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第1章:記憶の断片 (Dai 1 Shō: Kioku no Danpen)

血と煙に染まった戦場。鉄の匂いが空気を覆い、戦の霧よりも濃く立ち込めていた。無数の死体が静かに横たわる―破れた者、焼かれた者、その顔は怒り、恐怖、あるいは安らぎに凍りついていた。静寂が辺りを包むが、その沈黙は最も激しい戦の叫びよりも大きく響いた。


砕けた大地、戦の重みで刻まれた傷跡。その背景には散乱した武器、無力な手足、かつてあったものの破片が転がる。そして前景、土に半ば埋もれたひび割れた印章がかすかに光を放っている…まるで何かを思い出しているかのように。


血の跡が一人の人物へと続く。膝をついたその男は、動かず、頭を下げ、髪が顔の一部を覆っていた。身にまとう長いコートは破れ、汚れ、肩からだらりと垂れ下がる。背中を見せた姿は、何か取り戻せないものを失ったように、壊れた人間のようだった。


音も言葉もない――ただ重苦しい沈黙だけが周囲を支配していた。


血で汚れた手をゆっくり伸ばす。指先は、地面に横たわるひび割れた印章に向かう。それは何か――重要な意味を持つもののようだった。しかし、持ち上げるだけでも重く感じる。まるで過去の重みが、この一瞬に押し付けられているかのようだ。


膝をついたまま、印章を握りしめる―それが、崩れ落ちずにいられる最後の支えのように。血に染まった指は決して離さない。


ポタ…ポタ…

血の滴が地面を打つ。静寂の中に、鋭くも柔らかい音が響く。


霞の中、五人のマント姿が静かに立っていた。その中央に、何か――異質な存在。微かな光を放つ巨大な影。その輪郭はぼんやりとしか見えないが、その力の重みはひしひしと伝わってくる。人間ではない。空気に冷たい緊張が走った。


反応する間もなく、巨大な光の存在は一歩踏み出す。瞬間――鋭い音が沈黙を切り裂いた――「シャキンッ!」


刃が胸を貫く。瞳が見開かれ、口から血が溢れ出す。全身が震える痛み。しかし、それはただの傷ではない、もっと深い、古い痛みだった。


背後、剣の銀色の刃が霞の中に光る。低く、ほとんど冷静にその声が響いた。

「消し去ることに失敗した者……」


身体が揺れる。膝が折れそうになる。しかし、口から血を流しながらも、崩れ落ちはしなかった。歯を食いしばり、声をかすかに震わせて吐き出す――怒りに燃えながらも静かなその声で。

「この……忌々しい連中め……!」


血に染まった掌の印章を睨む。再び、体が震える―今度は弱さではなく、怒りのためだった。


低く唸るように、印章を高く掲げる。腕は震える―疲労ではない。心の中の嵐のせいだ。


そして――残りの力すべてを込め、放り投げた。

印章は空中を回転し、呪われた記憶のように飛ぶ。必死に消したい過去を象徴するかのように。


地面に激しく当たり、石を弾きながら影の奥へ消えた。


「このクソったれども!!」

叫び声は生々しく、胸の痛みと裏切りの重みで割れた。


戦場はその声に反応し、再び静寂が戻る。木々の葉のざわめきだけが応える。自然でさえ、彼を慰めることをためらっているかのように。


体力が尽きる。

彼を支えていた力は一瞬で消え、まるで糸を切られた操り人形のように地面に崩れ落ちる。


血は足元に広がり、温かく、粘つき…徐々に消えていった。


周囲の世界は霞む。

木々も石も影も――すべてが無色の霧に溶けていく。呼吸はゆっくりになり、思考は散乱した。


そして……


残ったのは、ただ白だけ。


やがて――

温もり。


不思議な温もりが彼を包む。柔らかく、安全な感覚。世界そのものが変わったかのようだ。


もう叫び声も、血も、痛みもない。

ただ静寂と、穏やかさと…皮膚に触れる柔らかな何か。


声が聞こえる。優しく、遠く、淡く。


「男の子よ」

女性が小さく、ささやくように言った。


もう一つの声、喜びに満ち、優しい声。

「お嬢様……男の子です。若旦那が生まれました。」


霧がゆっくりと晴れる。花の香りと、見慣れぬ平穏が漂う。


まだ目は開けられない。しかし、彼は感じていた。

世界が変わったことを。


空気の温かさ、芳しい香り、柔らかさ。


指先が頬に触れる。小さな体は反応できないが、奇妙な安らぎが内側に広がった。


近くで、ゆっくりと足音が近づく。優雅に。


そして声が聞こえる。

落ち着き、愛情深く、どこか懐かしい声―胸が締め付けられる。


「お嬢様」

メイドがささやく。「若旦那……完璧です。」


女性はベッドに座り、その姿は優雅だが柔らかく、嵐の後の春の日差しのようだ。豪華ではないが、金では得られない気品を放つ。


腕を差し伸べ、瞳は温かさと畏敬で輝く。


「おいで」

囁くような声で言った。

「私の大切な子よ。」


メイドは微笑み、そっと赤ん坊を母親の腕に置いた。


新生児の瞳がゆっくり瞬く。

一度、二度。

まだよく見えない――柔らかい光とぼんやりした色だけ。しかし、何かが頭の中で動き始める。


かすかな衝撃。閉ざされた部屋に吹き込む冷たい風のよう。


そして――

閃光。


速すぎて理解できない。

あまりに壊れていて保持できない。


炎。

叫び声。

鉄と鉄の衝突。

赤く燃える空。


そして消えた。


まぶたがゆっくり開き、小さな指が本能的に丸まる。


誰もその顔の緊張に気づかない。しかし、深い何かが揺さぶられた。


瞳が再び開く。

ぼんやりとした光、動く影、知らない天井。


すべてが異常だ。


ただ見えているだけではない―何かがおかしい。


深く内側で、何かがねじれる。


記憶か?夢か?


小さな胸がゆっくり上下する。部屋は温かく、心はあまりに…静か。

しかし―


ドクン……


何かが、内側で目覚めた。


瞳が再び瞬く、今度は少しゆっくりと。光はもはや新鮮ではなく、間違っているように感じる。見るべきではないものを見てしまったかのように。


視線はぼんやりと漂う。しかし、その新生児の瞳には混乱が渦巻いていた。


ほとんど、思考しているかのように。


「これは…何だ?」

「俺は…死んだんだよな…?」


なぜ考えられるのか、なぜ思い出すのか――

分からない。

しかし、覚えていた。

そして、何一つ理解できなかった。


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