二十三.見送り
船は順調に進み、波流の港に辿り着いた。先人達が船を降りると、誰かが近付いて来る。瑞である。
「先人様」
「瑞様」
互いに近付く。瑞が先人の様子を伺い、安心した表情になる。
「ご無事で何よりです。当主様(最帆)から鷹が来て、手傷を負われたと聞きましたので迎えに」
「大した事ではありません。大丈夫です。ご心配をおかけしてすみません」
「いいえ。何よりです。…瀧殿、鋼殿もお疲れ様です」
「はい。ありがとうございます」
「若様、お気遣いありがとうございます」
瑞の労いの言葉に瀧も鋼も礼儀正しく返事をする。瀧は基本的に五大氏族の前では話さず、影に徹底し、鋼は宮中御用達であるので貴族に対しては仕事用の言葉遣いで話すのが癖なのである。
瀧と鋼の返事に一つ頷き、瑞は一緒に付いて来た航に声を掛ける。
「航殿も、間者が大変でしたね」
「はい。ですが収まりました。先人様のおかげです。すべて」
こちらも労う瑞の言葉に礼儀正しく受け答えをする航は、話終えると先人をちらと見る。
先人は小さく首を横に振る。
「いいえ。皆様のおかげです。力を貸して下さいました」
「ううん。先人様のおかげ。ありがとう」
「航殿」
先人と航が互いに労う様子を見て、何かを察した瑞が航に向かい頭を下げる。
「…では、航殿。お疲れ様でした。この後は私が青海の国まで送り届けますのでご案じ無く」
「瑞様。わざわざ来てくださり、ありがとうございます」
「いいえ。主君のため、当然の事です。では、航殿、ありがとうございました」
言葉が最後棒読みになっているような感じで瑞は先人達を促そうとするが、それを見た航が少し考え、笑顔で頷く。
「うん。無理」
「?」
何が無理なのか分からず戸惑う先人に航は続ける。
「瑞様。一緒に行きます。青海の国に」
「いえ。しかし、」
「無事に送り届けろと命を受けております。共にまいります」
「しかし、それでは、帰りは」
「泊まらせて頂けますか?他の船人らはここで泊まらせますので、私だけ」
「…わかりました」
何事も無く穏やかに頷く瑞を瀧が見て、嫌そうだなと思いつつ黙って場を伺っている。
瑞の反応に内心気付いているだろうが何も言わない航は、笑顔で礼を言う。
「ありがとうございます。先人様、一緒に行こう」
「はい。いいのですか?溌様も最帆様も心配を」
「うん。鷹を飛ばすし、いいですよね。瑞様」
「…はい。どうぞ」
瑞はまた穏やかにしているが、更に内心嫌々なのが伝わる瀧だが何も言わない。先人は何か引っかかっるが話を優先させている。
「ありがとうございます。先人様、行こう。確かあそこかな」
「あ、はい。そこに」
「…」
航が先人と共に川船の処に向かおうとしているのを黙って付いて行く瑞。それをさっきから黙って見つめていた鋼が困惑している。
(大丈夫か。先人。何で空気が重いんだ?)
鋼が考え込む隣で瀧も苦虫を嚙み潰したような表情で見つめている。
(五大氏族は個の忠誠心が強い。上の世代が若い時の争いはすごかったらしいが、今世代も…どれもあれなのに。…まともな者が居ないのか五大氏族)*自分と自分の父(吹)を棚に上げている
その頃、味の国では長の溌と当主の最帆親子が語り合っていた。
「父上、鷹が来ました」
「ん?どこのだ? 」
「御記様の処です。…航ですね。今日は青海の国に泊るそうです」
最帆の言葉に察して溌は頷く。
「ふーん。そうか。成程」
「そうですね。離れがたいようで」
「ははは。血だな」
「はい。また出て来るとは」
昔から息子である航の様子を見ていて出るとは(狂い)と思っていなかった最帆は一つ息を吐く。
「お前だってそうだろ。最帆。嫁には」
「当たり前です。まあ、もう一人出来ましたが」
「浮気は駄目だぞ」
「何を言っているのですか。主君ですよ」
真面目な顔で言う最帆に溌は意外だという目で見つめる。
「お前もか」
「はい。良き方です。父上は光村様だけでは? 」
「うーん。それはそうだが、もう一人出来た」
「では同じで」
「うん。あ、あいつ(溌の妻・最帆の母)は嫌いじゃないぞ」
「わかっています。あちらも光村様に一目惚れしていますから、お互い様です」
「うん。そういう事」*溌の妻は帆凪が突然連れて来て嫁になった。
親子二人笑い合う。そうしていると使用人が扉の前で声を掛けてくる。
「当主様、文が届きました。守気の国より、長様からです」
「はい」
最帆が扉の前で受け取り、溌の前に戻る。使用人は文を渡し下がる。
「父上」
最帆が溌に文を渡す。
「うん」
「いつもの定期報告ですか?」*五大氏族は時々現状報告をかねてやり取りをする。
「そうだろうが、でも前より日が経っていない。何かあったか…」
文を読み始める溌だが、段々と表情が変わる。静かな、そして、抑えられた血が
「父上」
「…読め」
溌の指示通り文を読む最帆。すると、
「…これは」
「航を呼び戻す」




