二十四.文
〔青海の国・御記屋敷〕
青海に着き、そのまま都に戻ろうとしたが休むように瑞に引き留められ、屋敷内で皆一息付いていると当主の採が顔を出す。
「先人様。お疲れ様でした。怪我は、大丈夫でしょうか」
「はい。採様。もうすっかり良くなりました。大丈夫です」
「それは良かった。父も戻っています」
採がそう言うと宗が現れる。先人は頭を下げる。
「宗様」
「先人様。この前は留守にして申し訳ありません」
「いいえ」
「お話があります。少々こちらへ」
「?はい」
返事をし、宗と部屋を出る。瀧と鋼に目線を送り、二人とも頷く。採と航、瑞にも小さく礼をして出る。宗に隣の部屋に通される。
「古志の国に行き、熟練様と話をしていました。その時に味の国の事を聞き、案じておりましたが、見事です」
「え」
先人は驚く。味の国での件は今の処、都と味の国だけの情報の筈、と戸惑っていると宗が続ける。
「綜大臣から内密に知らせが、筆頭と長老に。ご機嫌伺いでしょうね」
「綜大臣が」
「我らを敵に回したくないと言う事です。これで、整いました」
深く頷く宗に、先人は目を見開く。
「それは、」
「はい。統括の立場が安定するでしょう。ならば次を」
「次、ですか?」
「はい」
次を言おうとすると部屋の外から採が声を掛ける。
「お話し中すみません。父上、守様から文が届きました」
「珍しいな。衡士様からとは。先人様、少々お待ちを」
「はい」
宗が部屋から出る。
一方、隣の部屋では、瀧と鋼、瑞と航が休んでいた。すると空から鷹が現れる。味の国に飛ばした御記氏の鷹である。瑞がそれを見つめ、
「あ、鷹が戻りました。…文?」
「珍しい。いつもは知らせたらそのままなのに」
鷹に文が付いていたので瑞が文を確認する。長、当主は守氏の長の文を読んでいるだろう。緊急かも知れないと思い、当主の子として瑞が確認する。それを見て航は違和感を覚える。基本、放任主義なのだ。味氏は。なのに…と思っていると文を読んだ瑞が航に向く。
「…航殿。すぐに戻られるよう知らせです」
「へ?」
瑞の言葉に驚く航。瀧は何かを察し、鋼も何かしらを感じ瑞と航を見つめる。
同じ時、別室で宗を待っている先人。しばらくして戻って来た。
「先人様」
「はい。宗様」
「急な所用が入りました。話はまた。文を送ります」
「わかりました。…大丈夫ですか?」
若干様子が変わっている事が気になり先人が問うが、宗は穏やかな顔で頷く。
「はい。少々、話しをしなければならなくなっただけです」
「そうですか。わかりました。では、そろそろ都に戻ります。ありがとうございました」
「いいえ。何のおもてなしも出来ず、申し訳ありません」
「いいえ。充分頂きました。ありがとうございます」
頭を下げ、部屋を出る先人。宗はそれを見届け、文を書き始める。
先人は部屋を出て、すぐに瀧と鋼を呼び、採と瑞、航に都に戻る事を告げる。
宗以外の皆で御記屋敷の門の前にいる。
「休ませて頂き、ありがとうございました」
「ありがとうございました。御記様」
「お世話になりました」
先人、瀧、鋼が次々頭を下げ、挨拶をする。採と瑞も頭を下げる。航も頭を下げる。
「私も急ぎ戻らなければならなくなりました。失礼致します。…先人様」
「はい。航殿」
「何かあれば言ってくれ。必ず力になる」
「はい」
航の言葉に頷き答える先人。航は続けて真剣な顔になり
「必ず行くから」
「?」
強く言われ、戸惑う先人に笑い、
「じゃあ、また」
と言い航が帰ろうとすると宗が現れる。
「航殿」
「はい。御記様」
「溌殿に、来るよう伝えてもらえませんか? 」
「わかりました」
「頼みます」
頭を下げ、航は戻る。味の国へと。
「宗様、これで失礼致します」
「先人様。どうぞお気を付けて」
「はい」
頭を下げ、去って行く先人達の背を見送る。その姿が見えなくなった時、採が口を開く。
「…父上」
「どうされたのですか守様の文に、何が」
宗を伺う採とわからず戸惑う瑞。宗が瑞に文を広げて見せる。二人がそれを読む。
「 …これは」
「祖父様」
「だから黙っていたのに」
採が戸惑い、瑞が宗を伺う。宗はため息を付き、空を見上げる。
(話をせねばならぬな)
領国を壊し、主を壊した男。氏族は滅び、直系が一人残った。その男が再び主の側にいる。
(気持ちはわかる。しかし、)
かつてと違う。もはや力無く、皇子の護衛。放っておけばいいのだが、そうもいかないのもわかる。が、
(騒げば危うい。我らでは無く先人様)
事が大きくなれば責は統括。かつてと同じように我らを、五大氏族を使い大王を、国を操ると悪評が付きまとう。同じ目に合わせる訳にはいかない。それに…
(都の者らは、宮中の者らは何もわかっていない。光村様が我らを五大氏族と名付け、統括となったのは再びの反乱の芽を潰すため、国のためだった。そして繋大王様のためでもあったのに)
国と皇統を守った。それを成したのに。
(光村様。必ず守ります。そしてあるべき処へお戻りください。先人様なら必ず、)
そのためにも、他を黙らせなければならないと再度ため息を付く宗なのである。




