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和乃国伝  作者: 小春
第九章 きたとうみ
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二十四.文

〔青海の国・御記屋敷〕


 青海に着き、そのまま都に戻ろうとしたが休むように瑞に引き留められ、屋敷内で皆一息付いていると当主の採が顔を出す。


「先人様。お疲れ様でした。怪我は、大丈夫でしょうか」

「はい。採様。もうすっかり良くなりました。大丈夫です」

「それは良かった。父も戻っています」


 採がそう言うと宗が現れる。先人は頭を下げる。


「宗様」

「先人様。この前は留守にして申し訳ありません」

「いいえ」

「お話があります。少々こちらへ」

「?はい」


 返事をし、宗と部屋を出る。瀧と鋼に目線を送り、二人とも頷く。採と航、瑞にも小さく礼をして出る。宗に隣の部屋に通される。


「古志の国に行き、熟練様と話をしていました。その時に味の国の事を聞き、案じておりましたが、見事です」

「え」


 先人は驚く。味の国での件は今の処、都と味の国だけの情報の筈、と戸惑っていると宗が続ける。


「綜大臣から内密に知らせが、筆頭と長老に。ご機嫌伺いでしょうね」

「綜大臣が」

「我らを敵に回したくないと言う事です。これで、整いました」


 深く頷く宗に、先人は目を見開く。


「それは、」

「はい。統括の立場が安定するでしょう。ならば次を」

「次、ですか?」

「はい」


 次を言おうとすると部屋の外から採が声を掛ける。


「お話し中すみません。父上、守様から文が届きました」

「珍しいな。衡士様からとは。先人様、少々お待ちを」

「はい」


 宗が部屋から出る。



 一方、隣の部屋では、瀧と鋼、瑞と航が休んでいた。すると空から鷹が現れる。味の国に飛ばした御記氏の鷹である。瑞がそれを見つめ、


「あ、鷹が戻りました。…文?」

「珍しい。いつもは知らせたらそのままなのに」


 鷹に文が付いていたので瑞が文を確認する。長、当主は守氏の長の文を読んでいるだろう。緊急かも知れないと思い、当主の子として瑞が確認する。それを見て航は違和感を覚える。基本、放任主義なのだ。味氏は。なのに…と思っていると文を読んだ瑞が航に向く。


「…航殿。すぐに戻られるよう知らせです」

「へ?」


 瑞の言葉に驚く航。瀧は何かを察し、鋼も何かしらを感じ瑞と航を見つめる。

 同じ時、別室で宗を待っている先人。しばらくして戻って来た。


「先人様」

「はい。宗様」

「急な所用が入りました。話はまた。文を送ります」

「わかりました。…大丈夫ですか?」


 若干様子が変わっている事が気になり先人が問うが、宗は穏やかな顔で頷く。


「はい。少々、話しをしなければならなくなっただけです」

「そうですか。わかりました。では、そろそろ都に戻ります。ありがとうございました」

「いいえ。何のおもてなしも出来ず、申し訳ありません」

「いいえ。充分頂きました。ありがとうございます」


 頭を下げ、部屋を出る先人。宗はそれを見届け、文を書き始める。

 先人は部屋を出て、すぐに瀧と鋼を呼び、採と瑞、航に都に戻る事を告げる。

 宗以外の皆で御記屋敷の門の前にいる。


「休ませて頂き、ありがとうございました」

「ありがとうございました。御記様」

「お世話になりました」


 先人、瀧、鋼が次々頭を下げ、挨拶をする。採と瑞も頭を下げる。航も頭を下げる。


「私も急ぎ戻らなければならなくなりました。失礼致します。…先人様」

「はい。航殿」

「何かあれば言ってくれ。必ず力になる」

「はい」


 航の言葉に頷き答える先人。航は続けて真剣な顔になり


「必ず行くから」

「?」


 強く言われ、戸惑う先人に笑い、


「じゃあ、また」


 と言い航が帰ろうとすると宗が現れる。


「航殿」

「はい。御記様」

「溌殿に、来るよう伝えてもらえませんか? 」

「わかりました」

「頼みます」


 頭を下げ、航は戻る。味の国へと。


「宗様、これで失礼致します」

「先人様。どうぞお気を付けて」

「はい」


 頭を下げ、去って行く先人達の背を見送る。その姿が見えなくなった時、採が口を開く。


「…父上」

「どうされたのですか守様の文に、何が」


 宗を伺う採とわからず戸惑う瑞。宗が瑞に文を広げて見せる。二人がそれを読む。


「 …これは」

「祖父様」

「だから黙っていたのに」


 採が戸惑い、瑞が宗を伺う。宗はため息を付き、空を見上げる。


(話をせねばならぬな)


 領国を壊し、主を壊した男。氏族は滅び、直系が一人残った。その男が再び主の側にいる。


(気持ちはわかる。しかし、)


 かつてと違う。もはや力無く、皇子の護衛。放っておけばいいのだが、そうもいかないのもわかる。が、


(騒げば危うい。我らでは無く先人様)


 事が大きくなれば責は統括。かつてと同じように我らを、五大氏族を使い大王を、国を操ると悪評が付きまとう。同じ目に合わせる訳にはいかない。それに…


(都の者らは、宮中の者らは何もわかっていない。光村様が我らを五大氏族と名付け、統括となったのは再びの反乱の芽を潰すため、国のためだった。そして繋大王様のためでもあったのに)


 国と皇統を守った。それを成したのに。


(光村様。必ず守ります。そしてあるべき処へお戻りください。先人様なら必ず、)


 そのためにも、他を黙らせなければならないと再度ため息を付く宗なのである。

 


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