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第2章:転生した魂の涙

赤ん坊の瞳が、母親へと向けられた。

戸惑いと圧倒された感情が揺らめき、

――新生児にはあまりにも理解しすぎた眼差しだった。


まるで、

“彼女が誰なのか”

“自分にとって何を意味するのか”

理解しようとしているかのように。


小さな指がかすかに震え、視線は不安定に揺れる。

しかしその眼差しは――揺らがなかった。

母の顔から逸れることなく、静かに見つめ続けていた。


それは、初めて世界を見る赤ん坊の目ではない。


この世界に自分は属していない――

そんな記憶の余韻を宿した目だった。


小さな眉がわずかに動く。

胸の奥で何かが目覚め、

逃れようのない問いが浮かび上がる。


――ここは……どこだ?

――この人たちは……誰だ?


温もりを思い出そうとしても、記憶は繋がらない。

欠けたパズルのように、形が合わなかった。


母は優しく微笑んだ。

その瞳の奥で、赤ん坊の心に渦巻く嵐には気づかないまま。


赤ん坊の視線はゆっくりと動いた。

母の柔らかな表情から、見知らぬ部屋の光景へ。


ベルベットのカーテン。

磨かれた床。

静かに佇む金のゆりかご。


すべてが穏やかで、平和で……

だが、どこか現実味がなかった。


ゆっくりと瞬きをひとつ。

小さな体に微かな震えが走る。


霧のようにぼやけた意識の中で、

形になりかけた“恐ろしい真実”が胸を貫く。


――ここは……どこだ……?

――どうして……生きている……?


この部屋は知らない。

この顔も知らない。

しかし一つだけ確信していた。


自分は――死んだのだ。


母は髪を耳にかけ、赤ん坊を優しく抱き寄せた。

その表情は愛に満ち、震えるほどの慈しみに溢れていた。


そっと唇を寄せて、微かに震える声で囁く。


「……我が愛しい子よ。今日よりあなたの名は――」


少し息を呑み、静かに続けた。


「リョウマ・キリュウ」


その名は祝福のように……

あるいは、静かな呪いのように落ちた。


赤ん坊の目が大きく見開かれる。

胸の奥で何かが再び揺れ動く。


聞いたことのない名前。

しかし、ずっと前から自分の中に存在していたような響き。


――リョウマ……キリュウ……?

――これが……今の“俺”の名前……?


小さな指が絹の布を掴むように動く。


名前の響きはまだ馴染まない。

だがどこか心を落ち着かせる、不思議な温度があった。


――受け入れようが拒もうが、最初から決まっていた名のように。


そのとき、母はそっと赤ん坊を胸に抱き寄せた。


その手は柔らかく、温かく……揺るぎなかった。


一瞬――リョウマは考えることをやめた。


その温もりは、記憶にない。

しかし魂の空白を埋めるように、静かに触れた。


――この温かさは……?

――どうして……こんなに安心する……?


混乱と静寂が混ざり合う中、

彼の心にはただひとつの感情だけが残った。


安らぎ。


部屋の柔らかな光が赤ん坊の顔を照らす。

母の腕は変わらず優しく包み込み、温もりは現実そのものだった。


胸の奥で、何かがわずかに崩れ落ちた。


――これは……夢じゃない……?


血も、煙も、絶望もない。

あるのはただ柔らかな腕と、自分の意志では選ばなかった名前。


――本当に……生まれ変わったのか……?


呼吸がゆっくりと整う。

しかしその奥底には、嵐が潜んでいた。


母の胸の中でリョウマは静かに横たわっていた。

小さな体は温もりに溶けていくようだったが、

心にはまだ霧が残っていた。


――どうして……知らないはずなのに……?

――この温もりを……理解できる……?


答えを掴めないまま、

次の瞬間、何かが“砕けた”。


眩い閃光。

心の奥で散るガラス片。


記憶の断片。


雨の中、ひとりぼっちの少年。

冷たい手。

声のない夜。

誰も抱きしめてくれなかった人生。


今感じている温もりは、慰め以上のものだった。


――これは……

――これは“母の愛”……

――神でさえくれなかったもの……


彼の視線がゆっくりと母へ向く。

もう“他人”ではなかった。


この優しい手の主は――

間違いなく彼の母親だった。


そして、過去の人生で決して知らなかった感情を、

なぜか確かに理解していた。


――どうして……知らないはずなのに……?

――なぜ……名前が分かる……?


視界がぼやけた。

一滴の涙が頬を伝う。

続けて、もう一滴。

そして止まらなくなった。


それは空腹の泣き声ではない。


生涯で初めて触れた“愛”に触れた魂の涙だった。


母は驚き、息子を抱き寄せる。

優しく揺らしながら囁く。


「……しぃ……大丈夫よ、リョウマ……」


戸惑いながらも、深い愛情でそっと抱きしめた。


ミルクをあげながら、震える手で彼を落ち着かせようとする。


だがリョウマは泣き続けた。


――これが……愛……

――どうか……二度と奪わないで……


思考が静まり、胸の奥で何かが満ちていく。


前世と今世を通して、初めて――

リョウマはひとりではなかった。



Still newbie in novel. Hope you will love it and support me

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