連邦政治の崩壊
今回は十字教会側と連邦側にも良い感じのキャラクターを登場させました。
連邦政治の中心都市
[ジュリアス]
暗黒武装鉄道結社シュバルツァークロイツがカナガス要塞を制圧した数時間後、一連の軍事行動に対する声明が同結社より発表された。
---------
我々、暗黒武装鉄道結社シュバルツァークロイツの一連の軍事行動は、暗黒種族の領域を不当に侵害する十字教会勢力を排除するための軍事行動であり、連邦領域への侵攻を企図したものでは無い。
よって、現在十字教会勢力が不当に侵害を続ける領域が我々の手に戻った段階で軍事行動は停止するものである。
しかし、我々の領域奪還を妨害するのであれば、連邦領域全域に対する攻撃を開始する。
我々は争いは望まない、理性的かつ文明的な解決手段を連邦議会及び連邦市民が選択し、融和共存の道を共に歩める事を切に願う。
暗黒武装鉄道結社
シュバルツァークロイツ総帥
フラウ ラッテ
----------
この声明を受け、先程選挙が終了したばかりの連邦議会が緊急召集されていた。
議会では暗黒武装鉄道結社を反乱軍として征圧する事を主張する十字教会勢力と暗黒種族の領域返還と十字軍の解体を主張する政教分離主義勢力の意見が衝突していた。
しかし、過半数の議席を確保している政教分離主義勢力が議長にトルーマンを就任させる事に成功し、議事の流れは終始政教分離主義勢力のペースで進み、暗黒種族融和法案、政教分離法案、宗教武装禁止法案、宗教弾圧禁止法案を強行採決で次々と可決させていた。
これに対し、十字教会勢力は異端取締強化法案、教会異端討伐法案、教会特別武装化法案を提出したが、全て否決されるという悲惨な状況である。
『この強行採決での解決は納得できない!議会政治の根本を損なっている!!』
政教分離主義勢力の強行採決に十字教会勢力の議院が異を唱えるが、今まで強行採決で十字教会に有利な法案を通し続けてきた彼等に説得力は存在しない。
当然、十字教会に対する連邦市民の反応も冷やかなものだった。
浮遊大陸の聖都
[セントノア]
『何と嘆かわしい……』
『主の教えを否定するとは何と罰当たりな……』
『政教分離主義勢力は異端とするべきじゃ!』
教皇府議事堂では、パウエル教皇を中心とした元老院の面々が連邦議会の結果を嘆いていた。
しかし、連邦議会での主導権を失った彼等にはこの現状をどうする事もできない、少なくとも連邦領内では……
『現在の十字軍の兵力で連邦軍に対抗する事は可能か?』
パウエル教皇ね言葉にその場の全員がぎょっとする。
パウエル教皇は現在の十字教会勢力の傘下にある領地を連邦から独立させ、十字教会の力を維持するつもりのようだ。しかし、それは連邦が二つに分裂し内戦状態となる事を意味している。
『確かに……連邦議会では不覚を取ったが、未だ十字教の信仰が強い連邦領は多い……十分巻き返しは可能だな。』
しばらく考えた後、イエフ枢機卿は教皇に賛同する姿勢を示した。
『これ以上、下衆共に付き合う必要もあるまいて……』
アモス枢機卿もこれに追従する姿勢を示しつつ、高級ワインを煽る。
『そんな事をすれば連邦が分裂し内戦になりますぞ!それとアモス枢機卿、神聖なる場での飲酒は自重願いたい!!』
それに真っ向から異を唱えたのが、腐敗した十字教会元老院の中にあって数少ない善良な聖職者であるヨブ枢機卿であった。
『何を言う、内戦となれば忌ま忌ましい政教分離主義勢力を討つ絶好のチャンスではないか!』
ハバク枢機卿はヨブ枢機卿を睨みつけ不快感をあらわにする。
『そうだ、飲酒をとやかく言う前に、そちの主の代弁者たる教皇に対する不敬を改められよ!』
さきほど飲酒を指摘された事を根に持ったアモス枢機卿はハバク枢機卿に乗っかり、ヨブ枢機卿の不敬を非難する。
戒律で禁止されている飲酒を堂々とやっておきながら、ずいぶんな態度である。
『解りませんか?このまま連邦が分裂して内戦となれば誰が一番得をするのかを……』
『ほう……我々以外に得をする者がいると?是非とも伺いたいですな。』
神妙な面持ちで説明するヨブ枢機卿を嘲笑うようにイエフ枢機卿が野次をとばす。
ヨブ枢機卿はそれを無視し話しを続ける。
『今回の議会選挙に勝利した政教分離主義勢力の背後に居るのは、おそらく暗黒武装鉄道結社の総帥フラウ ラッテ、彼はこの混乱に上じて不完全な組織をまとめ上げ、必ず連邦軍や十字軍に台頭する一大勢力を築くはずです。今連邦軍と十字軍が衝突し戦力を擦り減らせばそれこそ彼の思う壷となりましょう!』
ヨブ枢機卿の説明に対しその場の全員が嘲笑する。
『何を言うかと思えば、あの下らない声明を読み上げていたフラウ ラッテとか言うガキの事か……ははは』
『あの様な、童に何ができると言うのだ、バカバカしい……』
『おそらくバフメドの直系であるために担がれておるだけだ……恐れるにたらぬ。』
元老院の枢機卿達は口々にヨブ枢機卿を笑いとばす。
彼等はフラウの子供の外見からただ担がれているだけの飾りだと評価しているようだ。
しかし、実際は双子の邪神の力を借りたとはいえ、彼が一から暗黒武装鉄道結社という組織を作り上げたのだ。
その異常なまでの復讐の狂気をヨブ枢機卿は敏感に感じとり危険な存在だと認識していた。
通常ならば彼の鋭い嗅覚は称賛されるべきなのだろうが、腐敗した元老院にあっては煙たい存在にしかならなかったのだ。
『ヨブ様!』
混血主天使の少女が元老院議事堂から出てきたヨブ枢機卿に駆け寄る。
彼女の姿は先のカナガス要塞で登場したロイ司教に似ている。
『話しになりませんね……暗黒武装鉄道結社の危険性をまるで理解していないようです。』
『ヨブ様……怒ってらしゃるのですか……ナタリー何か悪いことしましたか?』
元老院に対しての怒りが収まらないヨブ枢機卿の様子を見て混血主天使の少女ナタリー助祭は脅えた表情になる。
『あ……申し訳ない、ナタリー助祭……議事の内容が芳しくなかったので機嫌が悪かっただけで貴女は何も悪くありませんよ。
』
泣きそうな顔になっていたナタリー助祭の様子を見てヨブ枢機卿が慌てて釈明する。
その様子は孫のご機嫌をとるごく普通の老人のようである。
しかし、二人の関係はそんな祖父と孫の関係とは掛け離れた特殊な関係であった。
彼女もロイ司教と同じく教皇直属の司教となり前線に送られる運命にあり、ヨブ枢機卿はそれを育てる天使の里親と呼ばれる立場にある。
天使の里親は預かった混血の天使が司教になるまでの教育を行うのが仕事である。
ヨブ枢機卿はナタリー助祭を孫の様に愛情を込めて育てているが、全ての天使の里親達が彼の様に育てる訳では無い、いやむしろ彼の様に愛情を注ぎ育てる者の方が珍しい。
大抵の混血天使達は日々虐待され歪んだ感情を持った存在となってしまうのである。
『さあ……帰りますかね♪』
そう言うとヨブ枢機卿はナタリー助祭を抱き上げる。
その様子を見た人々から冷たい視線がヨブ枢機卿に注がれる。
無理も無い、十字教の戒律で禁止されている天使と人の交配により生まれた呪われた子供を抱き上げたのだから。
しかし、彼はそれを全く気にする様子も無く、自分の屋敷に向かい歩き始める。
『ナタリー……今日は貴女にとって悲しい事を伝え無ければなりません。』
歩きながらヨブ枢機卿はナタリー助祭に話はじめる。
しかし、非常に言いにくい内容なのか、その先を中々言おうとしない。
『知っるよ……ロイ姉様は主のために戦って死んじゃったんでしょ?ならロイ姉様は天国で幸せになってるからナタリー平気だよ♪』
ナタリー助祭は純粋な笑顔をヨブ枢機卿に向ける。
ヨブ枢機卿にとってこの無垢な笑顔ほど辛いものは無い、今は自分が護ってやれるが彼女もいずれ司教となり自分の元を離れなければならない。
そうなれば、他の混血天使達と同じ過酷な現実を目の当たりにし、絶望する事になるだろう。
『ヨブ様?どうかなさいましたか?』
『いえ……何でもありませんよ。』
ナタリー助祭の頭を撫でながらヨブ枢機卿は答える。
(主よ……貴方は何故彼女達のような無垢で純粋な存在を苦しめようとなさるのですか?)(主よ……願わくば彼女達にこれ以上の災いが降り懸からぬようお守り下さい……)
辺境の列車の街
[イゲルフェスト]
『……で、ヴェネ元帥は拾った天使の混血児を部下にしたいと……なにゆえ?』
『だってかわいいんですもの仕方ないじゃない♪』
『あんまりふざけてると粛正しちゃうよ(怒)』
イゲルフェスト列車基地の管制室では、カナガス要塞で捕らえた混血天使の扱いでフラウ総帥とヴェネ元帥がもめていた。
……というよりフラウ総帥とヴェネ元帥が言い合いをしていると言った方が正確かもしれない。
ヴェネ元帥は捕縛した混血天使の少年が余りにかわいいので、自分の部下にしたいとかなり暴走気味の提案をし、それに対しフラウ総帥は一旦イゲルフェストに送還し、その上で人事的な判断すると主張し譲らない。
二人の主張が平行線を辿る中、ついにサラ総元帥が動きだす。
『ヴェネ元帥……総帥に意見するとは良いご身分ですね……』
『え……あ……その……』
ヴェネ元帥はサラ総元帥の鬼の様な形相に圧倒され見事に鎮圧される。
『総帥のご判断ではイゲルフェストに送還、その後、総帥が人事判断をするとおっしゃられています……これに対し異存はありませんか?』
『は……はい!異存ありません!!』
サラ総元帥の逆らったら殺す的な雰囲気に圧倒されヴェネ元帥は慌ててフラウ総帥の案に異存が無い事を示す。
実はフラウ総帥は戦略や謀略を考える点には優れているが、押しに弱いという欠点を持っている。
そこを上手くカバーしているのがサラ総元帥で、フリーダムモード全開のシュバルツァークロイツの元帥達をフラウ総帥がコントロールできているのはサラ総元帥の力が大きなウェイトを占めていたりする。
ある意味フラウ総帥は最高の副官を有していると言っても過言ではない。
サラ総元帥はフラウ総帥を裏切る事は無い。
いや、裏切るという選択しすらない。
それはともかくとして、サラ総元帥の恐怖政治により、混血天使はイゲルフェストに移送される事となった。
連邦政治の中心都市
[ジュリアス]
政教分離主義勢力が連邦議会を支配して数日後、連邦軍は十字教会の不穏な動きを察知し、セントノア征圧の為に、連邦軍第6艦隊の出現準備を始めていた。
『やれやれ……年金暮らしまで平和な時代が続いてくれていれば楽だったのに……』
第6艦隊旗艦 戦艦[ウォーパスト]の艦橋にて愚痴をこぼすのは、当艦隊司令官であるスコット ワードナ提督であった。
彼は23歳と階級の割に若いが、奇想天外な作戦を毎回展開する事で有名な男である……が、極めて不真面目な事でも有名である。
『ぼやいたってしょうがないでしょうに……覚悟を決めて、真面目に働いて下さいよ……ったく……』
その横でスコット提督をガミガミと叱るのは、彼と名コンビを組む副官、ナップ ヤック中将であった。
『休暇空けで眠いんだからそうガミガミと……』
『だったシャキッとしてください!!』
『うぃ~』
やる気のカケラも無いスコット提督をやる気満々のナップ中将がガミガミと叱り、周囲がまたかと呆れているいつもの光景が展開されていた。
『……威嚇だけで済まないかな……その方が楽だし♪』
『済むわけねぇだろ!このニート提督!!』
『ニートじゃないよ、とりあえず働いてるし♪』
『とりあえずとか意味分かんねぇし……真面目にやれよ!!』
『ヤダ♪』
『死ねよ!お前!!』
完全におふざけモードのスコット提督とブチ切れモードに突入しつつあるナップ中将の漫才トークが艦橋で永遠と続いていて、艦橋勤務の兵士達はこの漫才を延々と聞かされることになるのかと考え、若干欝になるのだった。
こうして、フラウ ラッテが仕掛けた選挙工作に端を発した政教分離主義勢力と十字教会勢力との衝突により、永きに渡り世界を安定させていた連邦政治体制が音を立て崩れ始めていた……
十字教会側で展開されるのは、善良ヨブ枢機卿のかなり重いお話し、これに対して連邦側で展開されるのは、不真面スコット提督のお笑い劇場。
少し暴走気味な今日この頃……。