトセーバーは通常の刀なら軽く溶断できます。』
『ちょ……リタ!!』
『そこで貴方は刀を魔力で強化し溶断を防ぐ、さらにその魔力を維持しつつ私の攻撃に対応する……失敗すれば真っ二つですからお気をつけ下さいませ。』
説明を聞くうちに顔色が悪くなっていく神奈、無表情でカタール型ライトセーバーを構えるリタ、プッペディナが持ってきたポップコーンを食べながらそれを観賞するリズロット……。
『……ってオイ!リズ!何さらしとんねん!!』
それに気付いた神奈がツッコミを入れた、瞬間リタが足のフロータを使い滑る様に移動し攻撃を加える。
『ちょ……不意打ち?!』
『気を抜くと真っ二つですのでお気を付けくださいませ。』
神奈は慌ててそれを受け流すが、リタの舞を舞う様な連続攻撃は止まらない。
更にその攻撃は、リタの量子コンピュータの戦闘用プログラムで高速計算され、相手の動きに対して嫌な所嫌な所へと繰り出される。
神奈はそれを何とか受け流すのが精一杯、というよりリタがぎりぎり受けられる様に力を調節しているといった方が正しい。
しかし、魔力を維持する事と攻撃を防ぐ事を同時にこなすのは非常に難しい。
次々と繰り出される攻撃に気を取られ刀に魔力を込める為の集中が途切れた……その瞬間にリタのライトセーバーは神奈の刀を溶断し真っ二つにしてしまった。
ライトセーバーば神奈の身体に食い込む直前でピタリと止められ、『ハイ、ゲームオーバーです。』とリタが告げる。
『同時に二つ以上の事を行うのが苦手なようですね……それが魔力暴走の原因です。』
『………っ!』
的確に自分の苦手分野を指摘され、神奈は言葉を失った。
確かに彼女は同時に二つ以上の事をこなすのがこの上なく苦手である。
射撃魔法は魔力の集中、具現化、形状の安定等、同時に複数の事を処理しなければならない、ゆえにそれが苦手な彼女は魔力を暴走させ爆発させてしまっていたのだ。
逆にエンチャント系は力を付与するだけならそれに集中するだけで良い、だがそれで戦闘を行うとなると、その力の維持と戦闘を同時進行させなければななくなる。
つまり、今のところ彼女の魔法は使いモノにならないという事になる。
『しかし、コントロールできていないとは言え、魔力は強いようです、今後の方針としては無意識に魔力付与ができるようになること、そうなれば戦闘に集中しながら魔力付与も維持ができるはずです。』
リタが説明を終えた直後、プッペディナの一人がリタの下に駆け寄り緊急事態を告げる。
『リタ!緊急事態だよ、No.1053のメッセージ』
リタはメインシステムが受信した通信メッセージを確認した。
どうやら付近を走行中の旅客列車が魔獣の襲撃を受け、立ち往生しているらしく、付近に戦闘車両が居ないのでキンダーガルテン号に救援を依頼する運行管理局からのメッセージのようだ。
『全く……管理局はお召し列車を万能列車と勘違いしているのでしょうかね……』
毎回のように、キンダーガルテン号に厄介事を押し付ける運行管理局に愚痴をこぼすリタだったが、実際にキンダーガルテン号は戦闘から整備不良路線での高速走行までそつなくこなせる万能型の列車なのと、更に双子の気まぐれで自由自在に路線を移動できる点でこういった突発的な事象にうってつけの列車なのである。
当然、速やかに事象に対応するという観点で運行管理局はキンダーガルテン号を有効利用している訳なのだが、まがりなりにも神である双子が乗る列車を危険に晒すのはいかがなものかと考えるリタだったが、水爆実験の爆心地に居てても死にそうに無い双子が魔獣程度で死ぬはずも無く、冷静に考えれば双子を退屈させない為の運行管理局の配慮ともいえるかもしれない……いやきっとそうだ。
これはお召し列車である私が邪神様を退屈させない為の大切な任務だ……と、リタはなかば現実逃避気味に無理矢理解釈した。
『邪神様、運行管理局から付近を走行中の列車が魔獣の襲撃を受け自走不能、その列車の救援に向かってほしいとの内容ですが……』
『すぐに救援に向かうのだ♪』
リタの報告を受けたリズロットは、まるでピクニックに行く様な満面の笑みで、救援に行く事を告げた。
その様子からして、間違い無く魔獣と一戦交える事になるだろう……
『それでは速やかに出発準備をいたします。』
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数分後、サラマドターミナルに停車するキンダーガルテン号の魔導タービンエンジンが起動し轟音を響かせる。
それと同時に屋根の排気口からどす黒い緑色の煙りが勢いよく吹き出す。
『魔導タービンエンジン起動確認、魔力回路システムへの魔力供給開始!』
魔導タービンエンジンがマナル燃料を燃やす時に発生する膨大な魔力が魔力回路に供給され、キンダーガルテン号の魔力系システム群が起動する。
『発電機接続、発電開始』
続いて魔導タービンエンジンが生み出す回転運動エネルギーを電気エネルギーに変換する為の発電機が接続される。
『遮断機接続、供給電源を補助電源から主電源へ……』
補助電源用のバッテリから各電気系システム群に供給されていた電力が発電機から供給される電源に切替られる。
『各車輪、ブレーキ開放・・・モーター用ブロア始動。』
車輪を固定していたブレーキが解放されるのと同時に、車体下方に装備されているブロアーがサイレンのような爆音をたて回りはじめる。
キンダーガルテン号は発電機から供給される膨大な電力を使い大型のモータを動かし駆動力を得る。
しかし、その大型のモータの発熱量はすざまじく、強力なブロアーで冷却を行わなければならない。
そのため、魔導タービンエンジンの轟音にブロアーの爆音が加わり災害レベルの騒音を周囲に撒き散らす飛行機以上に厄介な騒音列車なのである。
『システムチェック……』
『システム、オールグリーン。』
『キンダーガルテン号、出場準備完了!』
キンダーガルテン号は出場時に鳴らすミュージックホーンを奏でながら、三番線をゆっくりと加速しながら出場していった。
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亜空間軌道
[カナガス戦略路線]
カナガス戦略路線を経由地のカタルシアを目指し疾走する純白の列車があった。
銀の装飾で飾られた流線型の車体長十八メートル四輪連接台車の優雅なその姿は高速特急のようでもあるが、車体各所に装備された武装がこの列車が戦闘列車である事を主張している。
この列車は、第4列車総隊司令官、ヴェネ マディウ元帥の乗る、軽戦闘列車[フィアリス]である。
フィアリスの医務室には一人の少年が寝かされてる。
彼は先のカナガスの戦闘で捕獲されたロイ司教である。
『……………っ!』
目を覚ましたロイが起き上がり、部屋を見渡す。
綺麗に装飾が施された部屋には医療機器が所狭しと並べられているが、人の姿は無い。
続いて自分の身体を確認してみると、傷が何処にも無い。
突然ガチャリと扉が開き、黒いストレートヘアの女性が部屋に入ってきた。
『具合はどう?かわいい天使さん。』
女性の真っ白な手がロイの頬を撫でる。
何だか手つきがいやらしい。
『あ……あの……』
頬を紅くして戸惑うロイ、女性はそれを全く気にせず、ロイをやんわりと抱きしめる。
『辛かったわね、ロイ君……味方から虐待されるなんて……』
『っ!!』
ロイは女性の言葉に硬直する。
虐待の事実は公にはなっていない、にも関わらずこの女性は知っている。
自分の名前も含めて……
『ああ、恐がらなくても大丈夫よ♪君の事は随分前から情報収集してただけだしね♪』
『あの……全く見えないのですが……』
『アタシね、かわいい女の子を見付けると、どうしても欲しくなっちゃうの……だ・か・ら♪』
『わ……私は、男です!』
『ふふふ♪本当かな?』
不意に彼女の手がロイの股間に伸びる。
『~~っ!!』
慌ててロイは彼女を振り払い、距離をとる。
『そんなに嫌?それとも実は付いて無いとか♪』
彼女は徐々に距離を詰めつつロイを壁際に追い詰めていく。
その姿はまるで獲物を狙う肉食獣である。
『さあ、確認しましょうね♪』
両腕を壁に押さえ付けられ身動きが取れなくなったロイの股間に再び彼女の手が伸びる。
『ひぃっ!や……やめ!!』
『くすっ……やっぱり女の子だったわね♪』
女性は不適な笑みを浮かべると、更にこう詰め寄る。
『それじゃあ、男の子のフリをしてた訳を聞かせて貰おうかしらね♪』
『な……なぜこんな事を?』
『かわいい女の子に目が無い、ヴェネ マディウ元帥ってこっちでは有名なのよ♪』
『………っ!』
女性の言葉に、ロイの背筋が凍りつく。
ロイは今まで以上に抵抗しようとするが、ヴェネの巧みな攻めで力が上手く入らない。
『や……やめて……お願い……』
ロイが泣きそうな顔になりながら、必死に止めるように懇願するが、ヴェネは当然止める気は無い。
その時、ヴェネの側頭部にハイキックが炸裂し吹っ飛んだ。
『変態淫魔さんごきげんよう♪』
ハイキックをぶち込んだのは、笑顔でたたずむサラ総元帥だった。
しかし、笑顔の筈なのにこめかみに青筋をたてている……
『どうも嫌な予感がすると思ったら、案の定でしたね……変態淫魔さん♪』
『………っ…貴女にだけには変態と言われたく無いわね……変態人間さん♪』
医務室を舞台に睨み合う変態の双璧、サラ(ショタ)とヴェネ(ロリ)。
その展開に全くついていけず完全に置いてきぼりのロイ(サラは少年認識、ヴェネは少女認識)……
この宿命の変態同士の対決はいかに……