外交カード②
今回はかなり暴走してしまいましたが、笑って許してやって下さい。
亜空間軌道上
[カナガス戦略路線]
『あの馬鹿にしては上出来だねぇ……』
ヴェネ元帥が嫌味たっぷりに言う。
敵のカナガス駐留艦隊を中心とする守備戦力のほとんどはワーグ元帥率いる第1列車総隊に本来守るべきカナガス要塞からはるか南側まで誘導されていた。
『突撃の時だぜぇ!ひゃっほぉ!』
ポール元帥率いる第2列車総隊の列車達が突撃のミュージックホーンを鳴らしなが亜空間軌道からカナガスブレーンに突入を開始する。
『ポール元帥……張り切ってますね……』
『あたし等も、突っ込むよ!!』
それに続き、ダーク、ヴェネ両元帥も突入を命じる。
火山とガスのブレーン
[カナガス]
カナガスに突入した、ポール元帥率いる第2列車総隊が要塞北側、ダーク元帥率いる第3列車総隊が要塞西側、ヴェネ元帥率いる第4列車総隊が要塞東側に殺到する。
『馬鹿な……伏兵だと……』
伏兵の出現にバファエル聖将は動揺していた。
彼の中では、暗黒種族は、力任せに突撃するしか能がない下等種族であり、今回のような統率の取れた攻撃は想定外であった。
『何をしている!対空砲火だ!!』
カナガス要塞に残っていたのは固定式の対空砲や機銃、わずかな聖騎兵達のみと貧弱なものだった。
まさか反乱を起こすのがせいぜいの暗黒種族に侵攻されるとは誰も予想すらしておらず、その結果招いた悲劇であった。
重戦闘列車や軽戦闘列車が対空砲火をものともせずに要塞上空を龍のようにうねりながら飛び回り次々に対空火器を破壊していく。
更に後方からは、重砲撃列車からの大型の砲弾やエネルギー弾がピンポイントで重要施設を破壊していく。
駐留艦隊は騎兵母艦(聖騎兵を収容する空母の様なもの)の聖騎兵を援護に向かわせようとしていたが、航空列車から発進したVTOL戦闘攻撃機[ベルゼブ(限られた列車のスペースに搭載される事を前提にしたずんぐりした小型の機体でその姿がハエを連想させる事から、ベルゼブブを語源としたベルゼブという名が与えられた万能機)]の大編隊に阻まれていた。
『ぐふふふ、ここまで下がれば……グラーフアイン最前列へ……』
後退をしながら戦うワーグ元帥率いる第1列車総隊は突如、FTのグラーフアインを最前列まで進出させた。『ぐふ、シュバルツァーブリッツ砲、発射準備ぐひ……』
『Ja!シュバルツァーブリッツ砲発射準備。』
『シュバルツァーブリッツ砲、発射シーケンススタート』
『シュバルツァーブリッツシステム起動完了』
『フロントフェイスオープン』
『エネルギー充填開始』
『バレル展開』
『薬室内圧力上昇』
『魔導増幅術式正常展開』
『エネルギー充填完了』
『緩衝装置圧力最大』
『空間制御ブレーキ作動、車輪固定完了』
グラーフアインの正面カバーが開き、中から出現した巨大な砲には発射シーケンスの進行に合わせ膨大なエネルギーが凝縮されていく。
シュバルツァーブリッツ砲とは、通常発電のために使用されている魔導機関(グラーフアインは魔導タービン式)から発生する膨大な魔力を撃ち出し広範囲を消滅させる大量破壊兵器である。
『シュバルツァーブリッツ砲発射準備完了!』
『くひひ、発射!』
発射準備完了の報告を受けたワーグ元帥は直ぐさまシュバルツァーブリッツ砲の発射を命じる。
その瞬間、極限まで収束されていたエネルギーが解放され、光りの束となり敵の駐留艦隊を薙ぎ払う。
艦艇が次々と蒸発し、300隻の大艦隊はこの一撃で20隻程度の小規模艦隊になっていた。
『艦隊が……壊滅だと?!有り得ぬ、我は断じて認めぬぞ!!』
バファエル聖将が絶叫する間にも、グラーフアインを先頭とした第1列車総隊が残存艦艇を粉砕しながら前進し、要塞南側を封鎖する。
『教皇よりお預かりしている要塞である、なんとしても死守するのだ!』
バファエル聖将は剣を抜き、それを高らかと掲げた。
どうやら残存する兵士を率い白兵戦を挑むつもりのようだ。
主力の艦隊を失った今、残された戦力でこのまま立て篭もっていたとしても徐々にに力を失っていくだけだ。
ならば、敵の列車に乗り込み白兵戦を仕掛け、敵将を倒し指揮系統を混乱させれば勝てると考えたようだ。
しかし、雨の様な攻撃が降り注ぐ外に飛び出すのは自殺行為である。
また、仮に元帥が討ち取られてしまった場合でも、次席者が速やかに指揮を引き継ぐシステムがあるので、大した混乱は発生する事は無い。
『どうやら敵の将が乗り込んでくるらしいねぇ……』
通信傍受でバファエル聖将が白兵戦を挑んでくる事を掴んだヴェネ元帥は他の元帥にもその情報を伝えていた。
『時代錯誤も甚だしい行為ですね……だが面白い余興ではあるな……』
一人ポーカを楽しみながら、ダーク元帥は口元が緩む。
相手の誘いに乗る気満々のようだ。
『俺様もこういう熱いソウルは嫌いじゃ無いぜぃ♪』
ポール元帥も殺人ギターの異名をもつ各種武装を施した特製ギターを用意している事から、彼も乗るつもりらしい。
『ぐふ、動くのは面倒だ、ワシはパスだぐひ。』
逆に全く乗る気が無いのはワーグ元帥。彼には元々武人的な思考は皆無で、いかに卑劣な手段で卑怯に戦うかに美学を感じるタイプなので当然であろう。
『やれやれ……それじゃあ、あたしとポール、ダークがバトルを楽しむ間の留守番を頼むとするかねぇ……』
『ぐひひ、お土産よろしく♪』
『一度死んでみるかい?』
冗談でお土産を要求したワーグ元帥は彼女のドスの効いた声に圧倒され、蛇に睨まれた蛙のように固まってしまった。
『折角の美しいお声が台なしですよ……ヴェネ元帥♪』
『バカ言ってないでいくよ!』
ダーク元帥の他愛のない冗談に少し照れたのか、それを紛らすようにフィアリスから飛び出す。
それに続きポール元帥、ダーク元帥も列車から飛び出すした。
当然護衛は付けていない。
彼等3人のレベルの戦闘では、一般兵士は邪魔にしかならないからである。
バファエル聖将は30名の聖騎兵と共に聖竜にまたがり要塞上空に飛び上がってきた。
『聖なる地を汚す愚か者共め!このバファエル聖将が成敗してくれる!!』
バファエル聖将は3人元帥の前に出ると勇ましく名乗りを上げた。
『……ねぇ、あの痛いおっさん何?』
『おそらく、討伐軍の将軍バファエル聖将でしょうね……』
『そんな固い挨拶いらないぜぃ♪』
しかし、3人の反応はこの上なく冷ややかだった。
『貴様ら!我が名乗ったのだ!そちらも名乗るのが礼儀であろう!!』
当然バファエル聖将は怒りをあらわにする。
しかし、そもそも今の奇襲、騙討ちが当たり前の暗黒種族に戦いの前に名乗りを上げるという文化が無いのだ。
『……てかさ、わざわざそっちの白兵戦に乗ってあげたんたからさぁ……』
『感謝くらいはして欲しいですね。』
しかし、ヴェネ元帥とダーク元帥は怠そうに応えるだけだった。
『下賎の下等種族に礼儀は理解できぬか……』
怒り心頭のバファエル聖将は聖騎士の能力で、自らの剣に聖なる光りを宿らせる。
『かかれ!頭を取れば敵は烏合の衆となる!!』
バファエル聖将は、剣を振り下ろし聖騎士達に攻撃を命じる。
次の瞬間、聖騎士達は一斉に襲い掛かったが、突如何かの力に弾き飛ばされた。
聖騎士達を弾き飛ばしたのは、ポール元帥のギターから発生した指向性の強力な音波である。
弾き飛ばされた聖騎士達のうち数名が耳から血を流しのたうちまわっている。
『俺の熱いサウンドはイカスだろぅ?』
ポール元帥がギターを掻き鳴らしながら挑発する。
『おのれ!我等の聖戦を愚弄するか!!』
完全にぶち切れたバファエル聖将がポール元帥に切り掛かる。
ポール元帥はそれを軽々と避け、代わりに魔力で硬化させたギターでバファエル聖将の顔面を強打する。
しかも全力で……
『ぶぷぷぷ……』
バファエル聖将の顔が歪み折れた歯が飛び散る。
『あ……わりぃ、イケメンなのに顔面殴っちまったな……まぁ顔が歪んでた方が面白くてよくね?』
更にふざけた態度をとるポール元帥だったが……
『うおおおおお!!』
『死ねえええ!下等種族め!!』
完全に逆上したバファエル聖将は、でたらめに剣を振り回すが、そんな攻撃が当たるはずもない。
『やれやれ、男のヒステリーはみっともないったらありゃしない……』
ヴェネ元帥が指を躍らせると、無数の刺付きの鎖が出現しバファエル聖将をはじめ聖騎兵達を搦め捕る。
ヴェネの鎖は鎧を引き裂き肉に食い込むむ。
この時点でバファエル聖将と数人を除き絶命していたが、更に残り敵の額にトランプが深々と突き刺さり、絶命した彼等は乗っていた聖竜から崩れるように地面に落下していく。
トランプを投げたのはダーク元帥らしく、残ったトランプをシャッフルしている。
『後は要塞の制圧ですね……とは言っても、残っますかね人が……』
ダーク元帥は、シャッフルしたカードから一枚カードを引いた。
それはジョーカーで彼は他の2人にそれを見せる。
『良いんじゃね?全員死体の方が楽だしな……』
ポール元帥は、ギターに付いた血を丁寧に拭き取っている。
『……ま、無事な場所があるなら地下だろうねぇ……』
ヴェネ元帥は下の要塞の様子をみてみる。
シュバルツァークロイツの兵士達が敵兵士の死体の片付けをしている。
どうやら自分達が遊んでいる間に、制圧がほぼ完了してしまったようだ。
その時、彼等の元にワーグ元帥が現れた。
『何かありましたか?ワーグ元帥。』
ダーク元帥が尋ねると、ワーグ元帥は3人が指揮を離れていた間の経過を説明した。
要塞の地上部分はほぼ壊滅し生存者はおらず、残りの地下施設の一部に残存兵力が立て篭もっているらしいが、順次制圧されているようだが、一カ所だけ強力な結界で護られ開けられない扉があるらしい。
『何でこうベタな事するかねぇ……』
『全くですね……』
3人は若干の頭痛を感じつつ、その場所に向かうのであった……
辺境の列車の街
[イゲルフェスト]
『カナガス要塞の制圧は順調です。十字軍の増援は無いようです。』
イゲルフェスト列車基地管制室ではフラウ総帥がカナガス侵攻の様子を見守っていた。
『トルーマンが頑張ってるからね……選挙の結果は?』
『トルーマン率いる政教分離派が過半数の議席を取ったようです。』
フラウ総帥に連邦議会選挙の結果に関する資料を渡しながらサラ総元帥が答える。
『よかった……平和ボケした人が多くて助かったね……』
『トルーマンは討伐軍が占領している地域の返還、暗黒種族との融和を提唱する議院ですから、意地でも平和に暮らしたい人々には支持され、我々のカナガス奪回の動きが追い風になった訳ですか……』
『でも……絶対は存在しない、仮に彼等の平和ボケが不十分で、驚異となる存在を排除しようとしたら?』
『カナガス攻撃中の4個列車総体2000編成あまり、後は各地に配置されている直轄部隊とわずかな戦力……連邦軍と十字軍を同時に相手にするのは正直厳しいですね。』
『ずっと緊張してると疲れるよね……ほら♪』
フラウ総帥はおもむろに右手をサラ総元帥に差し出し、彼女はそれを掴む。
その手は汗ばみ、小刻みに震えている事から、今までの張り詰めていた緊張の度合いが伺える。
『だ…大丈夫ですか?総帥……』
サラ総元帥は心配になりフラウ総帥に尋ねる。
『……大丈夫……少し……疲れただけ……』
フラウ総帥はそう言いながら立ち上がろうとした瞬間、よろめいて倒れそうになる。
サラ総元帥がとっさにそれを支え事なきを得た。
『……やっぱり疲れてるね……』
フラウ総帥がいつものふざけた口調で釈明するが、声にさっきまでの力がなくなっている。
『無理は良くありません……お部屋までお連れします。』
サラ総元帥はフラウ総帥を抱き上げ、管制室長にその場を任せ、フラウ総帥の部屋に向かう。
フラウ総帥の身体は小刻みに震えている。
どうやら、張り詰めていた緊張の糸が、作戦の終了で切れてしまったようだ。
彼は平然と総帥という役職をこなしているように見えるが、実は常にその重圧に脅えている。
そしてそれが、時折こうして発作のように表面化してしまう。
彼の年齢は人間でいうと12歳程度、それでこれだけの組織を動かしているのだから仕方の無い事なのかもしれないが……
『総帥、落ち着きましたか?』
部屋のベッドにフラウを寝かせたサラは彼の頭を優しく撫でている。
『……うん……だいじょうぶ……』
フラウはさっきまでの威厳が嘘のように、普通の子供になってしまっている。
『そ……それでは少しお休みになって下さい。』
鼻の部分をハンカチで押さえながら、サラはそそくさ部屋を出ていく。
『どうしたんだろう……』
その様子を見たフラウは首を傾げた。
『うおおおおお!!総帥いいいキュートずぎ!!』
その後、彼女は自分の部屋に全力で駆け込み、そしてこの雄叫びである。
完全に防音なので、外に聞こえる事は無いが、鼻血を流しながら雄叫びをあげる彼女の姿は正しく変質者以外の何者でもない。
更に部屋の壁一面に何処で盗撮したのかフラウの写真が所狭しと貼られている。
そして、壁に頭を打ち付けながら雄叫びをあげていた彼女は、何かを思い出したかのように、机の上に目をやる。
そこには、フラウそっくりに作られたアンティークドールが鎮座している。
『ふふふふ♪ただいま総帥♪』
そう言いながら人形に話し掛ける彼女の眼は完全にあっちの世界へ行ってしまっている。
鼻血を流しながらアンティークドールに話し掛ける眼がイっちゃってるお姉さん……それはこの組織の行く末が非常に心配になる光景ではあったが、幸いな事にここは彼女のプライベートルーム。
知らぬが仏とはおそらくこの事なのかもしれない。
・・・・つづく?
4人の元帥を超える強力な個性を持つサラ総元帥、完全に病院逃げてなキャラになってます。
フラウ総帥はなんかかわいい感じのキャラに仕上がりそうな予感。